第十一話:天災降臨
王都を舞台に繰り広げられる戦いは、ついに大きな転換点を迎える。
レノとエンは、限界へと近づきながらワトードへ挑み続ける。
一方、城内では黒龍とデイヴィの前に、かつて死んだはずの男――ディーガが姿を現す。
そして工場では、救出された人々を逃がすため、革命軍たちが最後まで戦い続けていた。
その戦いの果てに――
一人の男が、鬼化する。
「空全体が……俺の領域だ!」
第十一話――
『天災降臨』
それぞれの戦いが、再び大きく動き出す。
(城壁内――王都の街道)
レノとエンは並んで立っていた。
二人の身体から漂う鬼化の気配は、未だに広がり続けている。
真紅の炎と黄色い雷光が交錯し、二つの力によって周囲の空気さえも僅かに歪んでいた。
エンが低い声で口を開く。
「なあ……今、何か作戦はあるのか?」
レノは僅かに驚き、考え込む。
「作戦……?」
ドォン――――!!
その言葉を言い終える前に――
巨大な炎が突然、前方から押し寄せてきた。
「危ない!!」
エンは咄嗟に横へ飛び退く。
レノも瞬時に雷光へと変わり、反対側へと回避した。
ドォン――――!!
灼熱の炎が二人のいた場所へ激突する。
爆発が一瞬にして、二人の姿を飲み込んだ。
「くそっ!」
エンは体勢を立て直し、遠くを見つめる。
巨大な龍の姿が、すでに再び迫ってきていた。
ワトードが龍の口を大きく開く。
その喉の奥では、灼熱の炎が未だに渦巻いている。
「ハハハハハ!! どうした!?」
「まさか、お前ら……この程度なのか!?」
ワトードは勢いよく翼を羽ばたかせる。
巨大な身体が、一瞬にして飛び出した。
「俺を失望させるなよ……特等素材ども!」
「だったら……!」
エンは両拳に真紅の炎を燃え上がらせ、そのまま真正面から突っ込んでいく。
「うおおおおおおお!!」
同時刻――
別の場所では。
レノが地面を強く踏み込んだ。
バチィィ――――!!
雷光が一瞬にして弾ける。
「どうやら……今はこれしかなさそうだ!」
その姿が瞬時に消える。
次の瞬間――
レノはワトードの側面に現れ、拳を力いっぱい叩き込んだ。
ドン――――!!
凄まじい衝撃が炸裂する。
しかしワトードは咄嗟に龍の爪を振るい、レノを激しく弾き飛ばした。
レノは空中で身体を翻し、地面へと着地する。
そして顔を上げる。
黄色い雷光が、再び全身へと絡みついていく。
次の瞬間――
ワトードは大きく翼を広げ、巨大な龍の身体を再び二人へと突進させた。
雷光と炎が同時に弾ける。
三人の戦いは――
再び、全面的な激闘へと突入した。
(同時刻――城内の一角)
ドォン――――!!
最後の兵士が壁へ激しく叩きつけられ、そのまま倒れ伏した。
周囲は完全に荒れ果てている。
黒龍はゆっくりとデイヴィへ歩み寄る。
そして、刀の刃をデイヴィの首へと突きつけた。
黒龍は目の前の国王を見下ろし、静かな口調で言う。
「国王陛下……俺はまだ話の途中なんですが……」
「どうしてそんなに急いで逃げようとするんです?」
デイヴィの顔は青ざめ、身体は止めどなく震えていた。
その時――
ザッ……ザッ……ザッ……
デイヴィの腰にある通信機から、突然音が鳴り響いた。
デイヴィは一瞬、呆然とする。
黒龍が通信機へ目を向ける。
「……出ろ」
デイヴィは唾を飲み込み、震える手で通信機を取る。
「デイヴィ……」
低く、静かな声が通信機の向こうから響いた。
デイヴィの瞳孔が大きく開く。
「ディ……ディーガ!」
ディーガの声には、何の感情も感じられなかった。
「今の状況は?」
デイヴィは口を開く。
しかし、なかなか言葉が出てこない。
彼の視線は、首元に突きつけられた刀へ釘付けになっていた。
「俺は……」
「計画は……失敗した……」
通信機の向こう側が、一瞬静まり返る。
「……そうか……」
怒鳴り声もない。
問い詰める声もない。
ただ異様なほど静かな二文字だけだった。
デイヴィの額から冷や汗が流れ落ちる。
「飛龍騎士団が……すでに城へ侵入した……」
「……」
「守備隊も……崩壊している……」
デイヴィの声は、次第に震え始める。
「工場も……すでに……制圧された……」
「ディーガ……頼む! 援軍を寄越してくれ!」
通信機の向こう側が、しばらく沈黙する。
そして――
ディーガがゆっくりと口を開いた。
「国王陛下……」
「チェス盤で最も重要なものは何か……知っていますか?」
デイヴィは呆然とする。
「……駒……?」
「違う!」
ディーガの声は、相変わらず静かだった。
「重要なのは――盤上のゲームそのものです!」
「駒にまだ利用価値があるのなら、残しておく価値はある」
「だが、一つの駒がすでに役目を失ったのなら……」
「その駒のために、次の一手を無駄にする必要はない!」
デイヴィの瞳が僅かに震える。
顔から血の気が完全に引いていく。
「……ディーガ? 待て!」
「だから――」
ディーガは一瞬だけ言葉を止める。
そして、冷たい声で告げた。
「あなたにはもう……利用価値がないんですよ、国王陛下……」
「我々の協力関係は、ここで終わりです!」
「……!」
デイヴィの身体が完全に硬直する。
「ち……違う……!」
「待て、ディーガ! お前は言っただろう――」
「それは、あなたが任務を遂行できることが前提だ!」
ディーガは容赦なく言葉を遮る。
「今のあなたは、もう駒ですらない」
「チェス盤の上に残された……価値のない、ただの捨て駒だ!」
「……」
デイヴィの身体が震え始める。
しかし、ディーガはそれ以上何も言わなかった。
通信機は、未だに切られていない。
その時――
黒龍が手を伸ばし、デイヴィの手から通信機を奪い取った。
そして、それを口元へ近づける。
「ディーガ……」
通信機の向こう側――
「……」
しばしの沈黙。
やがて――
ディーガの口元が僅かに吊り上がる。
「フフフ……久しぶ――」
「なぜだ!」
黒龍が突然、口を開いた。
その声には、初めて僅かな変化があった。
「……」
ディーガの言葉が止まる。
黒龍の声が、さらに低くなる。
「なぜだ……」
「俺はあの時……」
「確かにお前を――」
ディーガの目が僅かに細くなる。
長い沈黙の後――
ディーガが小さく笑った。
「ああ……あの時のことか……」
その声は相変わらず穏やかだった。
しかし、そこには何か得体の知れない笑みが混じっていた。
「そうだな……」
「確かにあの時、お前は……俺を殺した」
短い沈黙。
「だが……」
ディーガの声が僅かに低くなる。
「あの日に起きたことは……」
「お前が想像しているほど、単純なものではなかったんだよ!」
黒龍の瞳孔が大きく開く。
「ディーガ!」
しかしディーガは、ただ静かに笑うだけだった。
黒龍は通信機を強く握り締める。
「お前が今、どれだけの勢力を持っていようが……」
「どんな計画を企てていようが……」
「俺たちは必ずお前を見つけ出す!」
ディーガはしばらく沈黙する。
そして――
「そうか? なら、来るがいい……!」
その声には、恐れなど微塵も感じられなかった。
黒龍の目が鋭くなる。
ディーガは低く笑い始める。
「楽しみだな……」
「今の飛龍騎士団が……」
「一体どれだけの力を残しているのか……見せてもらおうじゃないか!」
ザッ……ザッ……
通信機が突然、静寂に包まれた。
黒龍はゆっくりと通信機を下ろす。
その眼差しは冷たく鋭い。
「絶対に……お前の思い通りにはさせない……ディーガ!」
(同時刻――工場の外)
煙が辺り一面を覆っていた。
救出された人々が、一人、また一人と工場から飛び出してくる。
「急げ! もう少しだ!」
「絶対に止まるな!」
マンディとマジェシは、人々を護衛しながら戦場から急いで遠ざかっていく。
その背後では――
「グオオオオオ!!」
無数の人造魔鬼が工場の中から追いかけてきていた。
「奴らを食い止めろ!!」
革命軍は一切躊躇することなく、人造魔鬼たちへと立ち向かう。
刃が走り、銃声が轟く。
魔鬼の爪が何度も地面を引き裂く。
「絶対に近づけさせるな!!」
「みんな……耐えろ!!」
誰もが必死に戦っていた。
自分たちがあとどれだけ戦えるのか――
誰にも分からない。
それでも、誰一人として後退しなかった。
そしてその時――
ドォン――!
一つの人影が工場の中から飛び出してきた。
カイザーは両手で巨大な斧を握り締め、目の前の人造魔鬼を力いっぱい叩き斬る。
「うおおおおおお!!」
ドゴォン――!!
魔鬼が吹き飛ぶ。
しかしカイザー自身も数歩よろめいた。
呼吸はすでに激しく乱れている。
身体の一部を覆っていた鎧は、見る影もなく砕けていた。
傷口からは血が流れ続けている。
それでも、彼は歯を食いしばった。
「まだだ……」
再び斧を構える。
「俺は……まだ倒れるわけにはいかない!」
だが、彼は一度振り返った。
マンディ……マジェシ……
そして、救出された人々……
その全員が、すでに工場から離れている。
カイザーは僅かに笑った。
「みんな……逃げ切ったのか!?」
「グオオオオオ!!」
カイザーは勢いよく振り返る。
その背後から、人造魔鬼たちが一斉に飛び出してきた。
しかし――その時だった。
ドォォォォン――――!!
工場全体が突然、大きく揺れ始めた。
その場にいた全員の視線が、一斉に工場へ向けられる。
「何だ!?」
煙の中から、一つの人影がゆっくりと歩み出てくる。
「ヨギさん!」
その身体に異変が起き始めていた。
緑色の紋様が皮膚に沿って広がっていく。
両目が徐々に黄色へと染まる。
額からは、すでに二本の角が伸びていた。
恐ろしいほどの力が、身体の奥底から次々と湧き上がっていく。
「ヨギ……」
ダイゴは呆然と彼を見つめる。
ヨギは答えない。
ただ、ゆっくりと顔を上げる。
そして目の前にある――
未だに無数の人造魔鬼が湧き出している工場を見つめる。
「……全員!」
彼の声は低かった。
「下がれ!」
『鬼化――発動!』
次の瞬間――
フワッ――
一陣の微風が吹き抜けた。
続いて――
周囲の空気が激しく歪み始める。
「……ん?」
ダイゴが顔を上げる。
その目に映ったのは――
いつの間にか、空全体が変貌していた光景だった。
空を覆っていた煙が、何か見えない力によって強引に上空へと巻き上げられていく。
雲が回転を始める。
一周、また一周。
そして、その回転速度は徐々に増していく。
まるで――
空そのものが巨大な渦へと変わっていくかのようだった。
「これは……」
その場にいた全員が、後方の森へと退避していく。
次の瞬間――
ドォォォォン――!!
突如として、凄まじい暴風がヨギの周囲から爆発した。
地面に転がっていた瓦礫、折れた木々、武器、そして残骸までもが、すべて宙へと巻き上げられていく。
「伏せろ!!」
「何かに掴まれ!!」
全員が必死に地面へしがみつく。
そして――
人造魔鬼たちは、すでに地面から引き剥がされ始めていた。
「グオオオオオ!!」
そのうちの一体が、必死に地面へ爪を突き立てる。
次の瞬間――
シュッ――!!
見えない風の刃が、一瞬にしてその身体を通り抜けた。
巨大な身体が――
真っ二つに切り裂かれる。
「グオオオオオオ!!」
続いて――
シュッ! シュッ! シュッ! シュッ!
無数の風刃が四方八方から同時に現れる。
人造魔鬼たちは、反応する暇すらなかった。
すべての人造魔鬼が暴風の中へと巻き込まれていく。
身体が宙を激しく回転する。
そして次の瞬間――
無数の風刃によって、次々と引き裂かれていった。
「グオオオオオ!!」
その絶叫すらも、瞬く間に暴風へと飲み込まれていく。
そしてヨギは――
ただその場に立っていた。
ゆっくりと顔を上げる。
黄色く染まった両目が、空を見上げる。
「空全体が……」
その声は低く響く。
「俺の領域だ!」
ドォォォォォン――――!!
空中の気流が、一瞬にして圧縮される。
次の瞬間――
巨大な暴風が、空から一気に叩き落とされた!
ドドドドドドドドォォォォン――――!!
大地が次々と引き裂かれる。
森が一面にわたって薙ぎ倒される。
工場の壁は一瞬にして引き裂かれた。
屋根が丸ごと吹き飛ばされる。
巨大な鉄骨が暴風によって空高く巻き上げられ――
次の瞬間、無数の風刃によって粉々に切り刻まれていく。
工場全体――
そして地下に存在していた実験施設までもが――
少しずつ、跡形もなく消し去られていく。
「こ……これは……一体……何という力だ……」
ダイゴは必死に地面へしがみつく。
「これが……飛龍騎士団なのか!?」
彼でさえ、この凄まじい力に耐えるだけで精一杯だった。
そしてヨギは、ゆっくりと両腕を広げる。
『天嵐――』
天空の暴風が、一瞬にして一点へと凝縮される。
『神風!!!』
ドォォォォォォォン――――!!
天地そのものが――
暴風に飲み込まれた。
無数の風刃が、まるで暴雨のように降り注ぐ。
工場に存在するすべてのもの。
そして、人造魔鬼たち。
そのすべてが、この恐怖の暴風の中で完全に破壊されていく。
爆発はない。
炎もない。
そこにあるのは――
ただ、果てしなく続く暴風だけだった。
ドォォォォン――――!!
最後の轟音が大地へ響き渡る。
そして――
暴風が突然、止んだ。
辺り一面が静寂に包まれる。
先ほどまで人々の前にそびえ立っていた巨大な工場は――
跡形もなく消え去っていた。
そこに残されていたのは、ただ荒れ果てた瓦礫の大地だけ。
ヨギはその廃墟の中心に立っていた。
そして、ゆっくりと口を開く。
「……終わった」
暴風が消え去った後――
短い静寂が訪れる。
やがて、煙がゆっくりと晴れていく。
「……はぁ……はぁ……」
カイザーは未だに斧を握り締めていた。
そして、自分の両手を見下ろす。
「もう……力が……残ってない……」
足元から力が抜ける。
「やっと……」
「終わった……よかった……」
「カイザー!!」
マジェシが慌てて駆け寄る。
倒れそうになったカイザーの身体を、倒れる前にしっかりと支えた。
巨大な斧も、その手から落ちる。
カラン――
カイザーはマジェシの腕の中に身体を預け、疲れ切った目をゆっくりと開く。
マジェシは彼を見つめ、微笑む。
それを見たカイザーは、ようやくゆっくりと目を閉じた。
マジェシは彼の肩を軽く叩く。
「お疲れ様! よくやったよ!」
カイザーはもう答えなかった。
ただ、安心したように笑みを浮かべていた。
少し離れた場所では――
マンディもその光景を見つめ、思わず微笑んでいた。
ダイゴもまた、黙って目の前の光景を見つめている。
救出された人々。
そして、この戦いに参加した革命軍たち。
彼らはただ――
目の前に広がる、完全に廃墟と化した工場を見つめていた。
こうして――
長く続いたこの戦いは――
ようやく、ひとまずの終わりを迎えた。
第十一話を読んでいただき、ありがとうございました!
今回はかなり大きな戦闘回になりました。
レノとエン、ワトードの戦い。
黒龍とディーガの再会。
そして最後には、ヨギの鬼化による圧倒的な一撃。
「天嵐――神風!!!」
今回のヨギの戦いは、これまでとは少し違った「鬼化の恐ろしさ」を意識して描いてみました。
一人の力によって戦場そのものが変わってしまう。
そんな「天災」のような存在を感じてもらえたら嬉しいです。
そして、工場での戦いもようやく一区切りとなりました。
ですが――
この王都で起きた出来事は、まだ終わりではありません。
むしろ、ここから物語はさらに大きく動いていきます。
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました!
次回もよろしくお願いします!




