八話 毛
「オーク狩に行くニャ!」
それから数日後、ニヤが興奮した様子で冒険者ギルドから帰ってきた。朝に依頼を見てくると言って出掛けていたのだ。
「オーク?」
「そうニャ! 近くにオークの群れが出たニャ、村の人達に被害が出る恐れがあるから緊急招集が出たニャ」
緊急招集……嫌な予感がする……
「私は……ここに居てもいいかな? ほらスリーピー・ホロウの調査依頼が出るかも知れないし」
「……それは無いニャ! 緊急招集が掛かると他の依頼は停止になるニャ! 残念だけどあかりも参加になるニャ! それと、オークはお肉が獲れるニャ! オークの肉は美味しいニャ!」
行きたく無いけれど、どのみちスリーピー・ホロウの依頼は来ないとなると。普段からニヤにお世話になっている身としては、たまには恩返しも良いだろうと思いオーク狩に参加する事にした。
オーク狩りの当日、ギルド前には普段見た事ないくらいの人が集まってザワザワしていた。
「お前ら静かにしろ!」
普段とは違う、防具を付けたギルド長が現れて一喝しその場を静かにさせる。
「今日集まって貰ったのは、隣村に出たオークの討伐に参加する者で合ってるな? 間違ってたならすぐに帰れ、向こうでリリアが薬草取りの依頼を持って待っているぞ」
クスクスと笑い声が広がるが、参加する資格のないDランク未満の冒険者は来るなと言っているのだろう。
私もリリアさんの方へ行きたかったのだけれど、リリアさんを見ると残念そうに首を横に振られた。
「確認されたオークは五十体以上! 上位種も確認されている! 間違っても単独行動はせず三人以上で行動する事! 報酬は掲示した通り、早い者勝ちだが押し付けや横取りはしっかり監視するからな! では隣村まで移動する!」
ギルド長の掛け声で冒険者達が移動を始めると、台を降りたギルド長が私達の方へと歩いてきた。
「お前達は二人しかいないから俺が入ってやる」
「えっ?! ギルド長も戦えるの?」
擦り傷がいっぱい入った防具と、背中には大きな大剣を背負っていたのでまさかと思ったけれど。
「ギルド長は元Aランクの冒険者ニャ。とても強いニャ!」
オークがどれ程強いのか知らないけれど、元Aランクのギルド長がいるのなら少しは安心かな。
荷馬車に乗って隣村まで移動する、帰りはオークの素材で一杯になる予定だって。
荷台に座っていると、ガタゴトとした揺れがお尻に響く。
「お尻痛い……」
「お前はどれだけお嬢様なんだ?」
ニヤもギルド長も平気そう。
到着するまで暫く時間があると言うので仕様書でオークについて調べてみた。
『オーク、二足歩行する豚の魔物。
倒すと魔石とオーク肉を落とす。オーク肉は高級品でその脂は最高のビタミンを含み美容にも良い。
上位種に、ジェネラルやキングがいる。
特にキング・オークの肉は最上級品で取引され、さらに毛は硬めでしなやかさを保ち、最高の快適クッションの素材になる』
「快適クッション!!」
思わず荷台の上で立ち上がって叫ぶ!
「ビックリした! 突然何叫んでるんだお前は!」
「ギルド長! 今日の群れの中にキング・オークはいる?!」
「上位種は確認されているが、キングまでは未確認だな。ただキングはなかなか発生しないから、いてもジェネラルだろうな」
「えー、キングが良かったなー」
「不謹慎な事言わんでくれ!?」
暫くして村に到着すると、村では殆どの人が避難しており村長や武器を持った大人だけが残っていた。
「ギルド長さん、オーク共はもうすぐそこまで来ております。早く奴らをやっつけてくだされ!」
既に到着している冒険者の人達も、最終準備をしながらギルド長の合図を待っている様子だった。
「よしお前達! 準備の出来た者からオーク狩りを始めてくれ!」
「「オオオオオッ!!」」
勇ましい声が上がると、三人ずつで組んだ冒険者がオークが来ると思われる方向へと駆け出してゆく。
「私達も早く! キングが取られちゃう!」
快適クッション! 快適クッション!!
「いや、だからキング・オークはいないって……」
準備を終えたギルド長とニヤが、武器を持って一緒に走る。
「オリャー」
「やったぞ!」
「あっちだ」
「向こうにもいるぞ!」
走り出してすぐに、アチコチから冒険者達の声が聞こえてきた。
今のところはオークの群れにも対抗出来ている様子で、やっぱりキングは居ないのかなあと思っていたら。
「ちとヤバいか?」
不意にギルド長さんが呟いた。
「オーク共も連携を取っている? 必ず複数で纏まっているし、無闇に追いかけてこない」
どうやら普通のオークだったら沢山居ても基本は単独、連携なんて考えない魔物だけれど。キングが発生すると軍隊のように纏まって連携も取るようになるらしい。
ギルド長の不安が、突然奥の方からの激しい声で現実になった。
「ぐああー!!」
「ヤバい、でかいオークがいるぞ!」
「黄金の羽根の奴らがやられた!」
どうやら本当に出たみたいだ。
「先に行くわよ!」
腰の剣を抜いて一目散に駆け抜ける。
途中で目の前に出てくるオークは、聖剣カルンウェナンでサクッと倒す。
「うわぁあー」
オークに襲われている冒険者を救い。
「こっちよ!」
村に向かおうとするオークをこちら側に誘導しながら、キングがいると思われる方向へと進む。
その途中でフードが外れ、白銀の髪を振りかざしながら剣を振っていた。
日の光を反射してキラキラと輝く髪と聖剣カルンウェナン。
「あの冒険者誰だ?」
「姫騎士様がオレを助けてくれた!?」
「女神だ――」
多くのオークを引き連れて奥へと走っていると。
「グォオオオオーーーー!!」
一際大きな叫び声が聞こえ、明らかに他のオークよりも大きなオークが現れた。
頭の上から背中まで、まるでモヒカンのような毛がフサフサと生えているあの姿は!?
「くそッ! キングが発生していやがったか!」
追いついたギルド長の言葉で確信する。
「アレがキング・オーク!」
近寄ってくるオークをサクサクと切り倒しながら、キングの方へと進む。
「あいつ……あの剣はなんだ?」
後ろから聞こえてくる声なんて気にしない。
さあ! キング・オーク! その毛をよこしなさい!
キングが振りかぶった腕を、ザッと踏み込んでかわすと背中に向けて剣を――
危ない……毛を切り落とす所だった。
毛は出来るだけ無傷で手に入れたい。
狙うのは足と頭、その太い首を切り落としてあげる!
「アイツは何で攻め込まないんだ?」
私がタイミングを見計らっているのを、苦戦していると勘違いしたギルド長が割り込んでこようとした。
咄嗟に「これはアイツと私の勝負よ! 割り込まないで!」と叫ぶ。
「姫騎士様は、何で動かないんだ?」
「きっと俺たちを守るために自分だけ犠牲になろうとしているんだ」
「弱らせて相打ちを狙っている?」
「女神だ……」
何やら勘違いされているようだけど、私は最良の状態でキングの毛が欲しいだけでタイミングを読んでいるだけ。
「グォオオオオオ!!」
痺れを切らしたのか、キングが突っ込んできた。
「待ってた!!」
こちらも踏み込んで剣を横一閃に振る――白銀の髪が舞い上がる。
ドサッ。
倒れたキング・オークが、魔石とオーク肉、そして快適クッションの毛を残して消えた。
「「うおおおおおおお!!」」
一際大きな歓声が上がる!
今の勝負を見ていた冒険者達が感激の叫びを上げたのだ。
キングが消えたオーク共は連携が取れなくなり、ほどなく冒険者達に全て倒された。
「本当にありがとうございました」
村長からも、村に被害が出る前に討伐が終わった感謝を伝えられる。
「冒険者様のあの勇姿は、村で代々語らせて頂きます。村を救うためにキングと一対一で戦った姫騎士さまの武勇伝を」
何やら壮大に勘違いされているようだけど……
私は、キング・オークの毛をしっかり抱きしめて、オーランドの街へと帰った。
キング・オークの毛、コシがあってしっかりしている。これをクッションにすれば最高に素敵な快適クッションになるはず!!
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『キング・オークの毛』
その太い毛は、適度な弾力とハリがあり、クッションの内容物に適している。




