九話 快眠クッション
ガタゴトと進む荷馬車の中で、私は溢れる思いを抑える事ができないでいた。
「ふんん〜」
「ご機嫌だな」
「だってオークキングの毛だよ! 快適クッションだよ! 今でもこの絶妙な弾力が完璧なんだよ!」
オーク討伐作戦からの帰り道。
行きは最悪だった荷馬車の移動が、帰りは天国になっていたのだから。
ふと思いつき、オークキングの毛を袋に詰めて簡易クッションにしてお尻に敷いたのだ。
これがあら不思議?! 街道の凸凹を殆ど感じない快適な座り心地に変化したの。
おかげで帰り道ではお尻が痛くならず。そりゃ鼻歌も出ますってもんですよ!
そんな至福体験をしている私を、不満気味な目で見ながらギルド長が聞いてくる。
「本当に取り分はそのオークキングの毛だけで、後の魔石やらオーク肉は要らないんだな?」
「しつこいなぁ、私の分は皆んなで分けてあげてって言ってるでしょ!」
(本気か? オークキングの肉を要らないって?)
(魔石も全部譲ったらしいぞ)
(さすが姫騎士様、俺たちのために?)
(怪我した村人のために寄付するんだってよ)
(すげー、金貨何百枚分をポンと寄付かよ!)
周りの冒険者の人達が、何やらまた盛大に勘違いしているっぽいけれど……
私は、このオークキングの毛でクッションを作って貰えたら大満足なの!
オーランドの街へと帰りつき、冒険者ギルドで必要な手続きを終えた私はオークキングの毛を持って何時ものお店へと駆け込んだ。
「おじさん! これでクッション作って!」
テーブルに広げた素材を前にしてガシガシと頭を掻くおじさん。
「ウチはそんな店じゃ無いんだがなぁ……」
「だって、此処しか知らないんだもん」
胸の前で手を組んで、潤んだ瞳で見上げながらお願いする。
「チッ、しょうがねえなあ」
おじさんは後ろを向いているけれど、後頭部が赤く染まっているよ。
「ありがとうおじさん!」
このお店のおじさんは本当にツンデレだよね。
宿に帰るとお姉さんも無事の帰りを喜んでくれた。
本音は、お土産のオーク肉みたいだったけどね。
早速ニヤが報酬で貰ってきたオーク肉を調理して貰う。
鉄板の上で弾ける脂の音。表面はパリッと焼けているのにナイフで切ると柔らかな手応えに続いて中から肉汁が溢れる。
切ったひと切れを口へと運ぶ。
脂の甘い香りと香辛料の匂い。
たちまち口腔内に広がる幸せ――
「オーク肉美味しい!?」
「そうニャ! オーク肉は美味しいのニャ! 特にオークキングの肉は『お肉の芸術品』と言われてるニャ!」
えっ!? て事はオークキングの肉を皆んなに分けたのは勿体なかった?!
「ふっふっふっ、そう思ってオークキングの肉も貰っておいたニャ! ギルド長も流石に全部は貰い過ぎだと言って分けてくれたニャ!」
思わずニヤを抱きしめる。
「さすがニヤ! 頼りになる!」
それから追加でオークキングの肉も焼いて貰ったけれど、ただ焼いたお肉がこんなに美味しいと感じたのは生まれて初めてだった。
んんーっ、幸せ!
いつもはお酒を飲まない私も、この日ばかりはちょっと良いぶどう酒を飲んでニヤと一緒に盛り上がったのでした。
そして、オーク肉を堪能しお酒も入って最高の日の夜。
宿屋のベッドで、スリーピー・オウルのマクラを抱いた私はワクワクしていた。
あと数日もするとオークキングの毛で作ったクッションが出来上がってくる。そうすればプラス三十分、マクラと合わせて一時間の快適睡眠が得られるようになる!
本当に僅かな時間かも知れないけれど、それでも貴重な一時間、毎日快適に眠れるというだけでも興奮する。
いやいや、寝る前に興奮してどうする。眠る前はアドレナリンではなくてメラトニンを出さなければ、最近は日中も外に出てるし体も動かすようになってるから日中のセロトニンも足りてるよね!
健康な体に健康な睡眠、この一時間が健康かどうかは置いといて、私にとって貴重な一時間になるはず。
さあ! 今日の私! おやすみなさい!
・
・
・
数日後……
待望の快適クッションが完成したと聞いたので受け取りに行った。
そこには、私がリクエストした通りの快適クッションが完成していた。
ひとつ目、馬車移動用の小型クッション。
遠征の帰り道に嫌と言うほど実感したあの座り心地は捨てられなかった。
二つ目、添い寝クッション。
いわゆる抱き枕といわれる細長いクッションね。あの快適な心地良さが寝る時にも――
取り敢えずこの二つを作って貰ってオークキングの毛は使い切ってしまった。
小型クッションをニヤの為にと二つ作ったのもあるのだけれど。
帰り道でクッションを試したニヤのあの反応を見て、クッションは私だけなんて到底言えないしね。
「姉ちゃんも相当あまちゃんだな」
なんて、おじさんに言われたけれど。
そうよー、私はニヤが大好きなんですー。
そして、クッションを受け取った帰り。
おじさんは最大の爆弾を投下したのよ!
「これで、ジャンピング・シープの毛織物でもあればもっと完璧だったんだがな……」
『ジャンピング・シープ』
その毛で織られた織物は、最高品質を誇る。
その柔らかさと強さで、毛布やクッションの布地に使われる。
「ふふふふふふふ……次の獲物が決まったわね」
バーンと冒険者ギルドの扉を押し開ける。
「リリア! ジャンピング・シープの居場所は何処かしら!?」
ギルド内にいた別の冒険者達が私を見てヒソヒソ話している。
(もう次の依頼を!?)
(姫騎士様は戦う事がお好きらしい)
(平民に被害が出る事を嫌っているからだと聞いたぞ)
(オークの討伐料のほとんどを寄付したらしい)
何でもいいけど、取り敢えずはジャンピング・シープの居場所よ!
「ねえリリア、ジャンピング・シープの居場所を教えて頂戴!」
「あかりさん、もうこの話を聞かれたのですか?」
「そうよ!(最高の毛織物なのよ)放っておける訳がないじゃない!」
(やっぱりそうだ、農民が困っている依頼だと言ってたな)
(農作物の若芽を好んで食べるからなジャンピング・シープは)
(それに、畑で飛びまわって土をボコボコにしてしまうんだろう?)
「早くしてリリア(クッション作りに)間に合わなくなっちゃう!」
(さすが姫騎士様だ、困った人を放っておけないんだな)
どうにも周りから聞こえてくる冒険者の声も気になるけれど、ジャンピング・シープの毛が私を待っているのよ!
リリアから受注書を受け取ると。荷物の準備が終わったニヤと一緒にジャンピング・シープが現れる場所へと出発するのでした。




