七話 お買い物
翌日。
やっぱり宿屋のベッドは固くてよく眠れなかった。
『スリーピー・オウル』の羽根の効果でなんとか三十分と、眠りのダイスで一時間眠っただけ。
「今日はあかりの服とか、日常品を買いに行くニャ!」
「そうだね、ふぁああ」
うーん、やっぱりもっと寝たい。
「あかりは眠れないのかニャ?」
眠そうに欠伸をしていた私の顔を、珍しそうに覗き込むニヤ。
「そうだね、ベッドが硬くてマットレスとかないし。ちょっと寝不足かも……」
(実際はかなり寝不足なんだけど)
「じゃあ教会に行ってみるニャ? 教会でお祈りすれば眠れるようになるニャ!」
えっ!? 何それ? そんな魔法が教会にあるの?
てか仕様書には魔法の事とか書いてなかったけど、この世界魔法もあるの!?
「ドルミール教の教会でお祈りを受ければ、司祭様が安眠の結晶を使って眠れるようにしてくれるニャ」
ドルミール教? 女神ユメリアとは違うのかな?
とにかく、買い物の前に教会へ行こうとニヤに連れられてドルミール教の教会へ。
教会で、眠る為の祈りを受けたいと告げると、直ぐに聖堂へと通された。
「あなたが聖女ドルミールの安眠の奇跡を願う信者の方ですか」
「あっ……いや、あの。ちょっと寝不足だったから、その……」
信者と言われてちょっとアタフタする。
「大丈夫ですよ、きっと以前受けた祈りの効きが弱っているのでしょう。祈りを受ければ今日の夜はグッスリ眠れますよ」
司祭の人や横にいるシスターも優しく微笑んでいるのだけれど、その奥の瞳が一切笑っていないように見える。
けど、ニヤもいる手前強く断る事が出来ずにいたら、あっという間に聖堂の奥に座らされていた。
そして、司祭の人が私の前に立ち呪文を唱え始める。
「偉大なる聖女ドルミールよ、この哀れなる信者に新たなる快眠の奇跡を与えたまえ」
司祭が手に持った艶のある真っ黒な石が、呪文と共に光りを放ち私の頭上に降り注ぐ。
パンッ!
目を閉じて光を待っていると、何か弾けた音が聞こえたので目を開けると、司祭が目を見開いて固まっていた。
「あのー?」
恐る恐る司祭に声を掛ける。
リスタートした司祭が咳払いをして、再度呪文を唱える。
再び光が舞い、私の頭上に降りかかる直前――
パンッ!
やはり消えてしまう光。
「何故だ!?」
慌てる司祭とシスター。
結局、司祭では聖女ドルミールへの信仰が足りないとかいって、大きな街の教会でお願いしてくれと言う事になった。
それを説明している時の司祭の悲しそうな顔といったら……自分で自分の信仰心不足だと言っているんだものね。
でもゴメンね。理由は分かってる、一度目の音と一緒に私の目の前に現れた仕様書のメッセージ『ウイルスの侵入を阻止しました、ドルミールの呪いはインストールされませんでした』
『快眠の奇跡』はウイルスとして弾かれちゃったみたい。これもきっと私が女神ユメリアの使徒になってるせいなんだろうね。
ガックリとした司祭に見送られながら教会を出た私達。ニヤも、自分が変な事を言ったばかりに私に嫌な思いをさせたと思ってションボリしている。
「大丈夫だよニヤ! ほら、今日は買い物に連れてってくれるんでしょ。お買い物の後は美味しい物でも食べて楽しみましょうよ!」
「……」
・
・
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「あかり、これなんかどうニャ?!」
お店についた途端ニヤの気分は元に戻った。私は、身の回りには元々無精だったので品物選びは全てニヤにお任せだ。
「そうだねぇ……」
街を歩いている人やニヤの私服を見て何となく思っていたのだけれど、現代日本と違ってカラフルな服なんて一着もない、色も黄なりか茶色っぽい色で、布も麻や綿の厚手で丈夫な感じの服ばかり。
それでも現地人のニヤにとっては楽しいショッピングなのだろう。
「これは、寝着にするニャ」
ニヤが、楽しそうな顔でさっきからアレコレと世話してくれる。
「ねぇ、ニヤは何でこんなに優しくしてくれるの?」
ニヤの笑顔を見ていると、それに甘えて良いのか分からずに思わず聞いてしまった。
「優しい? このくらい普通ニャ。ウチはあかりのパーティーメンバー、新人に教える指導役でもあるからこれくらい当然ニャ!」
それにニヤは兄妹も沢山いたのでお世話にも慣れているらしい。私は一人っ子だったのでそんな世話される事にも慣れていなかった。
それからあちこちで買い物をして、出店で買い食いをしたりお喋りをして、一日中一緒に居ただけで随分慣れてきた感じがしていた。
「いっぱい買ったね」
「そうニャ。だけど依頼で何日も出掛ける事になれば食料とか水とかもっと用意する必要があるニャ、これは本当に日常品だけニャ」
「そっか、色々知ってるんだねニャは。頼りにしてるから、これからもよろしくね」
そう言って、さっきのお店で買った小さな紙袋を渡す。
「何ニャ?」
「えっとね……せっかくパーティーになったんだし」
そっとマントの襟に付けたブローチを見せる。
それに気付いたニヤが紙袋を開けて取り出したのは、同じデザインのブローチ。
「同じニャ!」
「そう、もし良かったら付けてくれると嬉しいなと思った、ん……だけど……」
ニヤがブローチを握りしめて泣いている――
「嬉しいニャ……ウチは、冒険者になってずっと一人だったから」
ニヤが抱きついてくる。
「こういうの憧れていたニャ! あかり、これからもよろしくニャ!」
ニヤは冒険者になってからこれまで、基本一人で活動していたらしい。
最初の頃は、依頼に合わせて他の冒険者と組む事もあったけど。女だと馬鹿にされて約束を守ってくれなかったり、嫌な目にもあってソロが増えていった。
その内ランクが上がってからはずっと一人だったそうだ。
「ニヤは一人で頑張ってきたんだね」
抱きついたまま、ニヤの頭を撫でる。
柔らかな感触、そっと耳に触れるとピクリと小さく反応する。
暫く抱き合っていたが、街ゆく人たちに見られているのに気がついて慌てて離れた。
二人の目が合って、ふふふっと笑い声が漏れる。
お揃いのブローチを付けて数件のお店を回った後。防具屋のおじさんの店へ行き、昨日預けた防具を受け取り、鍛冶屋で研いでもらったナイフを回収。
丸一日デートを楽しんだ私たちは、宿屋で美味しい晩御飯を食べて、大満足の一日を終えたのでした。
まあ、今夜も一時間半しか眠れないのだけれどね……




