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六話 登録

「天然物のアプルの実じゃとー!!」


 バーンと言う効果音と共に扉の向こうから現れたのは『ザ・魔法使い』といった感じの格好をしたおばあちゃんだった。


 ズカズカと室内に入ってきてテーブルに付くと、置いてあったアプルの実を手に取ってジッと眺める。


「完璧じゃ」


 それだけ言うとアプルの実を懐に入れ、代わりに何か紙を置いて帰っていった。


「これで依頼達成だな」


 ギルド長が紙を拾い上げてリリアさんへと渡す。

 勝手に進んでしまうやり取りを一旦止める。


「ちょっと待って、アレを売れば金貨一枚にはなるって聞いたけど?」


「だからモンローの婆さんを呼んだんだ。これで金貨十枚になったぞ」


 ギルド長が悪そうな顔でニヤリとする。ギルドの手数料二割を取られて金貨八枚が手に入った。

 他にスリーピー・オウルの魔石が金貨一枚。

 両替して、ニヤに入街料の立て替えで借りた銀貨一枚を返す。


「さて、これで全部終わったか?」


 ギルド長がリリアさんに確認すると、リリアさんは黙って頷き薄いプレートをギルド長に渡した。


「おう、コレがあったか」


 そう言ってプレートを確認してから、私の目の前にぶら下げる。


「今からお前さんも冒険者だ、本来ならEランクからなんだが、特別にDランクにしてやったぞ」


「ギルド長、あかりさんは規定の依頼をこなしたのでランクアップしただけです……」


「余計な事言うなよリリア……せっかく恩を着せようと思ったのに……」


 ギルド長、心の声漏れてますよ。

 

 プレートを受け取って確認すると、こちらの世界の文字で私の名前が書いてあり、他にも文字と冒険者ランクを示すEが書かれていた。


「『オーランド』って何ですか?」


 不思議な事に、書いてあるのはこの世界の文字だけど私にも普通に読める。まあ、難しいことは特に考えないでおこう。


「この街の名前だ『オーランド』所属の冒険者という事になる。他所の街で書き換えてもいいし、ずっとそのままでも問題ない」


「へー」


「あかりもココに住むニャ! きっと楽しいニャ」


 他に知り合いもいないし、ニヤがそう言ってくれるとちょっと心強い。


「どうしようかな……」


「暫くはココに住む事を勧めるぞ、世間知らずの嬢ちゃんが一人で過ごすには此処らが適当だ」


 ん、世間知らずと分かっていて追求されずに適度に構って貰える人物がいる。話しやすい相手もいるし、暫くはお世話になるかな。


「では、しばらくの間お世話になります」


 立ち上がり、頭を下げて、三人にこれからお世話になると挨拶する。


「やっぱり、どこかの令嬢とかか?」


 そんな私の所作にギルド長が探りを入れてくるけれど、ニコリと笑って誤魔化した。


 その後、ギルド長から提案されたのが。

 ニヤとパーティーを組めという事。


「この際だからお前たちパーティを組め。ニヤはパーティを纏めたり初心者に教える練習にもなる、Bランクに上がるためのポイントにもなるぞ」


 Bランクと聞いてニヤの尻尾がピクリと反応した。

 

「あかりは、依頼達成があるからEランクからスタートだが実質素人だ。冒険者のノウハウをニヤに教えて貰え。

 あと帰りに防具屋に寄って、防具の調整をして貰うんだな」


 と、何から何までお世話になる事になった。


 ・

 ・

 ・


「おっちゃん、お客を連れてきたニャ!」


 冒険者ギルドを出ると、ニヤに連れられてあるお店に来た。ドアをドンドン叩いて叫ぶニヤ、これもう店閉まってるんじゃない?


 扉を開けて中から出て来たのは、頭に布を巻いたおじさん。


「もう店は終わりだ! 明日きな!」


「そんな事いわずにちょっと見てニャ! ギルド長からも言われてるニャ」


 結構な勢いで怒鳴られたのに、負けずに言い返すニヤ。

 私が、申し訳ないと被っていたフードを外してマントを脱ぐと。


 キラリとおじさんの目が輝いた。

 

「おいおいおい! こんな別嬪さんがお客なら先に言ってくれよニヤ!」

 

「ウチもかわいいお客ニャ!」


「オメエはまだガキだろうが」


「あかりと余り変わらないニャ!」


 うん、二人は仲が良いのかな?


「私は十九歳だけど?」

 実際は二十九歳だけど、女神が十九歳にしてくれたから嘘は言っていない……


「ニャ!? もっと若いと思ってたニャ」


 ニヤは十七歳という事だった、それでCランクだというのは結構優秀なのかな?


「このおっさん、口は悪くて美人には弱いけど、腕はいいんだニャ」


「口が悪いは余計だ!」


 黙っていると進まないので、胸当てを出してカウンターへと置く。


「これなんですけど、ギルド長さんがサイズを調整して貰えって」

 

 胸当てを手に取って具合を確かめるおじさん。

 

「結構年季が入っているが、質は良さそうだな」


 そう言って、私の体に手を伸ばそうとしたおっさんの手を止めるニヤ。


「ちょっと待った! 仮当てはウチがやるからおっさんは具合だけ見るニャ! 今のおっさんからは下心が漏れてるニャ! おさわり禁止ニャ!」


 しぶしぶニヤの監視の元で調整する範囲を決めて具合をみた後、仕上がりは明日だと言われて宿へと移動する。


 こちらは三階建てになっている木造の宿屋だった。

 

「おばちゃん、ただいま! お客さん連れて来たニャ、もう一部屋空いてるかニャ?」


 恰幅のいい、笑顔のおば……お姉様が奥のキッチンから顔を出してきた。


「あらあらニヤちゃん、おかえり。新しいお客さんかい? わざわざありがとうねえ」

 

 受付っぽいカウンターの下から台帳が取り出され、指された場所に名前を記入する。


「ちょうどニヤちゃんの隣の部屋が空いた所だよ。何日泊まるね?」


「一ヶ月お願いします」


 これは、冒険者ギルドでニヤと相談して決めた、私が初心者として依頼に慣れるまでの期間だった。


「これは太客だね、まずは二週間分金貨一枚、残りは二週間後に払ってくれたら大丈夫だよ。朝食付きで、洗濯物は朝に出しておいてくれたら洗っておくよ」


 受付に金貨一枚を置いて鍵を受け取る。

 

「私の名前はあかりです。では一ヶ月間よろしくお願いしますお姉さん」


「あらあらお姉さんだなんて、どこのお嬢様を連れてきたんだいニヤちゃん。あかりさんも丁寧にありがとうね」


 ホホホッと笑いながら、バシバシと肩を叩かれる。

 豪快だけれど、気さくで良い人のようだ。


 ニヤと二人、案内された部屋に向かう。

 ニヤとはお隣だから、何かあれば物音で分かるだろう。


「じゃあね、ニヤ。今日は色々とありがとう、お休みなさい良い夢を」


「……? おやすみニャ」


 パタン。


 扉を閉じる直前、ニヤのちょっとした間が気になったけれど目の前にはベッドが!

 マトモなベッドで眠れるのが嬉しくて、小さな疑問はすぐに吹き飛んでしまった。


 だけど、ベッドは木枠に板が敷いてあるのみ。

 マットレスも布団もマクラも無いけれど、どうやって寝るの?


 部屋を探して辛うじて毛布と呼べるような布と、マクラっぽい塊を見つけた。


「これで眠れるかな……」


 硬いベッドに布団も何もない……手持ちは羽根だけ、ダイス振っても今日も一時間半しか眠れないのか……


 取り敢えず女神に文句を言って、ダイスを振る。


「お休みなさい、良い夢を」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 『宿屋のベッド』

 快適睡眠、プラマイ0


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