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五話 初めての街

「あかりはどうしてあの森の中にいたニャ?」


 街道を歩いて街まで向かう間、情報収集とニヤの暇つぶしに付き合う。


「あの森……かどうかは分からないけど、私はスリーピー・オウルを探して歩いて、気が付いたら迷子になっていたの」


「スリーピー・オウルはもう殆ど見かけないニャ」


「そうなんだ……」


 肝心な所はボヤかした感じになったけれど、私達は他愛無い話しをしながら歩き続け、夕暮れ頃には街に帰って来れた。

 

「じゃあ、あかりは門番に事情を説明した後、冒険者ギルドまで来るニャ。ウチは先にギルドに行って調査報告とあかりの事知らせておくニャ」


「分かった、色々ありがとう」


 新規の入街者は登録が必要だと言うので、門番の詰所で書類を書く。


「これで手続きは終わりだ、後は冒険者登録が終わったまたここに入街料の返金を受け取りに来てくれ」


「ありがとうございました」


 お礼を言って詰め所を出ると、聞いていた道を進んで冒険者ギルドの建物へ。


 ドキドキしながらドアノブに手を掛ける、恒例のイベントとかありませんように、と不安を跳ね除け勢いよくドアを開ける。


 バン!


「こんにちは」


「あっ、きたきた! おーい、あかりこっちだニャ」


 手を振って呼び掛けるニヤに駆け寄る。最初にチラッと私の方をみる視線はあったけれど、フードを深く被り容姿が見えない私にはすぐに興味をなくしたようだ。


「ありがとうニヤ。ちゃんと入街料払ってきたよ」


 受付では冒険者登録の準備が整えられていて、あとは私が名前を書けば終わりだという。

 ニヤが必要なことを説明してくれてたみたい。


「あかりさんですね、これで冒険者登録を行います。もし魔物の魔石やアイテムをお持ちでしたら一緒に査定にも回せますよ?」


 言われて、マジックバッグにあるアレのことを思い出し取り出そうとした時だった。


「おーう! Cランク冒険者のニヤじゃないか」


 入り口から大声で叫ぶ声が聞こえてきて、足音を立てながら三人の男達が近づいてくる。

 

 下卑た顔でニヤを見てくる男達。


(黄金の羽根の連中だ)

(まだあの子に因縁つけてるのか?)

(シッ、聞こえるぞ)


 一番後ろにいた男が、小声で話していた冒険者をジロリと睨む。


「ニヤ、また依頼が達成出来ずにリリアに泣きついていたのか?」


 ニヤニヤとした顔でニヤの横に体を割り込ませてくる男、キツイ体臭が流れてきて思わず顔をしかめる。


「お前には関係ないニャ! 依頼はしっかり達成して来てるニャ」


 リリアさんも黙って頷いている。二人とも構いたくない感じがヒシヒシと伝わってくる。ソレなのにこの男といったら。


「へっ、どうせチンケな依頼なんだろ? とっととソロの活動なんてやめて、俺達のパーティに入りな」


 グイッとニヤに顔を寄せてくる男。


「ちょっとお兄さん。こっちは依頼の報告で忙しいから向こうに行っててくれないかしら?」


 男がギロリとした目で私を睨む。


「あん? 何だお前は? 関係ないなら引っ込んでな!」


 凄んでくるけれど私には通用しない、てか口臭いから早くここから離れたい。そう思ってマジックバッグから魔石を取り出した。


「これって査定出来ますか?」


 コトリ。と、テーブルに魔石を置く。


 その瞬間、受付のお姉さんの顔色が変わった。何ならニヤも驚いている。


「えっ、あかり、これ? 見つけてたのか?」


「あー、たまたま? 偶然?」


 受付のお姉さんが震える手で魔石を確認してる。


「たまたまや偶然で見つかるほど簡単ではありませんよ? 最近では貴重すぎて、特にアイテムはとんでもない金額になってますから」


 あー、アイテムってアレね。


「ちなみに、もう一つの方はお持ちでは無いのですか?」


「アレは売りません」


 露骨にガッカリするお姉さん。


 アレは私の貴重な睡眠アイテム、魔王の呪いを解く為にも絶対に手離せない。


「分かりました、ではコチラを査定に出させて頂きます。それからお二人もついて来て下さい」


 そう言うと、お姉さんはトレーに魔石を載せて歩き出す。お姉さんに付いてゆくと、受付けの横を通って奥の部屋へと進んだ。


「おいリリア! 俺達の話は終わってねえぞ!」


 後ろから怒鳴る声が聞こえてくる。


「黄金の羽根のお三人は、前回のペナルティが終わっていませんよね? ギルド内で騒ぐのでしたらペナルティの追加もあり得ますよ?」


 お姉さんの冷めた目線と、淡々と伝えられる言葉に男達の顔が真っ青になり押し黙った。

 

「ギルド長、ニヤさんをお連れしました」


 部屋の扉を開けて中へと案内される、中には背の高いガッチリとした体格のおじさんが立っていた。


「どうしたんだリリア、今日は特に予定は無かった筈だが?」


 リリアさんが手に持ったトレーをギルド長の机にそっと置く。何も言わないリリアさんをチラッと見て、置かれた魔石を確認するギルド長さん。


「おまっ!? これ?!」


 何の魔石か気が付いたのか、途端に動揺して魔石とリリアさんを何度も見比べる。


「こちらの魔石を、本日登録した冒険者のあかり様がお持ちになりました」


 ハッと真顔になったギルド長さんが、私の顔を見て姿勢を正す。


「俺はこの街のギルド長のドギーだ。優秀な冒険者は大歓迎する」


 右手を出され握手をすると、テーブルに案内された。


 ギルド長さんの横にリリアさんが座り。

 私とニヤが並んで対面に座る。


「早速で悪いんだが、あの魔石を手に入れた場所を教えて欲しい。もし自分で倒したのであればその場所を、買った物であれば買った相手か場所とかな。勿論その分の謝礼も渡す。何とか教えて貰えないだろうか」


 ギルド長とリリアさんが頭を下げてお願いしてくる。


「えっと……」


「狩場を秘密にしたいのは分かる、だがスリーピー・オウルの需要はその貴重性から今や金貨五十枚、出す場所によってはそれ以上にもなるだろう」


「そんなに!?」


「お前さんの持ってる羽根を出してくれとは言わない、なのでせめて何処で手に入れたのかだけでも教えてくれないか」


 ギルド長はテーブルに頭を擦り付けるくらいの勢いで頭を下げてくる。


「いや、あの……」


「頼むっ!」


「あかり、教えてあげたらどうニャ?」


「教えたいのは山々なんだけど」


「けど?」


「私……この辺のこと全然分かんなくて、教えたくても場所が分かんないんだけど」


 頭を下げていたギルド長が顔を上げて、椅子に座り直す。


「ウホン! 地図を……」


 リリアさんが席を立つと、背後にある書棚から丸められた大きな紙を持ってきてテーブルに広げた。


「これがこの辺りの地図だ、ココがこの街だが……」


 地図を見るけど、私がいた場所なんて一向に分からない。


「ニヤと出会った森から、半日くらい彷徨った場所なんだけど……」


「ウチがあかりに会ったのは迷いの森ニャ、あかりの話しの通りだとその近くの森から迷い込んだと思われるニャ」


「だとすると……この辺りからこの辺まで候補になるのか?」


 地図の上でぐるりと指で丸を書いて示す。


「あかりは何処から森に入ったんだ?」


 聞かれても、そもそも私がいた場所から分からない。

 あのおじさんがいた村は何処なんだろう?


「その辺から半日位の場所に村ってありますか?」


「村?」


「私、その村でおじさんに親切にして貰って。この背負い袋とか防具を譲って貰ったんです。スリーピー・オウルの話しもそのおじさんに教えて貰って森へ入ったんですけど」


 ギルド長が私の体をジロリと見る。特に胸の辺り……


「すまんが、その防具を外して見せて貰えないか?」


「失礼します」

 

 リリアさんが私の横にきて留め具を外し、防具をギルド長に渡すと内側の皮の部分を丹念にチェックする。


「これは……クロウ爺さんの印が見えるが、かなり古そうでもあるな。誰から貰ったんだって?」


「名前は知らないけれど、ギルド長より年上といった感じでしたよ? そう言えば、若い頃にスリーピー・オウルを狩ってたとも言ってました」


 ギルド長が椅子をギシっと言わせて背もたれにもたれ掛かると、顎に手を当ててうーんと唸り始めた。


「俺より年上で、クロウ爺さんの防具を持っていて若い頃はスリーピー・オウル狩をやってた人物か……」


「ギルド長。もしかして、カロン村のヨシュさんではないですか?」


 受付のお姉さんの話に、ギルド長もあの人ならと納得していた。


「カロン村だとすると、この辺りになるな」そう言って指差した場所。


「なるほど……ココからココまでって歩きでどの位掛かるもんですか?」


 おじさんの村から、私がアプルの実を見つけた林と思われる場所までの距離を聞いてみる。


「ココか? ココまでなら慣れた者で半日、通常でも一日足らずでは歩けるだろうな」


 となると、ココでビンゴかな……


「ちなみにソコで、こんな物も見つけたのですが」


 そう言ってマジックバッグからアプルの実を取り出した。


 途端に部屋の中に充満するアプルの実の芳醇な香り。心なしか昼に食べた時よりも熟成が進んでいる気がする。


「アプルの実まで!?」


 またギルド長とリリアさんを驚かせてしまった。


「コイツも、買取りさせて貰えるのか?」


 ギルド長が恐る恐る聞いてくる。


「私はもう、食べたから」


「「食べた!?」」


 今度こそ、ギルド長とリリアさんに呆れられた。


 アプルの実は完熟すると薬効成分が高くなり、薬師の需要が増えるという事。今では栽培されているアプルの木もあるけれど、天然物の相場はそれより高いらしい。


「モンローの婆さんに知らせてやってくれ、随分前から依頼されていたはずだ」


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