四話 同志
私がこの世界に送られた時、女神に願ったただ一つの希望は『睡眠』
「誰にも邪魔されず、ただグッスリ眠りたい」
そう女神に伝えただけだったのに。
「何で眠れないの? 私が希望した環境くらい魔法でチャチャっと叶えなさいよ! サイコロだけってどうなのよ!? 一体どうなっているのよこの世界は!?」
眠れない悔しさを駄女神のせいにして、取り敢えず疲れだけでも取ろうと横になる。
「仕方ない、時間だけはあるから仕様書でも読んでよ。もしかしたら眠くなるかも知れないし……」
そう思って仕様書を読み出したのだけれど。
「何よこの世界! 私だけ眠れないじゃない!!」
仕様書によると、この世界は魔王フミン・フミンの呪いで女神ユメリアの信者は不眠になってしまう。さらに使徒である私は呪いの影響が強く、普通に眠る事が不可能だと言う。
女神ユメリアは、魔王の呪いを解くために私という使徒をこの世界に送り込み、快適睡眠の聖具を集める事が使命だという事だった。
「何よ使命って!? 快適睡眠の聖具とか何も言ってなかったじゃないの!」
快適睡眠の聖具とは、夢乃あかりがこの世界で快適に十時間眠れる環境を作り上げる事で得られる聖具。
その聖具を得る事で、魔王フミン・フミンの呪いが解けて満足に眠れられるようになる。
「つまりスリーピー・オウルの羽根は夜が明けるまで眠れる効果だったのが、私には魔王の呪いで三十分しか持たないという事ね」
なんて恐ろしい……そして何て残酷な魔王なのかしら。
「分かったわ、私は快適睡眠十時間の為にこの世界のありとあらゆる寝具を集める! そして、絶対に十時間の快適睡眠を手に入れてやるんだから!!」
その後も仕様書を読み込んで、明け方前に睡眠のダイスを振って一時間だけ眠ったのでした。
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「眠い……」
この世界の厄介な所は、マトモに眠れないのに眠気だけはある所ね。おかげで意識もぼーっとしちゃって迷子になっちゃったじゃない。
「どこよここ? ていうか森から出られないんだけど?」
朝一から森を歩き始め、すでにお日様は頭の真上、お昼になっている。
だというのに私はさっきから森の中をウロウロするだけで、全然森から出られないでいた。
「何よもー! 早くここから出してー! お腹すいたー!」
空腹と疲れでヘトヘトになり、がむしゃらに大声で叫ぶ。
◯◯◯
「ンニャ? 何か聞こえたニャ?」
ピクリ、と頭の上の耳が反応する。
彷徨いの森に調査に来ていたウチが、お昼ご飯の準備をしていたら、離れた所から誰かの叫び声が聞こえた。
「お腹すいたと言ってるニャ! お腹すいたは大変ニャ!」
ウチは迷い避けのランプを持って声がした方へと走った。このランプを持っていないと、この彷徨いの森ではあっという間に迷子になってしまうのニャ。
「誰かいるのかニャ! 聞こえたら返事をするニャ!」
◯◯◯
ヤケになって叫んでいたら、遠くから呼び掛ける声が聞こえた。
「誰かいる!? ここよー! お願い助けてー!」
叫んでから暫くすると、森の奥の藪から人が飛び出してきた!
「いたニャ!」
「人がキターー!」
お互いが確認し合える距離まで近寄った所で、飛び出してきた人がピタリと止まる。
「お前、誰ニャ? この辺りでは見かけない感じニャ。お前は悪い奴か?」
そう言うと、手に持ったランプを頭の位置まで上げる。
「私は悪い奴じゃない! いい人! いい人だからお願い助けて!」
私は、手をブンブンと振って悪い奴じゃないとアピールし、手を合わせて助けて欲しいとお願いした。
ジッと私のことを見る人物……ってかあれ?
「お前はいい人なのか。じゃあ助けるニャ」
その子は、ランプを下げると尻尾を振りながら私の方に近寄ってきた。耳もピコピコと激しく動いている。
……てか……あれ、ホンモノ?
「ウチはニヤニャ、この森にギルドの依頼で調査に来ているニャ。お前の名前は? てか何で迷いの森に迷い避けのランプも持たずに来ているニャ?」
矢継ぎ早に質問されるけど、私の目はニヤの耳と尻尾に釘付けになって話しもよく聞けていなかった。
「おーい! 聞こえてるか?」
私の頭をコツンとしてくるニヤ。
いや、コツンは訂正! ぽふん! だ!
あまりの感触に、頭に乗せられた手を掴んでしまい惚けてしまう。
「ふわぁ、にくきゅう――」
「やめるニャ!」
思わずにくきゅうを堪能しようとすると、サッと手を引かれてしまった。
「お前、本当にいい人ニャ? そんなこと言ってウチを食べる気だったりするニャ?」
「こんなかわいい子っ! 食べたりしません!!」
疑いの目で見ていたニヤが、かわいいと聞いてちょっとだけ尻尾を振る。
「まあいいニャ、ウチと一緒に付いてきたらこの森から出られるニャ。それともお前はこの森に住んでるのかニャ?」
「住んで無いです! それと私の名前は夢乃あかりよ!」
「分かったニャ、あかり。じゃあ付いてくるニャ」
ニヤの後ろを付いて歩く、歩くたびに揺れる尻尾がかわいい。暫く歩くと森が開けて焚き火をしている場所に出た。
「ここは比較的安全ニャ、ここでお昼を食べるニャ」
ぐうううう――
お昼と聞いてお腹が鳴る。
そう言えば、昨日の夕飯から何も食べていないのだった。
「はははははっ! あかりもお腹が空いているニャ! お腹空いたは大変ニャ、一緒に食べるニャ」
そう言ってニヤが背負っていた袋を下ろし、中から食器やらオタマに加えて大きな鍋を取り出した。
「えっ……それって?」
明らかに袋のサイズより大きな物を取り出していた。
「ん? マジックバッグニャ? あかりのソレも違うのニャ?」
そう言って私の腰にある鞄を指差す。
マジックバッグ、でも私のコレは間口以上のサイズは入らないって書いてあったけど。
「それ、間口より大きい物も出してるよね?」
ニヤが、聞かれた理由がわかったのかニコリとして。
「これは間口が巾着になってるニャ。物を入れる時は、こうして開くと大きな物も入れられるニャ」
グッと巾着の口を広げると四十cm位の大きさになった。あれならフライパンとか鍋も入るわね。
「だけど日持ちはしないニャ。時間軽減が弱いから余り長く持たないニャ」
話しをしているうちに、鍋からはいい匂いが漂い出していた。
「いい匂い」
「そろそろ食べられるニャ」
そういって今度はお腕を出して汁を注ぎ、私に渡してくれる。
「いただきます」
手を合わせてから、お椀のスープをひとくち頂く。
「美味しい!」
おじさんの家でもそうだったけれど、この世界の料理はシンプルに見えて素材の味と調味料もしっかり使われていて意外と美味しい。
ブラックな環境でコンビニ弁当やエナドリ、カロリーバーばかりだった私には染み入る美味しさだった。
黙々と食べる私を見て、尻尾を振りながら自分も食べているニヤ。
「それにしても……よくそれだけ食べられるね」
ニヤは鍋いっぱいに作ってあった汁をほとんど残らず平らげた。私は一杯貰っただけでもお腹いっぱいだったのに。
「コレくらい普通だニャ。仕事じゃなければもっと食べるニャ」
普段はもっと食べると言うのか……にしては。
私の視線に気が付いたのか、ニヤが慌ててお腹を隠す。
「何ニャ?! ウチは運動も結構やってるからお腹なんか出てないニャ!」
「だよね? ってかソレ以外もお淑やかだけど」
「グヌッ……と言うあかりだって! 男物の胸当てで収まる程度じゃたかが知れてるニャ!」
クッ……
「止めよう……同志で塩を塗り合うのはダメージが大きい」
「そうニャ、同志」
ガッチリと握手をして同志の絆を繋ぐ。
食後のデザートにアプルの実を出したらやっぱり驚かれたけれど、食欲と興味に負けたのか二人で半分こして頂きました。
ご飯を食べて、デザートまで堪能した後。
片付けを手伝いながら、ここの事を教えてもらう。
「ニヤはここで何をしていたの?」
「ウチは、この森にスリーピー・ホロウが出たと聞いて調査に来ていたニャ。スリーピー・ホロウは人に悪夢を見せる叫び声をあげて、聞いた人間を三日三晩眠らせるニャ」
「三日三晩眠らせる魔物?!」
思わずニヤに詰め寄る。
「三日三晩悪夢を見させられるニャ。この森で眠らされると、その間にスリーピー・ウッドに捕まって体の養分を根こそぎ吸い取られてしまうニャ」
「スリーピー・ホロウにスリーピー・ウッド……何て素敵な名前の魔物でしょう」
「……どっちも凶悪な魔物ニャ、見つけたらギルドから討伐依頼が出るニャ」
呆れた顔で見られながら、焚き火の跡を丁寧に片付ける。
(それは、討伐される前に私が見つけなければ……)
「さてと……あかりも私と一緒に街までもどるかニャ? さっき聞いた話だと冒険者登録もまだなら、先に登録しておいた方がいいニャ」
「あっ、そうする。ニヤ、街まで案内お願いね」
「依頼料はもう貰ったから大丈夫ニャ。コレがあればすぐに森から出られる。ここから街までは半日で到着できるニャ」
依頼料とは、お昼に食べたアプルの実の事。それで街までの案内をお願いした。
街の宿屋に泊まればマトモなベッドで眠れるはず。
さすがに外と違って室内のベッドなら、呪いがあっても少しは眠れるんじゃないかと期待を込めて街へと歩いた。
新しいキャラクターの登場です!
ニヤ、猫の獣人
一人称はウチ
いつもお腹を空かせている。
尻尾が自慢でいつもお手入れを欠かさない女の子。




