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三話 快眠まくら

「これってそんなに貴重なんだ」


 テーブルの上にはアプルの実が二個。


 私が途中で食べた一個と、おじさんに食べさせてあげた残り。


 おじさんは「食べるなんてとんでもない」と言ってたけれど、まだあるからと言って何とか食べて貰ったの。

 おじさん、ひとくち食べた途端に涙を流して喜んでたわ。


「これを売れば金貨一枚にはなる。もし王都まで持っていければ十枚でも売れるだろうな」


「へぇー」


 指先でアプルを実を転がしながら考える。


「そうだおじさん、もっと色々教えてよ」


 それから私は、情報料としてワイルドドッグの魔石を取り出して、色々と気になっていた事を教えて貰った。


 ・

 ・

 ・

 

「おやすみなさい」


 おじさんからは「家で寝ても構わないぞ」と言って貰ったけれど。流石にそこは遠慮して馬小屋へと向かった私。

 

 ワイルドドッグの魔石を譲った代わりに、体を包む布や体を拭くタオル。背負い袋に食器、ナイフに水筒を貰った。ちょっと多い気もしたけれど「昔使ってた物だ、要らないならその辺に捨ててくれ」だって。


 本当、素直じゃないおじさん。


 本当はアプルの実もあげたかったのだけど「そんな面倒な物はいらん」と言って受け取って貰えなかった。


 そんなの私だって嫌だと思ってたら。


 ここから次の大きな街まで三日は掛かるから、その間に食べてしまえと、途中で熟れ過ぎて腐らせるよりよっぽどマシだと言っていた。


 きっと私のマジックバッグの中に入れておけば大丈夫だと思うけど。


 そんな事をボンヤリと考えながら、馬小屋の隅に麦藁を集めて簡易のベッドにする。

 

「さて、眠れるかな」

 

 貰った背負い袋をマクラにして、布で体を包んだらそっと横になる。


 馬小屋の臭いと馬の鼻息。虫の鳴き声、カサカサと鳴る藁の音。遠くから聞こえる梟の鳴き声――


「眠れない……」


 夕方、おじさんの縁側ではウトウト出来ていたのに。本格的に寝ようとすると全てが気になって眠れない。


 ―その時、また頭の中に軽い通知音が響いた。


 ポンッ。


 目の前に、半透明のパネルが浮かび上がる。


 それは仕様書の新しいページだった。


『女神ユメリアより追加サービス

「眠りのダイス」(成長型アイテム)

・振って出た目の分だけ、快適な睡眠時間を獲得できます(単位:時間)。

・快適睡眠とは……「邪魔されず、心地よく、目覚めた時にスッキリしている」状態を指します。

・一日に一度だけ使用可能。

・現在、女神の力が弱いため、全ての目が「1」に固定されています。

・あなたの行動や世界への適応が進むにつれ、ダイスの数字が徐々に増加していきます』

 

 私はパネルを呆然と見つめた。

「……最初からこれをくれれば良かったのに」


 ダイスは、三センチ程の淡い光を放つ美しい六面体。


 表面には優しい銀色の模様が浮かんでいる。


 私は震える手でダイスを握り、地面に転がした。


 コロ……コロ……


 出た目は――『1』


 私はダイス拾い上げると大事にマジックバッグにしまい、ゆっくりと目を閉じた。


 ――一時間後。


「チッ、少しはサービスしなさいよね」


 仕様書に書いてあった通り、目覚はスッキリとしている。


 が……失敗した。


 まだ一時間しか経っていないのよ、朝までどう過ごせばいいのよ?


 ・

 ・

 ・


「お世話になりました」


「大丈夫か?」


 朝になり、寝不足な目でおじさんに挨拶すると、大丈夫かと心配された。


「ちょっと寝不足なだけだから、この位は慣れているので大丈夫です」


 それでもフラフラしながら答える。


「ふむ。眠れないのならば、スリーピー・オウルでも探してみたらどうだ?」


 スリーピー・オウル!? 何その素敵な名前!


「スリーピー・オウルの羽根は安眠を誘う香りを出す。それが昔から不眠に悩まされる貴族に好評でな。ワシも若い頃によく狩に出ていたもんだ。最近は数を減らしているが、この辺りの森でよく獲れていたぞ」


 安眠を誘う香り〜〜


 なんて素敵な誘惑の言葉でしょう!


「おじさん! それってどの辺の山?! どんな見た目か教えて!」


 おじさんからスリーピー・オウルの特徴を聞いて、念のため仕様書でも名前を確認。


『スリーピー・オウル(魔物)

 以前は魔物ではなかったが、乱獲され数が減った事で魔物化した梟。

 魔石と共に催眠効果のある羽根を落とす。

 音もなく飛んで近寄り、羽根から出る催眠効果で獲物を眠らせて狩りをする。

 一度眠ると夜が明けるまで目覚める事は無い』


 おや? 魔物になってる? 羽根の効果も安眠を誘う香りから睡眠効果に上がっているし……何より、朝まで目覚めない!!


 これは絶対見つけて捕まえなければ!!


 ・

 ・

 ・


 おじさんに場所を聞き、スリーピー・オウルが棲んでいたという山に来た。


「全然見つからない……」


 スリーピー・オウルを探して山の中を彷徨い歩き、既に辺りはどっぷりと日が暮れていた。


 ザワザワと森の木が風に揺れる音。

 遠くから聞こえる獣の遠吠え。

 風に揺れる木々の隙間から辛うじて届くお月様の光。


「こんなに真っ暗じゃ、その辺の木に居たとしても見えないじゃない」


 ビッ! と指差した木の枝に、怪しく輝く一対の赤い光。


「ん?! あれ? コレってもしかして……?」


 私がソレを認識した瞬間、ソレは音も無くもの凄い速さで私の方へと移動してきた。


 私の頭上を通過して、反対の木へと移動した光。


 クラッ!


 突然襲う睡魔。


 キタッ!!


 あの一瞬でコレほどの睡魔が来るだなんて、コレ絶対(スリーピー・オウルの睡眠効果)よね!


「さあ! カモン! 私の快適な眠り!」


 私も聖剣カルンウェナンを構える。


 何度か私の頭上を飛び交ったスリーピー・オウル。


「これはクルわ!」


 飛び去る度に眠気が襲い、足元がフラフラする。


 その瞬間を狙って鋭い爪で襲って来るけれど、それは剣を振ることで守る。


 そこから何度目かの攻防が続き……


 月が雲に隠れた瞬間、それまであった光が消えた。


「くる!」


 無音の敵に向けて剣を振る――


 ドサッ!


 何かが倒れ落ちる音。


 ゆっくりと音のした方に向かって歩く。


 その時、隠れていた月が顔を出して足元を照らした。


 落ちていた物を拾い上げてマジックバッグに入れる。


 『スリーピーオウルの魔石』

 『スリーピーオウルの羽根』


「やった! これで朝までグッスリ眠れる!」


 早速、比較的安全そうな場所を探して寝る準備をする。


 と言っても。窪地になった場所に枯れ草を集めて布を敷いて、背負い袋をマクラにして……


 マジックバッグから『スリーピー・オウルの羽根』を取り出す。


 スーーーーッ!


 鼻から思い切り羽根の匂いを嗅ぐ。


 急激に襲う睡魔――


「キタッ! キタ、キタ、キターー!」


 早速横になる。


「お休みなさい!!」


 ・

 ・

 ・


 三十分後……


「なぜ?」


 何で目が覚めるの!?


 朝までグッスリじゃなかったの?!


「誰か私を眠らせてーー!!」


 私の叫びは、誰もいない森の中に虚しく響き渡った。


「ンニャ? 何か聞こえたニャ?」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 『スリーピー・オウルの羽根』

 快適睡眠、三十分


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