二話 果物おいしい
すぐに眠る事が出来ないと悟った私は、何とか平原を歩き抜けて道を見つけ、林の中を通る場所を歩いていた。
「あっ! また果実発見!」
幸いだったのは、森に入ってから果実や木の実を見つけられた事。
これをマジックバッグに入れると、その果実の名前が頭に浮かぶので、その名前で仕様書を調べる。
『アプルの実(食用可)
アプルの木の果実、程よい酸味と甘さ。完熟すると更に美味しさと薬効効果が高まる。その芳醇な香りに果実を食べに獣が寄ってくる事もあるので注意が必要』
と、食べられるかどうかが分かるの……っと待ってね。
芳醇な香りに獣が寄ってくる?
まさに今、アプルの木にたわわに実った果実からとても良い香りが漂っている。
私は手早くアプルの実を数個もぎ取ってマジックバッグに入れると、足早にその場を走り去った。
獣と鉢合うなんて絶対やだよ、魔物だったら倒せば消えてくれるけど、獣は返り血や死体が残る……
「ゔっ、嫌な事を思い出した……」
ここに辿り着く前、道を歩いている時だった。
目の前をノコノコと歩いてくる猪とご対面。
不意に現れた猪と目が合って思わず声が出てしまい、猪も驚いちゃったんだろね。
興奮して甲高い唸り声を上げて突っ込んで来たから、思わずカルンウェナンを抜いて斬りつけてしまった。
気がつくと、半分になった猪が倒れていて地面には真っ赤な血と内臓が溢れていた。
時間が経っても消えない猪。
一瞬湧き上がった気持ち悪さと罪悪感がスッと引く。
スキルの効果か、冷静になった私はカルンウェナンで地面に穴を掘って猪の死体を埋めた。
ごめんねと謝りながら猪を埋めた穴に手を合わせる。
思えば、謎な壁に囲まれてワイルドドッグを倒した所までがチュートリアルだったんだよね。
あそこまででアイテムの使い方や剣の使い方、何となく体の動かし方も理解できた。
ここからは、本当の本物。リアルだぞって事なんだろね。
林を抜けて平原を歩きながら、さっき収穫したアプルの実をかじる。
「おいし」
シャクっとした歯応えに、ジュワッと溢れる果汁。爽やかな香りが鼻を抜け、甘さの中に程よい酸味でメチャクチャ美味しい。
結構大きめのリンゴサイズだったのに、ペロリとひとつ食べ切ってしまった。まあ、朝から何も食べずに歩いてお腹も空いてたからね。
……てか、いい加減眠い。
お腹も満たされたせいでさらに眠気が襲ってきた。
そろそろ街とは言わないけれど村くらい見えてもいいんじゃない?
この世界に放り出されてから、丸一日が過ぎている。そろそろお日様もいい感じに傾きかけてきて、眠気もピークだ。
その辺で寝ればいい?
一度頑張って眠ってみた……みたけれど、草の上で小石まみれで虫が這ってる地面では三分も横になってられなかった。
こんな場所で徹夜は勘弁して……仮眠でいいから少しは寝たい。ちょっとした小屋の隅でも良いから眠らせて……
そんな私の願いが通じたのか、日が暮れる頃になって遂に丘を超えた先に集落っぽいものが見えた。
やったー!! 村だ! 家がある! 屋根がある所で寝られる!
野宿が避けられた安心感で、私は変なテンションのまま村の入り口まで走った。
ハァハァと息を切らせて村の入り口に立つ。
村の住民と思われる、鍬を担いだおじさんが不審者を見るような目で横を通り過ぎる。
「あのっ!」
せっかく見つけた第一村人を逃してはならないと思わず声を掛けたのだけど、思った以上に大声になってしまいおじさんをびっくりさせてしまった。
「何だ? お前さんは?」
「ここ……泊まれる所はありますか?」
私の姿が怪しかっのだろうか、おじさんは不審な目で見ながら答えてくれた。
「旅の人かい? 残念だけどこの村に宿はないよ。眠るだけなら、誰かの家の馬小屋でも借りるんだな」
そう言って歩き出そうとしたので、慌てて引き止める。
「おじさんの! おじさんの家の馬小屋はダメですか?」
やっぱり、といった感じで顔をひとなでし振り返るおじさん。
「仕方ない、本当に馬小屋を貸すだけだぞ」
と言って歩きだした。
暫く歩いた先の、村の中央からは少し離れたひっそりとした場所におじさんの家があった。
家というより小屋? 馬小屋も案内されたけど、正直どっちが小屋? と言うくらいみすぼらしい建物。
「こんな所で眠れるかな……」
思わず呟いた声が聞こえてしまったのか。
「嫌ならヨソに行って貰って良いんだぞ」と言われて慌てて「お世話になります!」と挨拶を返す。
おじさんが家の裏手に回って井戸から水を汲んでくると、桶に入れて私の足元に置いてくれた。
「それで旅の埃を落としたら縁側に座って待ってな、どうせ碌な食べ物も持っていないんだろう?」
そう言うと、また裏に戻っていく。
私は、おじさんが作業を始めてるあいだ縁側に座っていたのだけれど、いよいよ睡魔が襲ってきた。
一日中歩き回っていたので疲れが溜まっていたのだろう。その後おじさんに起こされるまでウトウトしていた。
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「おいしい!」
「こんなもん、うまいも何も無いだろう」
おじさんの作ってくれた料理を褒めていると。おじさんはちょっとだけ嬉しそうにする。
口は悪いけれど、このおじさんはきっといい人なんだろな。でないと、会ったばかりの私にこんなふうにご飯を食べされてくれたりしないもの。
「ご馳走様でした」
手を合わせてお礼を言うと、おじさんがまた変な目をして見る。
「お前さん、どこかのご令嬢か何かか?」
聞くと、この辺の人たちは食事の時に挨拶なんかしない。食べる時の姿勢もだし、ガツガツしない食べ方もお貴族様か、身分の高いお屋敷の令嬢だと思われたみたい。
「全然、普通の庶民ですよ」
一緒になって木の食器を片付けながら、おじさんと会話を楽しむ。
「そうだ、食後のデザートにこれ食べませんか?」
と言ってマジックバッグからアプルの実を取り出した――
ガチャーン!!
アプルの実を見たおじさんが、恐ろしいモノでも見たかのような勢いで後ずさった。
「何?」
おじさんは壁に背をつけて、恐る恐る震える指を私に向ける。
「そっ、それ、は、何処から取ってきた?」
指を指していたのは私じゃなくてアプルの実だった。
「これ? これは、ここから丸一日くらい歩いた先の森の中で見つけたの」
私が、朝から歩いてきた方向を指差しながら答える。
おじさんは、その方向を見て何かを考えるように首を振ると。
「それじゃ、領主様の畑から盗んできたアプルでは無いんだな? 森に実ってた自然のアプルだと言うのだな?」
「畑に、猪やワイルドドッグを飼ってたりしなければ、自然のアプルだと思うよ?」
「それはアプルの実を食べにきた獣達だろ! よくそれで怪我もせずにアプルの実を取ってこれたな?!」
どうやらこのアプルの実は、貴重な果物だったらしいです。




