三十九話 お休みなさい、良い夢を。
虹色の光が収まって、ドラゴンの姿が現れ――って。
「ええーー!?」
女の子になっちゃった!
さっきまで凄く大きなドラゴンの石像だったのに、今は十二、三歳くらいの女の子。その女の子が、真っ赤なボディスーツを着たセクシーな格好で立っている。
「アリシアー!」
スリリンが飛び跳ねながら女の子の胸に飛び込んだ。
「ちょっ! スリリン!?」
「おーっ! エタス! 久しぶりだね」
女の子に抱かれ、スリリンはとても嬉しそう。
「僕はもうエタスじゃないよ。スリリンという名前なんだ」
「主人を変えたのだったな、それもお前が選んだ道だ」
ふと、女の子が私の顔を見る。さっきのドラゴンと同じ金色の瞳に真っ赤な髪の毛、年齢なりのスラリとした体。
「七大罪の『色欲』アリシアだ、この度は助けてくれてありがとう」
「夢乃あかりです」
手を差し出されたので握手を返す。少しだけヒンヤリとして柔らかい手だった。
「いいえ、私はお願いされて持ってきただけですから」
「それだけではない、宿敵のフミンフキュを倒してくれた」
見た目の感じと口調でチグハグしてしまう、最後は貴女が飲み込んだけれどね。
「あかりっ! ルリリアがっ!」
その時、ティフィと一緒にルリリアを看病していたニヤが、大声で私を呼んだ。ルリリアが目を覚ましたらしい。
「ルリリア! 大丈夫!?」
ニヤに支えられて背中を起こし、ゆっくりと顔を上げるルリリア。その瞳はとても綺麗なブルーグレイになっていた。
「完全に憑き物は抜けたようだな」
しゃがんでルリリアの顔を覗き込んだアリシアが呟く。
「あかりさん、ニヤさんご迷惑をお掛けしました」
フラつきながら頭を下げるルリリアを制止して、破壊された魔王のベッドからクッションと枕を持ってきてルリリアを横にさせる。
壊れてしまったベッドに、ズタズタになった天蓋やマットレスを見て寂しそうにするアリシア。
このベッドや寝具は、魔王の為にアリシアが集めたのだものね。
「アリシア、これ」
スリリンが、魔王の魔石を持ってきてアリシアに渡す。
アリシアは黙って魔石を受け取ると、愛おしそうに魔石を抱きしめて静かに涙を流した。
私達は黙ってアリシアの姿を見守り、暫くするとアリシアが目元を指で拭きながら頭を上げる。
「すまない、見苦しい所を見せてしまって」
「大丈夫ですよ、愛する人の大切なものが壊されてしまったのですもの……それが無事で良かった」
「そう言えば、フミンフキュが寝具を破壊した時、あかり殿はベッドに寝たいと言っていたか?」
思わず本音が漏れていたの、聞こえてたのね。
「コレじゃ、もう無理ですよね……」
ボロボロになった寝具を目の前にため息を吐く。
「これは魔王の為に集めた物だ、例え恩人だとしても使わせはしなかったぞ?」
ですよねー。
「だけど、私が集めた寝具もなかなかの物なんですよ!」
パッと顔を上げてスリリンを見る。
「ねえスリリン、ここにベッド出せるかな?」
「まかせて!」
スリリンの体が震えて、私の快眠の寝具達が並ぶ。
スリーピー・ウッドのベッド
スリーピー・オウルの枕
キングオークの毛のクッション
キング・ジャンピング・シープの毛布
クイーン・シルク・スパイダーのシーツ
キング・マザー・ゴールド・グースの羽毛布団
そして、スリリンのマットレス
「ほほお、中々のアイテムを揃えたな」
整然と整えられたベッドにアリシアも簡単の声を上げるけれど、やっぱり自分が揃えたアイテムの方が上だと言っている――それに。
「それに……これだと足りない物がある」
アリシアも指摘する不足したアイテム。
それは――
「「ドラゴンの息吹」」
部屋の温度を快適な睡眠に必要な温度と湿度に調節し、最良の眠りの空間を作るアイテム。
だけど、そのアイテムを手に入れる方法が分からない。
だからドラゴンに直接聞ければと思ったのだけれど……
「あかりは既に、持っているんじゃないの?」
呆れたようにそう言うアリシア。
「?」
言っている意味が分からなくて首を傾げる。
「エシュ爺の魔石だよ、『ドラゴンの息吹』はドラゴンの魔石の事だけど」
ええーっ!?
「ドラゴンも睡眠には凄く拘る種族で、ちょっとでも眠りを邪魔されるとものすごく怒る。
以前に、間抜けな人間が眠っていたドラゴンを襲ったら、怒ったドラゴンがそこの国ごと消し飛ばしたなんて笑い話もあるくらいなの」
人間からしたら笑い事にならない、ドラゴンの恐ろしさはそんな所からも広まっていたのかも。
「だから、生きたドラゴンはその能力として温度や湿度を自分の好みに調節できるの。『ドラゴンの息吹』はそこから生まれた名前。
ドラゴンの魔石にも同じ能力があるけれど、ドラゴンの魔石なんて滅多に出回るものでないから知られていないだけ」
そうだったのかー。
とういと、私が貰ったエシュ爺の魔石は――!?
「揃ったーー!!」
突然ガッツポーズして叫ぶ私を皆がビックリして見てる。
「やったー! 快眠の聖具! コンプリートだよ!」
私は、エシュ爺の魔石をマジックバッグから出すと、ベッドサイドのチェストにそっと魔石を置いた。
ポンッと軽い通知音と共に仕様書のメッセージが開く。
『おめでとうございます、夢乃あかりさん。
快眠の寝具、快適睡眠十時間達成です。
これより、女神ユメリアに奉納する寝具「快眠の聖具」として機能のアップデートを行います。
アップデート中は、ベッドを移動させたり、勝手にお休みになる事はおやめ下さい。
なお、このアップデートにはこれ迄の制限を全て解除する作業も含まれますので、ユーザーに対し僅かながら影響が出る可能性があります。
対象ユーザーの方は、危険のない場所にてリラックスしてお過ごし頂けますようお願い申し上げます』
おや? 十時間達成と、なにやらアップデートのお知らせ、それにユーザーへの注意喚起が出ましたよ。
ユーザーとはあれか? 女神ユメリアの使徒で、同じく不眠に悩まされていた私だという事なのか?
なんて事を考えていると、私のベッドが不思議な光を発し出した。眩く輝く白い光に囲まれたと思うと、私の意識もそのまま消えてしま――
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「夢乃あかりさん。
この度は辛い試練を乗り越え、私の願いを叶えてくれてありがとうございました。
貴女のお陰で『快眠の聖具』が整い、私の不眠の呪いも全て消し去ることが出来ました。
私への呪いが消えた事で、この世界の不眠の呪いも消えました。
これも夢乃あかりさん、貴女のおかげです。
これから貴女は何の制限もなく、自由に、貴女の好きなだけ眠る事が出来るようになります。
帰してあげる事は出来ませんが、この世界での素敵な快眠ライフを楽しんで下さいね」
素敵な笑顔の、綺麗で目の下のクマも無くなった美人な女神ユメリアから夢の中でそう伝えられた。
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「あかりっ! 目が覚めたニャ!」
「あかりさん」
「あかりお姉ちゃん!」
「……やっと起きましたか」
ボーッと天井を眺めていたら、私が起きた事に気が付いて全員が近寄ってきた。
「おはよう皆んな、どうしたの慌てて?」
「どうしたのじゃないニャ! あれからずっと寝てたニャ!」
どうやらアップデートで気を失ってからずっと眠っていたらしい。
ずっと?
「って、何時間くらい寝てた?」
布団からもそもそと起き上がり、ニヤに何時間寝ていたのかと聞いた。
ん、てかこの布団は――
「もう朝になってるニャ。あかりは十二時間くらい寝ていたニャ」
十二時間と聞かされて、夢の中で女神ユメリアに聞かされた話しが本当だったと信じる。
眠れた事もだけど、布団が気になって見てしまう。
「その布団かニャ? あかりの集めた布団やベッドは、あの光った後に消えてしまったニャ。だからあかりは屋敷にあったウチの布団で寝かしたニャ」
やっぱりそう。快眠の寝具でなくて普通の布団、スリーピー・ウッドのベッドでも無く、スリーピー・オウルの枕でも無く、スリリンのマットレスでも無い普通の布団。
そう思うと、だんだんと嬉しさが込み上げてきた。
やったー! これで本当に普通に眠れる! やっと希望した『思う存分グッスリ眠る』が満喫できるんだー!!
思わずニヤに抱きつく!
そばに居たルリリアにも、ティフィにも。
スリリンと、嫌がっていたけどアリシアにも。
やっと、やっと、夢が叶ったよ!!




