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三十四話 星降り祭り

 いよいよ『星降り祭り』の当日。昼過ぎから街の中央にある大広場に出掛けた。

 大広場の周囲には出店も出て、街の人々で溢れている。


「凄い人だニャ」

「街の人だけでなく、他からも沢山やって来てるみたいね」


 私達も出店を回って串焼きを食べたり、何だか分からない食べ物をワイワイ言って食べて盛り上がっていた。


 人々の影が長く伸びて、街灯に火が灯る頃。

 参加者が中央に集まり、ひとりひとりに凧が手渡された。

 

 筒状に組んだ凧の真ん中の蝋燭に火をつけると、仄かな明かりで顔が照らされる。蝋燭の熱で凧が持ち上がり始め、そっと手を離すとフワリと浮き上がり暗い夜空にゆっくりと昇る。

 そんな凧が何十、何百も集まり、下から見上げているだけでとても幻想的で綺麗な光景が広がっていた。


「もう見えないくらい高くあがったニャ!」


 見上げているニヤの目がキラキラと輝いている。

 

 凧にはそれぞれ想いが書いてあって、高く登るほど願いが叶うと説明された。


「私の願いはもちろん睡眠」


 もっともっと上がれ! 私の願いを叶えておくれ!


 ・

 ・

 ・


 翌朝、昨日の興奮と感動を宿屋の奥さんに話していたら。


 賢者の塔ではないけれど、風のない祭りの日に遠くから見ていた旅の人が、まるで光の塔が輝きながらそびえ立っているようでとても幻想的だったと話していたのを思い出したという事。


 何も知らない人が遠くからこの光を見て、賢者の塔の伝説と勘違いした事もあったかも。


 凧に書いてある願いも、子供達の「賢くなりたい」や「学校に行きたい」「お金持ちになりたい」等といった物が多い。その願いからも賢者の言葉がひとり歩きしたのかも知れないね。


 ずっと続いているお祭りと伝説が、連綿と受け継がれていくなかで。四百年以上前の魔王の伝説は時には途切れ、また人々に思い出される事で元々の話しと異なってゆく。


「西の『賢者の塔』も、昔話がズレて伝わった結果だったのかもね」


「面白い話しだったニャ」

「興味深い話しでしたね」


 食堂でずいぶんと長く話し込んでしまったけれど、今日でこのウーエストでの滞在も終わり。次の街を目指す事にした。


「次は何処に行くニャ?」


 皆がワクワクしながら私の顔を見ている。


 そうだねえ北の山脈か、東のドラゴンの住む火山か……その時、ふと夢に現れた駄女神の話しを思い出した。


「東のドラゴン……」


「「ドラゴン!」」


 ニヤの耳がピンと立ち、ルリリアの顔にも緊張が見える。フードの中のスリリンも一瞬震えた気がする。


「本当にいるかどうか分からないけどね、この国でもドラゴンの話は聞かないよね?」


 ニヤとルリリアがゆっくりと首を振る。


 そうなのだ『ドラゴン』その名は広く人々に知られているけれど、実際に見たという人はいない。

 大昔にはこの大空を優々と飛び、人々に恐怖と畏怖をまき散らした存在。


 少なくとも魔王がこの世界にいた時代、四百年前には魔王がドラゴンを従えていたという話しもあるので、その頃までは居たのだろうけど……


「それでも、興味はあるニャ」


 斯くいう私もちょっとドキドキしている。駄女神に言われたからではなく、本当にいるなら見てみたい。

 魔王城にあるという『ドラゴンの息吹』にも興味があるし。

 

「よし、それじゃあ次は東の街「イストー」を目指しますか!」

 

 ◯◯◯


「ひと月も経つのに小娘の一人もまだ見つけられんのか!」


 高級そうな調度品が並ぶ部屋に場違いな怒鳴り声が響く。


「南に向かったと冒険者ギルドの話しでしたので人を向かわせましたが既に立ち去った後でした。サーウスの港に現れていたシーサーペントの群れを全て倒したという女冒険者の話しで街は盛り上がっていたそうです。その女が例の主だと思われますので、何処に向かったのか調べさせて後を追わせている所です」


 そこへ、ドアをノックする音が響いた。


 報告をしていた男が扉を開けて、待っていたメイドから手紙を受け取り主人の前に戻る。


「見せろ!」


 受け取った手紙を読み進めるうちに、男の顔が真っ赤になりワナワナと手が震える。


「旦那様?」


 バンッ!


 旦那様と呼ばれた男が手紙を机に叩きつけると、乱暴に席を立ち捨て台詞を残して部屋を後にした。


 残された男が手紙を拾い上げて読む。


「計画は中止ですね」


 手紙は、女冒険者を追わせた影からの報告書――


 オーランドの街を襲わせる為に用意した魔物は全て始末された。それは予定通りだったのだが、冒険者ギルドの目を逸らす為に用意した冒険者が裏切った。

 元々こちらが裏切るつもりでいたのだが、こちらの陰謀が冒険者にもバレてしまい、彼らが王都で我々の事を話しているらしい。

 たかが冒険者と言え、Aクラスともなれば付き合いのある貴族もいる。それが我々に敵対する勢力と繋がっているとなると、今度はこちらの首が飛ぶ。


「全員……手を引くように」


 そう言うと、男は部屋を出ていった主人の後を追うのだった。

 

 ◯◯◯


 裏でその様な画策がなされていたとは知らず。

 私達はのんびりと西の街を後にして、東の街イストーを目指して出発した。


 ルート的に、途中でオーランドに寄る事になりそうだという事で、少し懐かしい顔を思い出しながら、私達は東へと進むのでした。


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