三十話 伝承
海でのやり取りを見ていたのであろう漁師の人達や、ティフィとルリリアが私達の元に駆け寄って取り囲む。
漁師の人達には、シーサーペントは全て退治した事。クラーケンも怒っておらず巣に戻った事を説明すると、全員から感謝された。ついでに沢山あったシーサーペントの切り身を渡すと「直ぐに祭りの用意だ! 冒険者様達に美味い魚料理を食べさせてやるんだ」と言って大騒ぎになった。
私とニヤ、ルリリアにティフィは宝箱を見ている。
「何が入っているのかなぁ」
「やっぱり金銀財宝ニャ?」
「海賊が隠した宝の地図という例もありますね」
ドキドキしながら、宝箱の鍵を剣を使って破壊し止め具を外す。
「開けるよ、せーの!」
ガゴッ!
腐食してくっ付いていた蓋を無理矢理開けると――
「何コレ?」
割れないように枯れ草が敷き詰められた中に、紙に包まれた小瓶が一つ入っているだけだった。
「空の小瓶? 他には何も無いの、説明も何も無し?」
金銀財宝も何も無し、宝の地図でも無し、ガッカリしてそのまま小瓶をマジックバッグへと仕舞い込んだ。
その時、ルリリアの瞳がジッと小瓶に注がれていたのには、ガッカリし過ぎて気付きもしなかった……
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港に戻るとそこはバーベキュー会場になっていた。
どこに居たのかというくらい人が溢れ、あちこちで魚を焼く良い匂いが立ち込めている。既に大きな酒樽が開けられて宴会も始まっており、皆んなが笑顔になっていた。
私達に気が付いた街の人々が集まってくる。
「ありがとう」「ありがとう」と涙を流して感謝された。
街の代表という偉い人や、冒険者ギルドのギルド長まで現れたのには驚いたけど。これだけ大騒ぎになってしまったら仕方ないよね。
冒険者ギルドにも私達の事が知れちゃったけれど、あまり大っぴらにしないで欲しいと口止めしておいた。
それと、前の冒険者に巻き込まれて亡くなられた漁師の家にシーサーペントの魔石を半分ほど渡しておいた。まあ私の偽善だけれどね。
そして聞いておきたかった事も。
「この海のずっと先に魔物が住む大陸ってありますか?」
ルリリアが話していた伝説の事。
ギルド長も漁師の人達も首を捻って知らないと言う。
そんな中、さっきのおじいさんが「長老のババ様なら何か知っていないかも知れない」と。
「長老のババ様?」
街がまだ小さな漁村の頃からこの辺りに住んでいたおばあちゃんで、昔の伝承とかにも詳しいという事。
話しを聞きたいと言うと、もう高齢なので体調が良い日でないと話も聞けないと言う事で、家族の人に聞いて日を改めてという事になった。
そして、待ち構えていた漁師の人達に揉みくちゃにされながら用意された料理を頂く。
とにかく街はシーサーペントに凄く困っていたようで、港に集まった人達から感謝されまくって、焼けたシーサーペントの切り身に、早速海に入って採ってきた貝やエビも焼いて持ってきてくれて、街は夜になるまで大騒ぎだった。
「ふーっ、もうお腹いっぱいニャ」
「いっぱい食べたもんね」
昼の和み亭に戻ってきた私達は、ここでも沢山の感謝を受けた。港町の宿屋として魚料理が出せなかった事が辛かったらしい。せっかくなのでシーサーペントの切り身を渡して色んな料理を作って貰うお願いをした。
マジックバッグに入れていたら出来立てホカホカだし、いつでも昼の和み亭の味が楽しめると思えば私達も嬉しいものね。
「旦那も腕を奮ってたくさん作ると言ってるよ、ありがとうねお嬢さん達」
厨房からはとてもいい匂いが流れてきてる。
ご主人のマルコさんとはひと言も話せていないのだけれど、人見知りで恥ずかしがり屋なのだとか。けれど、こんなに張り切って料理を作っているのはよほど嬉しいのだろうね。と奥さんのミルビーナさんも微笑みながら話してくれた。
ちなみにこの夫婦、料理の修行中に出会って結婚した兄弟と姉妹なんだって。
ミルコ(兄)さんとアルビータ(妹)さん。
マルコ(弟)さんとミルビーナ(姉)さん。
むふふふー、四人が出会った頃の話しとか馴れ初めとかも色々聞いちゃった!
翌朝――
昨晩の部屋割りは私とティフィ、ニヤとルリリアの組み合わせだったので、私は『眠りのダイス』も使って最高の六時間の快眠を手に入れていた。
『眠りのダイス』で『2』が出た時には思わず踊っちゃったもんね!
六時間も眠れると満足しがちなんだけど、忘れちゃいけないのは快適睡眠十時間のためのアイテムを探さなければならない事!
現在のところ集まったのは七時間なので、残り三時間分のアイテム探しも続けなきゃね。
残念ながらこの街では快眠アイテムになる魔物の情報は無かったけれど、この後長老のババ様に話しを聞ける事になっている。
先ほど、朝一にギルドから使いの人が来て「今日はおババの調子が良いので、お話し聞くなら午前中にいらして下さい」と連絡があった。
という事で、魔物の大陸についてのお話しを聞きにおばあちゃん家に行きますよ。
「おはようございます。 今日はよろしくお願いします」
おばあちゃんの家は、港から少し離れた場所にあった。おばあちゃんの家は農家をやっているので、海とは離れた高台に家と農地が広がっていた。
ベッドから上半身だけを起こして座っているおばあちゃんの隣には、孫娘だと紹介されたエリーさんが座っている。
「おばあちゃん、昨日話したお客さんだよ。昔の話しを聞きたいんだってさ」
「ボソボソ……ん……ボソボソ」
おばあちゃんの声は小さく、昔の訛りもあるのでエリーさんが聞き取りをしてくれる。
「こんなおばあちゃんの話しを聞きに来てくれてありがとう。と言っています」
「私達も、おばあちゃんのお話し聞けるの楽しみです」
それから、エリーさんを間に挟んでおばあちゃんの昔話やこの辺りの様子の話など楽しく聞かせて頂き、いよいよ本題。
「この海の沖合に、魔物が住む島があるという話しを聞いたのですが、知っていますか?」
エリーさんがおばあちゃんに伝えると、おばあちゃんがふと窓の外に視線を移し遠くを見た。
私達も釣られて窓の外を見る。窓から入る風が頬を
「昔々……ある若者が漁に出ようと浜を歩いていると、打ち上げられたタコが村の子供達にいじめられているのを――」
突然、おばあちゃんが自分の口で語り始めた。
それは、昔々この村に住んでいた漁師の青年と、海の中に住む水の精霊との淡い恋の物語。
浜で助けたタコのお礼に、海の中の宮殿に連れてこられた青年が、そこで出会った精霊の一人と恋に落ちる。
人と精霊……とうてい相入れない関係だったが二人は本気だった。
しかし、それを良しとしなかった宮殿の王は、若者と精霊にある試練を与えた。
それは、宮殿のさらに奥深くの海の底に眠る玉を取ってくる事。
精霊は王に願った、人間である若者はそんな深い海の底に潜る事は出来ない。自分が取ってくるから若者にはここで待たせて欲しいと。
だが王は、若者と二人で取りに行くようにと強制した。
若者は言った「たとえどんな深海であろうと、精霊と一緒ならば僕は必ず無事に辿り着いてみせる、一緒に行こう」と。
精霊は泣く泣く若者と一緒に深海へと向かった。
最初は良かった、陽の光が届く海中はキラキラと光が揺らめき二人を祝福するように照らしていた。
さらに深くなってゆくと、陽の光は弱まりだんだん薄暗くなってゆく。
それぞれの顔も見え難くなり、しっかりと繋いだ手だけがお互いを感じていた。
さらに深くなると、水圧に負けない様に心臓が激しく鼓動を始めた。全身に響く心音が、繋いだ手の先にいるはずの若者の存在すら希薄にさせた。
海底はまだ見えない。
真っ暗な海中をひたすら底を目指して進む精霊がついに光る貝を見つけた。
その貝が抱えるのが、王が希望した玉だった。
精霊は貝に近づき玉を手に取る。
そこで精霊が気が付いた、私が手に握っていた物はどうした?
ふと上を見上げると、黒くユラユラと漂う何かがゆっくりと深海の暗闇に溶けて消えていった……
精霊は急いで宮殿へと戻り、王に詰め寄った。
「あの男はどこに行ったのだ、貴方が隠したのか! 私は玉を持ってきた、さあ早くあの男を出せ――」
王はゆっくりと首を振り精霊に言った。
「男は死んだ、お前が連れて行った海の底で。元々精霊と人間が一緒になる事など出来ないのだ、これで分かっっただろう」
精霊は、王に騙され自分がやった事の事実に怒り狂い悪霊にとなり王宮を襲った。それどころか海上に出て陸の人間まで襲ったのだ。
そこにはあの男が住んでいた村もあった、悪霊は暴れ、村を破壊し、そしてある聖女によって封印された。
その封印された精霊の魂は、今でも誰も知らない神殿に安置されている。ただあの男が迎えに来るのをジッと待っているのだと。
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「その時に、地上で暴れた悪霊の話が魔物が海からやって来た伝承になっていたのですね」
「そういう事なんだろうね」
「悲しい話しニャ……」
おばあちゃんの話しを聞き終えた私達は、港街を出てまた旅を始めていた。
「今度はどちらに向かいますか?」
「何だか他の伝承の話しも色々知ってみたくなっちゃった! 西の賢者の塔、東のドラゴンの住む山、北の山脈、どれも何かありそうだと思わない?」
私は皆の顔を見る。
皆も「あんな話し聞いちゃうとね」と興味津々。
「じゃあ、次は西! 西の賢者の塔を目指すわよ!」
そう言って、次の街へと足を進め始めた。




