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二十七話 支度

 ゴブリンの大発生は最悪の事態になる事もなく、ある英雄達を産んで終了を迎えた。


 英雄達を出迎えて街は大騒ぎになり、不安も解消された街の人達とでお祭り騒ぎになっていた。


「呑気なものだ……」


 壊された窓から外の騒ぎを眺めるギルド長。


 部屋に呼ばれたのは私だけ、リリアさんがニヤは遠慮して下さいと外で待たされている。


「何があったんですか?」


 ギルド長もリリアさんも何も話さないのでこちらから聞き出した、この空気だからきっと碌でもない事は間違いないだろう。

 タスク進行中に上役の部屋に呼び出された時にも、こんな空気の中でSEが飛んだ等の話は良くあったものだ、慣れっこになっている。


 チラッとリリアさんに目配せしたギルド長が話し始めた。


「実は……」


 ・

 ・

 ・


 なるほどー、スリーピー・ホロウの魔石を欲しがった貴族が、競売に勝てなかった事を腹いせにこの街に魔物をけしかけたと。しかもそのドサクサに紛れてギルドに忍び込んで私の個人情報を持ち去ったんだと。


「これからどうなるんでしょう?」


 ギルド職員が椅子に深く座り直し、息を吐いて天井を見上げる。


「分からん……が、こんな手段を取ってくるような連中だ。名前がバレた以上、今度は直接手を出してくる可能性もある」


 えー、やだなぁ。そんな面倒な事に巻き込まれたくない。せっかく私の名前が出ないようにギルド長が取り計らってくれたのに、こんな事になるなんて。


 ギルド長は、この事実を領主にも伝えると言ってくれた。街の警備を強め兵の巡回を増やして対処にあたるとも。


 だけど……私の気持ちはもう次の段階にきていた。


 ギルド長の部屋を出て、待っててくれたニヤと屋敷に帰る。


「何の話しだったニャ?」


 私がしんみりしていたのを感じたのか、ニヤが顔を覗き込んで聞いてきた。


「うん……帰ったら皆んなに話すよ。今夜はルリリアも屋敷に戻ってくるし、ティフィが美味しいご飯を作って待ってるよ」


 精一杯明るい顔でニヤに返事をして帰路を急いだ。


 晩御飯を食べ終えて、居間にニヤとルリリア、ティフィも揃った所で話しをする。


 冒険者ギルドで言われた事。

 そして、私は魔王城を探す旅に出たいと言う事。


 あの本の情報で、魔王城には魔王の為に集められた最高の寝具が整っているという事を知った。だったらそれを確認するために、私は魔王城を絶対に見つけなければならない。


 私がそう話したら、ニヤが面白そうだから付いてきてくれると言ってくれた。


 ありがとうニヤ、ほんとにもう大好き!


 ティフィは屋敷を離れられないのでここでお留守番になる。


「ティフィ。旅は何ヶ月掛かるか分からないけれど、時々はティフィの顔を見に帰ってくるからね」


 ずっと俯いて、小さく体を震わせながら話しを聞いていたティフィ。


 当然だろう、これまでも何十年とひとりだったティフィが、やっと私達と出会って一緒に住み始めたと思ったらまた出て行くと言っているのだ。けどティフィは……


「ティーは一緒じゃないの? 何で?」


 ティフィの様子を見て、スリリンが質問してくる。

 スリリンにティフィの事情を説明すると、スリリンがピョンピョン飛び跳ねながら「僕がこの家を運ぶから、ティーも一緒に行こ?」と言い出した。


 はこ……ぶ?


 何を言ってるのだろうと思っていたら、スリリンに着いてきてといわれて全員で屋敷の外に出る。


「いくよー」


 ぶるるん!


 掛け声と共にスリリンの体が震えた。


「えっ?!」

「ニャ!」

「!!」


 建物が消えた!?


 ティフィは私の隣に立ってボーゼンと建物があった場所を見つめている。


「えっ! スリリン何したの?」


「僕のお腹の中に収納したんだよ」


 またスリリンが体を震わせる。


「出た!」


 目の前には、元のままの屋敷が立っていた。


「これで、何処に行くのもティーも一緒に行けるでしょ?」


 ニッコリと笑ってティフィを見るスリリン。


「私も……行ける? 私も、外に出られるの?」


 家が動かせないから外に行けない――

 けれど、スリリンが家を収納した状態なら。


 もう一度スリリンに屋敷を収納して貰うと。ティフィの手を取って一緒に門の外へと向かう。


 門の直前でピタリと固まるティフィ、繋いだ手に伝わる不安。


「ティフィ」


 私はティフィの顔を見て頷く。


 ぐっと足に力を入れて、一歩前へ――


 門を振り返り、屋敷があった方を見上げるティフィ。

 その瞳から流れる涙をみて、私の目から出る汗も止まらなかった。


 翌朝。


 ティフィが長年住んでいながら一度も見たことが無かったこの街の景色を、通りの賑わいや人々の笑い声を見聞きしながら、ティフィと私達は一緒に手を繋いで歩き回っていた。


 街の人々の笑顔を見て自分も笑顔になっている。出店ではお店の人との会話を楽しんでいる。何もかも初めての経験、これからも一緒に楽しもうね。

 

 冒険者ギルドに顔を出すと、リリアさんがティフィの顔を見て驚いていた。

 そして、この国を見て回りたいという適当な理由を付けて暫く街を離れる事を打ち明けると。ギルド長も出てきて面倒な説明を何度もさせられた。


 屋敷に帰ったら建物が無くなっているとこっちも大騒ぎになっていた。


「はい、はーい。ごめんなさいねー」


 人だかりを通り抜けて門の前に立ち、ティフィに門を開けて貰う。そして中に入ったところでスリリンが建物を元に戻すと……


「「おおおおお!!」」


 背後の人だかりから大きなどよめきが湧いた。


「という訳なので、みなさんお引き取りを」


 くるりと後ろに振り返り、ニッコリ笑って挨拶すると。皆さん奇妙な顔をして帰ってくださいました。


 晩御飯を食べ終わり、ダイニングに集まってティフィのお茶を楽しんだ後は、これからの準備と行動についての打ち合わせ。


 まずルリリアに確認する。


「魔王城が何処にあったのかは分からないのよね?」


「そうですね。百年以上昔の事で、勇者の会語録でも正確な場所は言い残されていなかったようです」


「だいたいの場所も?」


「……」


 黙り込むルリリア。これは何か知っている?


「この国がある大陸は……王都を中心に東西南北に広がっています。北は険しい山脈が続く山岳地帯で人は少なく、また森には魔物が多く危険な場所だと言われています」


「そこに魔王城がある?」


 ルリリアは何も答えず話しを続ける。


「南は海が近く、港があり海産物で有名ですが。さらに沖合に行くと誰も立ち入った事のない大陸があると言われています。その大陸から魔物が海を渡ってこの大陸に入って来ていると言う伝説もあります」


「じゃあ南?」


 軽く首を振ると。


「西は豊かな大河があり、この大陸の胃袋と言われる大農耕地帯が続きます。その農耕地帯を超えた先のはるか先に賢者の塔と言われる塔があり、その塔こそが……」


「魔王城?」


「そして東には、この国の力の源となる鉱山が連なる山脈と、時に赤い炎を吐く山々が奥へと続き、その最奥にはドラゴンが住む山があると言われています。そしてはるか昔からドラゴンを使役していたのは」


「ドラゴンを使役していたのは……魔王だと?」


 模範解答を得た先生が如く、フッと口角を上げて薄笑いを浮かべるルリリア。


「と言うように、この大陸の東西南北全てに魔王と魔王城に繋がる話が幾らでも出てくるのです。故に何処に魔王城があったのか語るのは無意味、探せるものなら自分の足でやってみろ――」


 と両手を広げて。


「と言うのが、長年勇者と魔王について研究している識者達の意見になります」


 話が終わったと、ティフィにお茶のお代わりをもらい一息入れるルリリア。


「はぁーっ、てことは手掛かりは何もなくて。今のルリリアが話したような逸話を訪ね歩いて自分で探し当てろと言うの?!」


「そうなりますね」


 ニヤぁー! ティフィー! 何だか思ったより大掛かりな旅になりそうだよー!

 

 ニヤは面白がってくれてるし、ティフィは家があるなら何処でも問題ない。ルリリアも「仕方ないですね」とついてくる気満々で、この四人で旅に出る事になった。


 私、夢乃あかりは! 残り三時間の快適睡眠アイテムを探して、今度は全国行脚に向かいます!


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

快適睡眠

スリーピーホロウの枕、三十分

キングオークの毛のクッション、三十分

キングジャンピングシープの毛布、三十分

スリーピーウッドのベッド、二時間

クイーンシルクスパイダーのシーツ、三十分

スリリンのマットレス、三時間


快適睡眠十時間まで、残り三時間!


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