二十六話 黄金の羽根
「ウォオー!」
ズガァーーーン!
「ゴラァ!」
ドズーーーン!
まるで剣を振ったとは思えない轟音が響くたび、大量のゴブリンが粉々になって消えてゆく。
「すげえ……」
物凄い速さで河原にいたゴブリンが始末され、どんどんと数を減らしてゆくのをみた黄金の羽根の三人は、本物のAランクの実力を知って震撼していた。
ちなみに此処に辿り着いた際、そのゴブリンの数をみたギルド職員は、顔を真っ青にし街へととんぼ返りしていた。
これなら討伐隊が到着する前に終わるんじゃねえか、と三人が考えているとドズルから檄が飛ぶ。
「お前らも働け! ほらそっち行ったぞ!」
流石に二人だけで全てを倒し切るのは難しく、残ったゴブリンを黄金の羽根の三人も倒してゆく。
その数は、僅か数十分でこれ迄に倒したゴブリンの数を更新する程だった。
「ハァッ、ハァッ」
河原にいたゴブリンの大半が殲滅され、三人は息を切らして座り込み水を飲んでいた。
そこにレギンが現れ、体力を回復しておけと回復薬を渡す。
三人はこれ程の強さを持ちながらも用心を怠らない先輩冒険者と、これまでの自分たちの行動を振り返り恥じる。
いよいよ最後だと息を吐き、ゆっくりと割れ目の中を覗く……薄暗く、ゴブリン特有の臭いが充満した中にギラリと光る二対の赤い点があった。
こちらが相手を認識した瞬間、相手からも凄まじい威圧が飛んできた。
慌ててその場から離れる。
全員が息を呑み、魔物の姿が現れるのを待つ。鋭い爪のついた手が割れ目に掛かり、狭い出口を破壊、少し広くなった出口から薄赤色が特徴のクイーン・ゴブリンが現れた。そしてその背後、出口の岩をゴリゴリと削りながら現れたのはゴブリンの最上位種エンペラー・ゴブリン――
ドズルとレギンの二人も思わず顔をしかめ「こんな大物まで相手にするとか聞いてねえぞ」と、思わず声が漏れる。
ドズルがチラリと背後にいる三人を見たあとに、相棒のレギンの顔を見る。
レギンはドズルの顔を見て、ただ頷いた。
「俺たちは逃げる! お前らもさっさと逃げろ」
その言葉を聞いたゴッズは始め意味がわからなかった「は? 逃げる? 逃げてどうするんだ? あの凶悪な顔したゴブリンの相手は誰がするんだ」と。
戸惑っているゴッズにドズルが甘い言葉で誘惑する。
「お前達はどうする、せっかく知り合った仲だ逃げるなら手を貸すぜ」
ドズルが出した手をジッと睨むゴッズ。
バシン!
「……あの街は、俺たちが生まれ育った街だ、いけすかねえ奴らも居るが捨てる気はない。このゴブリンは俺たちで何とかする! お前達だけ尻尾巻いて逃げるんだな」
「そうだ!」「俺たちは逃げねえぞ!」
勇ましい言葉を放ったゴッズ達だが、その手は僅かに震えたいた。ドズルは三人の顔を見ると口角を上げ。
「フッ、若いな……頑張るついでにいい事を教えといてやろう、この騒ぎは王都いにるある貴族が仕組んだ物だ。誰とは話せねえが胸糞悪い連中だった」
そう言って手を握られる、握られた手の中に残る違和感。
「じゃあ、俺達は行くぜ!」
言ったかと思うと、素早い動きで二人の姿が森へと消える。
そして、放物線を描いて何かがゴブリンの方向へと投げ込まれた。
途端、激しい爆発音と爆風が三人を襲う。
爆風に巻き込まれる三人。
「クソ! アイツら何しやがった?!」
「爆発玉を使いやがった!」
「ゴッズ見ろ! ゴブリンが!」
爆風が止み、砂煙が収まるとクイーン・ゴブリンは瀕死、エンペラー・ゴブリンも片腕が使えなくなっていた。
「故郷を失いたく無かったら精々頑張んな!」
森の奥から微かに聞こえた声。
傷付いたエンペラー・ゴブリンを見て、頷く三人。
「これで負けたら言い訳もできねえぞ! 街で自慢できるチャンスだ、行くぞ!!」
「仕方ねえな。」
「骨は拾えよ!」
片腕になっても、そのギラギラと怒りに燃える赤い目で三人を睨むエンペラーゴブリンとの死闘が始まった。
◯◯◯
偵察に行ったギルド職員が震えた青い顔をして戻り、ゴブリンの大発生を伝えるとギルド長は緊急招集を発動した。
これは、冒険者ギルドに登録する一定ランク以上の冒険者が強制参加になるイベント。ギルド長も街の広場に集めた冒険者達に説明を行い、渓谷へと向けて出発して行った。勿論あかりやニヤも強制参加になっている。
リリアが、緊急招集の書類を領主に提出する為にギルド長の部屋を訪れた時だった。
誰もいない部屋の中から微かな物音。
ドアを開けると、黒い服で身を包んだ怪しい人物。
「何してるの! その手の物を置きなさい!」
その人物は、リリアの静止も聞かず窓を突き破って逃げて行った。
「待て!!――」
外にいるのは緊急招集を受けられない低ランクの冒険者ばかり、もし逃げた人物が高ランク冒険者だったら無駄に怪我人を増やすだけと即座に判断し叫ぶのを止めたリリア。
「どうしたのですかリリア副ギルド長!?」
物音を聞いて職員が駆けつける。
「不審な人物がギルド長の部屋に侵入しました! 私は何が盗まれたのか確認します。あなたはこの緊急招集の書類を領主館に届けさせて下さい」
リリアはギルド長の印を押した書類を職員に渡し、領主館まで走らせた。
「さて……」
最後に不審者が漁っていたのは、重要書類が入れてある隠し扉の中。厳重に鍵も掛かり、外目にも分からないように工夫されていたのが容易く見つけられていた。
一枚一枚書類を確認するリリア。副ギルド長という立場から、この中に何の書類が入っていたか全て把握しているが、さて不審者が必要としたのは何の情報だったのか――
あかりさん?
◯◯◯
ギルド長を先頭に、ゴブリンが大発生した現場に到着した冒険者達が見たのは。ゴブリンの返り血を浴びて、異臭を放ちながら座り込んでいる三人の男達の姿だった。
「おい! 大丈夫か?! 何処か怪我したのか?」
他の冒険者達が辺りを警戒しながら、三人を取り囲む。
「随分と遅かったじゃねえか、もう俺らが全部片付けちまったぜ……」
疲れ果て、立ち上がれない状態ながらも強がりをいうゴッズ達。
「何だと?!」
「ゴッズよ……流石に盛り過ぎだろ、殆どあの二人が倒してたじゃねえか」
「エンペラーも半死だったしな」
「エンペラーまでいたのか!?」
水で臭いを洗い流し、喉の渇きを潤した三人はエンペラー・ゴブリンとクイーン・ゴブリンの魔石を取り出してギルド長に見せた。
「これで、俺たちもAランクだよな」
「戻ったら査定してやる、期待してろ」
周りでは、黄金の羽根がゴブリンを全滅させたという噂が既に広がり始めていた。
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「ギルド長に報告があります」
ギルド長が緊急招集から戻り、椅子に腰掛ける間も無くリリア副ギルド長が厳しい顔付きで待ち構えていた。
「何があった?」
留守中にこの部屋に賊が入った。部屋の中はピンポイントで重要書類の入った隠し棚が荒らされて、一枚の書類が無くなっていたとの事。
その書類が――
「スリーピー・ホロウの魔石を持ち込んだ人物、か」
表立って調べても、スリーピー・ホロウの魔石はこの街『オーランド』から王都の競売に出された事までしか分からない。かなり危うい方法を使ったとしても、だ。
先方も、それが分かっていたからこそこの街にやってきて情報を探ろうとし、これだけ大きな騒ぎを起こしたというのか。
戻ってくる途中、ギルド長がゴッズから渡された紙切れを開く。
そこには、王都でも有力なある貴族の紋章が記された部分が破り取られて残っていた。
「厄介な事になりそうだな……」




