二十五話 ゴブリン
「チッ! しけてんなぁ」
数枚の銀貨を音を立ててテーブルに置くと、酒場のカウンターに向かってエールを頼む男。
「まあまあゴッズ、今日はたまたま運が悪かったんだって! 明日はたんまり稼ごうや」
「うるせえモッズ! 大体てめえの探索が下手だから獲物が見つけられねえんだろが!」
「それを言うならヤッズの奴が後ろでガサガサ言わせるから獲物が逃げていってんだろ?!」
うまく獲物が見つけられず、今日の稼ぎが数杯のエールで消えてしまいそうな状況に苛立っている男達。
そんな男達の席に、王都から来たという冒険者の二人が声を掛けた。
「よお兄さん達、ちょっといいかい?」
座っていた三人よりも体格が良く、明らかに格上の防具を身につけた冒険者姿の二人を見て、それまでの苛立ちを忘れて若干引いたように返事をする男。
「お、おう。あんた達見ない顔だな?」
二人の男は、隣のテーブルの椅子を動かして三人の間にドカリと座る。
「俺たちは王都から来た冒険者でドズルとレギンだ、ちなみにコレな」
チャリッと首元から取り出した冒険者証を三人に見せるドズル。
「なっ!? Aク「おっと! あまり大声では言ってくれるなよ、騒がれるのは嫌いなんだ」」
口を抑えられたまま頷くゴッズを見て手を離すドズル。
「で、その王都の冒険者様が俺たちに何か用でもあるのか?」
「話のわかる頭の良い坊やは好きだぞ」
ドズルがテーブルに置かれたエールを一気に飲み干して、酒場のカウンターにエールと肉盛りの追加を頼む。
「スリーピー・ホロウって知ってるか?――」
◯◯◯
「ニャ! ハッ!」
「エイッ!」
サクッ!
「何でこんなにゴブリンばかりニャ?!」
私達は冒険者ギルドに近寄るのを避けて、イザベラさんの依頼を受け素材採集の為に森へと入っていた。
「だねぇ、やっぱり多いよね?」
森に入ると、明らかにゴブリンが多い。繁殖力の強いゴブリンだけど、それでも普通は一、二匹見かける程度。
今日は既に十匹以上倒している。おかげで依頼された素材の採集はサッパリだ。
「やっぱり異常だよ。ニヤ、スリリン、どっちの方角からゴブリンが来てるか分かる?」
ニヤとスリリンが意識を集中して周囲の状況を把握しようとする。
「向こうだニャ!」
「あっちだねー」
二人が指差したのは同じ方向、森の奥、渓谷に繋がる細道だった。
「いるねぇ……」
「いっぱいニャ」
渓谷の崖の上から谷底を覗くと、狭い河原にびっしりとゴブリンがたむろしていた。何処から湧いたのかと見ていると、川が曲がった奥に割れ目があり、そこからゴブリンが出入りしているのが見えた。
「いつの間に……」
いつの間にか作られていたゴブリンの巣。数匹であれば問題ないゴブリンだけれど、ひとたび一定の数が超えると爆発的に数を増やす厄介な魔物なのだ。
今回の場合は、既にその数を超えている。きっとあの割れ目の奥にはクイーンゴブリンが発生しているだろう。
「帰ってリリアに報告するニャ」
私達はその場に目印を残し、帰り道でゴブリンを倒しながらオーランドの街まで戻った。
「リリアさん大変!!」
冒険者ギルドに飛び込んだ私達は、受付にいたリリアさんを見つけて叫んだ。
「何ですか!? そんな慌てて」
「西の森の奥の渓谷にゴブリンが大発生してる!」
ザワッ!
私の声が大き過ぎて、ギルドの中にいた人達にも聞こえ、ギルド内が騒めく。
「ちょっ!? ちょっとココでは何ですから、奥で話しを聞きます」
隣にいた受付の子に「あとお願いね」と声を掛けて、私達はギルド長の部屋へ。
後ろから「ゴブリンの大発生だと!」「本当なのか!?」と言った声が聞こえる。
ごめん、ちょっと浅はかだった。
バタン!
ギルド長の部屋に入ると、外の騒がしさに気が付いていたギルド長が待ち構えていた。
「どうした? 何があった?」
リリアさんが先に立ち、さっきの私の言葉を説明する。
「どの位の数だった? 凡そでも判断出来るか?」
「見える範囲で二百匹以上いたかと、割れ目の奥は中の広さとか分からないので不明です」
「全部で二五六匹いたよー」
私の言葉にスリリンが補足する。
「ヤバいな……」
ギルド長が考えた顔をしていると、部屋のドアがノックされた。
「ギルド長すみません、他の冒険者さん達が先ほどのあかりさんの話は本当かと問い合わせが殺到しています」
ギルド長が私をギロリと睨む。
「ごめんなさい、ちょっと迂闊でした」
「仕方ない、待ってろ」
そう言ってギルド長が表へ出てゆく。
喧騒で騒がしくなっているフロアをギルド長が一喝する。
「お前ら、初回の報告だけで騒ぎ過ぎだ! ちっとは落ち着け! 今から報告があった場所に調査に向かう、数が多いので探索に秀でた者かパーティを希望するが、立候補はいるか?」
とたんに静かになる室内。
「俺たちが行ってやろうか?」
その中で、声を上げたのは。あの王都からやって来ていた冒険者の二人だった。
「ちっとばかり暇してたんでな、それだけゴブリンがいれば良い運動になるだろうから行ってやるよ」
「お前達なら危険は少ないだろうが、調査は出来るのか?」
ギルド長が一抹の不安を思いながら聞く。
「調査? そんなもんしなくても、全部倒してしまえはいいんだろ?」
「なっ!? ゴブリンは全部で二五六匹、それにまだ隠れている数も不明なんだぞ」
「ゴブリンが何匹いても変わらねえよ!」
「俺たちも連れて行ってください!」
その時、人混みの中から三人の冒険者が躍り出た。黄金の羽根の三人だ。
「お前らもか、まあいい多少は役に立つだろう」
二人のうちの一人がギルド長の前に出てきて何かを見せる。
「俺たちはAランクだ、ゴブリンなんかに遅れはとらねえ。コイツらもBランクのパーティなんだろ? 五人も居れば十分だろ」
「ギルドからも調査員を一人付けさせて貰う、調査員は現場の状況を確認したら直ぐに戻らせるからな、その上でこちらで緊急依頼を掛けるか判断させて貰う。その間に起こった事には責任は取らんからな」
「俺たちが勝手にやるだけさ。後から来て、何も残っていなかったと文句は言うなよ」
ガハハハと高笑いを残して、二人と三人が冒険者ギルドを出てゆく。
ギルド長が慌てて職員へと声を掛ける。
「済まないが一人後を追ってくれ。状況を確認するだけでいい、情報を持って帰ってくるんだ」
コクリと頷いた職員が、先に出て行った冒険者の後を追って消えた。




