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二十四話 視線

 何故眠れないの!?


 ウキウキして寝室に入り、スリリンにマットレスになってもらいベッドに転がる。枕にシーツ、毛布も準備完了。

 ダイスの目は『1』だったけれど、合計七時間も眠れると喜んで目を閉じたのだけれど――


 五時間で目が覚めた。


「何故!?」


 起き上がって叫ぶ。


「どうしたのあかりお姉ちゃん?」


「あ、スリリン。起こしてごめんね、ちょっと予想より早く目が覚めてしまったから驚いちゃって……」


 スリリンが私の目を見て少し沈んだ顔をした。


「……あかりお姉ちゃん。もしかしたらソレはボクのせいかも」


「どうゆうこと?」


「昼間、ボクの上で眠ったでしょ? そのせいで夜の分の時間が無くなってしまったのかも……」


 ん? 昼に眠ったから夜の分が無くなった? ソレってつまり……


「スリリンの眠りの効果も一日一回だというの!?」


 スリリンがコクリと頷く。


 ええっ!? 眠りのダイスもそうだけど、スリリンの眠りの力も一日一回だけだなんて――


 え、まって! もしかして他のアイテムもそうだったりするの?!

 慌てて枕に顔を当て、息を吸う。


 すうぅーー。


「……」


 あのガツンとくる眠気が来ない。

 あー! やっぱり全部そうだよ! 眠りの効果は一日一回!


 私はガックリと力をなくしてスリリンにもたれ掛かり、そのまま朝まで過ごしたのでした。


 ・

 ・

 ・


「ティフィ、ニヤおはよう」


 朝になり、ダイニングからいい匂いが漂ってきたのでスリリンと一緒に下りてゆく。既に腹ペコのニヤはティフィと共にお皿を並べたり準備を手伝っている。


「ルリリアは?」


「ルリリアさんは、教会での引き継ぎが終わらないそうで数日は戻れないと連絡がありました」


 昨日もルリリアは教会へ行き、私とニヤだけで依頼に出ていたのだけど。どうやらアルさんとカルさんの件がなかなか終わらないらしい。


「今日はどうする?」


 朝食を食べながらニヤに今日の予定を確認する。


「昨日の件もあるから、暫くはゆっくり過ごすニャ。ルリリアも居ないからちょうど良い骨休めになるニャ」


「そうねえ、じゃあ私もゆっくりするかな」


 朝食が終わり部屋に戻ったところでマジックバッグから本を取り出す。

 スリーピー・ホロウの調査で見つけたユメリア教の教会で見つけた本だ。あの日以降も眠れない夜には本を開いて散々読み込んでいたけれど、ずっと気になっていたページがあった。


『魔王城、魔王の住む城。

 魔王がユメリア教徒の祈りによって不眠に悩まされて数百年。その姿を嘆いた配下達が魔王の為に眠るためのアイテムを集めていた。

 

 ジャンピング・ホワイト・シープ、その毛布は最高の肌触りと快適な温かさを保つ。

 スリーピー・シルク・スパイダー、その糸はシルクより艶やかで滑らかで最高の布地となる。

 スリーピー・ホワイト・オウル、その羽根から香る匂いは、最良の眠りを提供する。

 スリーピー・ホロウ・ディーバ、その声は万人の心を癒し、健やかな眠りを誘う。

 エターナル・スリーピー・ウッド、千年生きたスリーピーウッドが変化した姿。その木材で作ったベッドで眠ると至福の眠りを得られる。

 エターナル・キング・スライム、そのゼリーを使ったマットレスは最高の寝心地を提供する。

 エレメンタル・ローズ・クイーン、その花の香りは全てを癒し、快適な眠りに誘う。

 エターナル・ドラゴンの息吹、あらゆる温度と湿度に対応して、常に快適に眠り続けられるよう調節してくれる。


 全てが整った完璧で快適な眠りの為の空間。

 それが魔王城、最奥の間の魔王の寝室』


 私が集めている快眠アイテムなんて目じゃない、究極の完成されたアイテムが揃っている場所。


「はぁー、素敵! ここで眠れたら幸せだろうなぁ」


 この本を読んでからずっと憧れになっていた。ただ「魔王城って何処にあるの?」と気軽に聞いて良いと思えず、ずっと気になったままになっていたのだ。


「ルリリアだったら知ってるかな?」


 ユメリア教の古い話しも知っていたルリリアだったら、魔王城が何処にあったのかも知っているかも。そう思うと、次にルリリアに会えるのが楽しみになっていた。


 それから数日はニヤと二人でゆっくりと過ごし、いよいよルリリアも残務処理が終わって屋敷に引っ越してくる事が決まったある日。


「私達の事を調べている人がいる?」


 冒険者ギルドに寄ったら、リリアさんからコッソリ耳打ちされたのがその言葉だった。


「それって例の貴族絡みってことですか?」


「それはまだ分かりませんが、あの魔石の出所について調べている感じはありました」


 王都から来たという冒険者風の二人組で、スリーピー・ホロウの魔石の競売価格を聞いて一発千金を狙ってやって来たと話していたとの事。


 ルリリアがやったように、案内してくれる冒険者を探したり声を掛けて回る可能性があるので、やっぱり冒険者ギルドに立ち寄るのは控えるべきか。


 けど……もしその貴族絡みだったとしたら、そんなに目立つ事するかな?


 リリアさんにお礼を言って、また暫くは依頼を受けない事と何かあったら屋敷に連絡を貰えるようにお願いして冒険者ギルドを出た。


「イライザさ〜ん!」


「あら!? あかりさん、いらっしゃい」


 帰り道、私は以前クイーン・シルク・スパイダーの糸を布地に仕立ててくれたイライザさんの工房に立ち寄っていた。


「今日は何のご用?」


 工房の中へと入るとき、チラッと背後の様子を確認する。


「こないだの布地で作ってもらった下着が気持ちよくて、予備をお願いしたいと思って」


 私がそう言うと、イライザさんの顔がパッと華やぐ。


「でしょー!? クイーン・シルク・スパイダーの糸なんて滅多に手に入らないのよ。その布で作った下着なんて王城のお姫様くらいしか持っていないんじゃないの?!」


 それほど貴重な素材、もちろんシーツも最高の肌触りだったけど。下着は現代の物より数段上、と言っても社畜時代にシルクの下着なんて持ってなかったのだけれどね。


 それから僅かに残った布地を使って予備の下着を何着かオーダーしてお店を後にする。ペチャクチャとお喋りとお茶をしながらゆっくり過ごしたお陰で、足元の影が長く伸びていた。


 これだけ引っ張ったら流石に諦めたか――


 実は冒険者ギルドを出る時、隣の酒場からの視線が私を追っていたのだった。ギルドを出ると特に特徴もない人物が絶妙な距離を保ってついて来てたし。


 私がイライザさんの工房へ入ってからは、工房の出入り口が見える建物の角でジッとこっちを見張っていたものね。


 ――と言うのを、スリリンが全て教えてくれた。


 残っていた布地を使う羽目にはなったけれど、下着を気に入っているのは事実だし。リリアさんとヒソヒソ話しをしてるのを見られてたのだったら、下手に勘繰られるのも気持ち悪いしね。


 ちょっと長話が好きな、どこにでもいる女冒険者だった。と見て貰えればラッキーだとばかりに、小さくなって私の服に収まっているスリリンと一緒に屋敷へと帰ったのだった。


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