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二十三話 不穏

『ドクンッ!』


 誰も居ない真っ暗な部屋の一角。


 暗闇の中にヒッソリと置かれた置き物らしき物が、ただ一度鼓動を響かせ瞳に赤い光が灯る。


「エタス……貴方は新しい道を選んだのですね……」


 そう呟くと、また光が消え物言わぬ置物へと戻った。

 

  ◯◯◯


 んふー!


 これで他の快眠アイテムと合わせれば合計六時間! ダイスも2が出た日には八時間も眠れちゃうじゃない!! スリリン様さまだよ〜。


 やー、帰って眠るのが楽しみになってきた。

 

「スリリンのおかげでスライムは問題ない数まで減ったし。ついでにゴブリンも減らせたしね」


 さすがエターナル・スリーピー・スライムのスリリン! 不思議な言語でスライムと話して、増えすぎていたスライムを吸収、残りは別の場所に分散させてしまった。


 今は抱っこするのにちょうど良いサイズになって、ニヤに抱かれている。


 触って眠らないのかって? スリリンが意識すれば眠らせる事も眠らせない事も自由にコントロール出来るんだって! スリリン優秀だね!


 ニヤと共に新しい仲間のスリリンを連れて街へと帰る。普通サイズのスライムは街中のゴミ掃除に利用されているので、冒険者ギルドで従魔登録して貰えば個人で持っていても大丈夫という事だった。


「リリアさーん! この子の従魔登録お願い」


 受付にいたリリアさんに声を掛ける。


「何ですかあかりさん、帰って来たのなら依頼の報告を先にお願いします」


 通常運転、いつものリリアさんだ。書類に記入しながら私が抱いているスリリンを見て首を捻るリリアさん。


「えっと……スライムですか?」

 

「可愛いでしょ? エターナル・スリーピー・スライムのスリリン。ほらスリリンも挨拶して、この子は冒険者ギルドの受付のリリアさんよ」


「エタッ!?「こんにちは、リリアー。僕はスリリンだよー」」


 驚くリリアに被せて挨拶するスリリン。よく出来ました。


(人の言葉を理解して喋るスライム? エターナル・スリーピー・スライム? またこの人は面倒な事を)


 リリアさんが眉間に皺を寄せてブツブツ言っている。


「リリアさん、私達疲れてるしお腹減ってるから早く帰りたいのだけれど?」


「書類は済ませておきますので、ギルド長に報告をお願いします」


「えー、早く帰りたいのにー」


「お・ね・が・い・し・ま・す」


 リリアさんの圧に押されて、ギルド長の部屋へと避難する。


「こんにちはギルド長。依頼から帰ったので報告に来ました」


 ギルド長の部屋に入ると、何やら書類に埋もれてうなされているギルド長がいた。


「珍しく忙しそうですね」


「誰かさんのおかげでな」


 そして、顔を上げて私を見た瞬間に露骨に嫌な顔をする。明らかに面倒ごとを持ってきやがったという顔だ。


「何ですかその顔?」


「いや……その抱えている、それは……スライムか?」


 スリリンを持ち上げてギルド長の目の前に見せる。


「エターナル・スリーピー・スライムのスリリンです。先ほど従魔登録も済ませました」


 ギルド長がたっぷり十秒ほど黙ってから深くため息を吐く。


「聞かせてもらおうか……」


 それから、ギルド長に今日あった出来事を話した。

 

 ・

 ・

 ・


「それで、そのスリリンが従魔になったって訳か」


 話を聞き終わったギルド長が、お茶を一気に飲み干すと椅子に深く座り直す。

 

「街中で迷惑かけたり騒動を起こすなよ、あと管理はしっかりやる事」


 見た目は普通のスライムだけど、正体を知ったら街中パニックになるもんね。


「それで……何で私達は呼ばれたんですか?」


 リリアさんの事だから、スリリンの登録だけで別にギルド長に説明しなくても伝わっていた筈、それにあんな注意だけなら窓口でも出来るでしょ。これは何かあるのかなと思っちゃう。


「あー、分かっちまうか」


 ギルド長が、ボリボリと頭を掻きながら書類を摘んで私達の方へ渡してくる。


「なんニャ?」

「どれどれ?」


 そこには、王都のある貴族からスリーピー・ホロウの魔石を手に入れた冒険者の身柄を渡せと書かれてあった。


「えっ? 何これ、どういう事?」


 どうやら王都で行われた競売で、ドルミール教に負けて魔石を落札出来なかった貴族が同じ物を手に入れさせようと私達を探せと言ってきているらしい。


 ギルド長曰く、私達の事は知られていないので、この書類にある冒険者も誰とは書かれていない。


 ギルド長も私達を渡すつもりはないと言っている。この書類にも返事は出さないと。それでも、貴族がこの街に偵察を入れてくる可能性はあるとの事。


 ドルミール教とルリリアにその可能性は無いかと聞いたら、それは無いという事。ルリリアについては本当にたまたま女性冒険者を探して私達に会ったのだろうと。


「どうしましょうかね」


 せっかく快適睡眠のアイテムが揃ってきたと言うのに、何だってこんな邪魔が入るのかしら。

 とにかく。私達の事がこれ以上広まらないように、貴族の興味が無くなるまで静かに暮らすしかなさそうね。


 と言う変な話しになったけれど、今日の私はすこぶる機嫌が良いの。だって今夜は七時間は確定で眠れるのよ!

 

 これから家に戻って、ティフィの作った美味しいご飯を食べて、スリリンのマットレスを追加したベッドで眠るの。


 はぁー! 考えただけでも幸せになれちゃう!

 

◯◯◯


「オーランドの冒険者ギルドから返事はまだか!?」


「生憎と返事は届いておりません」


「あそこはモンローバーク伯爵領の管轄だったな、だったらギュスタフに連絡を取って探りを入れさせろ!」


「恐れ入りますがお館様、その冒険者が犯罪を犯した訳でもなければ他領の者が入り込んで冒険者ギルドに探りを入れるなど、もし我々だとバレた時には困った事になります」


「くっ……ならば、その者たちが犯罪を犯しているとなれば良いのであろう。競売に出された魔石に偽物の疑いがあるから、調べる為にその冒険者を差し出せと言え!」


「冒険者ギルドも、スリーピー・ホロウの魔石が本物がどうか調べている筈。またドルミール教がその様な訴えをしていないのに、此方が一方的にそう訴えるのも不審がられるかと」


「では、どうしろと言うのか! 指を咥えてドルミール教に魔石を渡してしまうのか!?」


「訴えは起こさず、此方から密偵をオーランドに向かわせます。そしてスリーピー・ホロウの魔石を入手した人物の情報を調べさせましょう」


「調べさせるだけでは生ぬるい、見つけたら連れて来させろ!」


「畏まりました……」


 礼をして俯いたままの執事を放って部屋を出てゆく主。


 主が居なくなった部屋で、執事が独り言のように呟く。


「聞いていたな、その様に手はずを取るように……」


 そして執事が部屋を出た後、誰も居ないはずの部屋のカーテンがフワリと揺れた。


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