二十二話 最高のマットレス
最高のシーツに枕カバー、布団カバーが完成したところで私の快眠ライフはさらに充実した日々を過ごしていた。
クイーン・シルク・スパイダーの布地で快適睡眠がさらに三十分追加されてトータル四時間に! さらに快眠サイコロも次の目が解放されたの!
『1』だけだったサイコロに燦然と輝く『2』の数字。一箇所のみだけど二時間追加で眠れる要素が増えたのは何とも心強い。
そして今回、私とニヤは最高のマットレス(スリーピー・スライム)を求めて渓谷へと移動していた。
「くそー、気持ち悪いくらい気持ちいいわねこのインナー」
防具屋のおじさんが作った服の下に着る鎧下というインナーは体の動きを妨げず。それでいて必要な部分はしっかり守る作りになっていた。
「悔しいけど、おじさんも一流の職人ってわけか」
目的の場所に近づき、足音を抑えながら移動している最中。私とニヤは、谷間を抜けた先で不思議な光景を目にした。
「あれは何かしら?」
ゲギャ、ゲギャと甲高く耳障りな音。
「あれは、悪名高きゴブリンの声ニャ」
そっと岩陰から近寄ってみると、ゴブリンが何匹も集まって大きな塊を袋叩きにしている所だった。
ゴブリンの体長の倍はありそうな大きな丸い塊。
それに向かってゴブリン達が棍棒や錆びた剣を打ちつけている。
そして何故か、辺りには倒れたゴブリンがたくさん転がっている。見ていても特に攻撃を受けているようには見えない。
と言うか、ボコボコやっている最中に突然フラフラし始めてパタンと倒れている感じ……
「もしかして、アレってスリーピー・スライム!?」
ゴブリンがスリーピー・スライムのゼリーを狙って攻撃しているの?!
咄嗟に私はスライムの前に飛び出した!
「ゴブリン共! このスライムは私の物よ! お前たちには渡さないわ!」
その時、スライムを庇うように手を広げてた指先が、ほんの僅かにスライムに触れていた……
ゴッ!
「いたっ!」
「あかり、起きるニャ!」
痛みに気がつくと私は地面に横になっていた。
目の前にはゴブリンがいて棍棒を振り上げている。
そこをニヤが跳ね飛ばして、私を庇ってくれていた。
今の何? まさかあの一瞬で私は寝っていたの?
ほんの僅か、指先がスライムに触れた瞬間――
私は記憶を失うほどの睡魔に襲われ眠ってしまった――
「なんて素晴らしいの!」
これ! これよ! 私が求めていた究極の寝具!
このスリーピー・スライムのゼリーこそが、私のマイ! フェイバリット! パートナー!
起き上がった私は、武器を持って襲ってくるゴブリン共を片っ端から片付けた。そして寝ているゴブリンにもトドメを刺す。
全ての敵を片付けて、くるりとスライムへ向き直る。
「さあ! スリーピー・スライム! いやスリリン!
私の元へいらっしゃい!!」
そう叫んだ瞬間――
「アリガトウ」
スライムの体が振動を始めた。
プルプルプルプル〜〜
まるで作り立てのゼリーをプルプルさせたみたいに、美味しそうにプルプルしている。
「何ニャ?」
「分かんない、何だろう?」
ニヤと二人で黙って見ていると、振動がどんどんと激しくなる。
「えっ?! えっ!?」
ブルブル震えていたスライムが、突然激しい光を放ち思わず目を閉じる。
「きゃあ!」
「眩しいニャ!」
目を閉じてもなお眩い視界の中、頭の中に誰かの言葉が飛び込んできた。
「助けてくれてありがとう!」
光が収まり目を開けると、そのには小さなスライムがピョンピョンと飛び跳ねながらこちらを見ていた。
キャー! かわいい!!
あれ? でもさっきのスライムは何処にいったの?
キョロキョロと辺りを見回していると、目の前のスライムからまた話し声が。
「お姉さん、僕はココだよ!」
目の前のスライムをジッと見る。
「えっと、さっきのスライムがあなたなの?」
心の感動を外に漏らさないようにドキドキしながらスライムと会話を続ける。
「そうだよスリリンだよ! ゴブリンに痛くされて困っていたの。助けてくれてありがとう!」
ピョンピョンしてお話ししてくれるの可愛い!
ニヤのモフモフも良いけれど、このザ・ゆるキャラな感じも大好き!
「スライムって話せるのニャ?」
「僕はスリリン! 僕は普通のスライムじゃないからね。エターナル・スリーピー・スライム! 長く生きていたからこんなふうに話す事が出来るんだよ!」
私達の回りをピョンピョンと飛び跳ねながら会話するスリリン。
「二人の名前も教えて!」
「ウチはニヤニャ! こっちはあかりニャ」
「ニヤニャとあかりニャ?」
「違う違う! ニヤとあかり、ニャ!」
「分かった!」
次の瞬間、頭の中にピピッと繋がる何かを感じた。
「これでちゃんと繋がれた! これからよろしくねお姉ちゃんたち!」
ピョンと跳ねて私の腕の中に飛び込んで来たスリリンをキャッチする。
ふぉおおおおー!!
この手触り、この感触! 最高じゃないの!
そのまま頬ずりしたくなる衝動を抑えて、この子の事を仕様書で確認する。
『エターナル・スリーピー・スライム
永遠の時を生きた伝説のスライム。そのスライムに触れられると、永遠に目を覚ますことなく眠りに付ける』
おう! エターナル!
「スリリンに触れると、永遠に眠り続けるの?」
私の呟きにスリリンが答える。
「そんな事はないよ? 僕が起こそうと思えば目が覚めるよ。ただ、時々起こすのを忘れてしまうんだ」
「じゃ、望むままに眠れるの!?」
「そうだね。だけど、あかりお姉ちゃんにはあまり効かなそう? 何故かそんな気がする……」
「そうなんだ……」
それは……女神が受けた魔王の呪いの余波かな?
ニヤが尻尾をパタパタさせながらコッチを見ている。
「ニヤもどうぞ」
スリリンをニヤにも抱っこさせると。
「んにゃ!!」
シビビビビッと尻尾を痺れさせて、その場で眠ってしまった。
「やっぱり、あかりお姉ちゃんには効かないね」
スリリンは、私に効かせていた睡眠をニヤにも同じように掛けたという。
やっぱり私は、満足に眠れない存在なのね……
ちょっとしょんぼりとしたスリリンだけど、この手触りや感触はとても良い。だけど……
「もうマットレスには出来ないわね」
小さくなってしまったスリリンを見る。
「大丈夫だよ! 大きさは変えられるから!」
と言うと、ピョンと腕の中から飛び降りて。さっきの大きなスライムのサイズに戻った。
「あかりお姉ちゃん、僕に座ってみて!」
スリリンはソファのような姿に変わって私に座れという。
ゆっくりとスリリンに腰掛ける。
ふわぁ〜〜!
さっきの手触りの感触のまま、今度は全身が快適を訴えてくる。
これで満足に寝れないなんて悲しいよー。
そう思っていると、不意に眠気が襲ってきた。
眠気を感じるままに目を閉じる――
・
・
・
「ふ、ふぁ〜」
満足した眠りから目を覚ますと、目の前でニヤが食事の用意をしていた。
「あっ、あかり起きたニャ?」
私も立ち上がろうと床に手を付く――
ふにゅんとした手応え。
パッと手元を見ると、半透明な物体。
「あ、あれ? 私……」
「あかりお姉ちゃん目が覚めた? やっぱり僕が意識しなくても勝手に起きちゃったね」
そうだった! 私、スリリンが変化したソファに座って、そのまま寝てしまったんだ!
「え? ニヤ。私、何時間くらい寝てた?」
ニヤが作業していた手を止めて時計を確認する。
「二時間くらいニャ。あかりにしては沢山寝ていたニャ?」
「え? え? え? え? 二時間!? 私、二時間も眠れていたの!?」
それにしては満足感が段違い!
「あかりお姉ちゃんゆっくり眠れた?」
ソファだったスリリンが、元の姿に戻る。
「うん! スリリン凄いよ! メチャクチャよく眠れたよ!」
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『クイーン・シルク・スパイダーの布地』
快適睡眠、三十分
『スリリンのマットレス』
快適睡眠、三時間
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