二十一話 夢
思わぬニヤの癒しを堪能して、私は現在絶賛お気に入りの寝室へとやってきていた。
リルルラの依頼で屋敷を留守にして、この快適なベッドから離されていた期間も私の心はこのベッドに縛り付けられていた。
やっとベッドで寝られる。
その気持ちとは裏腹に、例えベッドに横になったとしても快適に眠れるのは二時間だけ、快眠サイコロ振っても三時間がMaxだ。
眠れない時間をいかに過ごすのか……
私は、ベッドサイドのテーブルに置かれたマジックバッグに目を向けた。
「よいしょっと」
マジックバッグから取り出したのは一冊の本。
これは、あのユメリアの像があった教会の部屋を探索して見つけたが、リルルラに声を掛けられて思わずマジックバッグに入れたまま忘れていた物だ。
表紙には何も書かれていない。かなり劣化も進んでいるので、ゆっくりと丁寧に表紙を開く。
『この本には、私が生涯を使って集めたユメリア教の大司教フミンフキュが行った布教【魔王への不眠の呪い】の全貌と、魔王が倒された後のユメリア教の悲劇の真実が記されている。
この本を手にした者よ、今がユメリア紀何年か存じぬが、歪められた女神ユメリアの歴史の正しい理解者としてこの事実を知って欲しい。
願わくば。歪んだ歴史が修正され、正しい歴史がもう一度広がることを願う』
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私はその夜、眠る事も忘れてその本を何度も繰り返し読み込んだ。
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「眠い〜」
「あかりは何時も眠そうだニャ」
朝になり、ダイニングで朝食を食べるために降りていくと、そこにはもうニヤが起きていていた。
ティフィが作った美味しそうな朝食をモリモリと食べている。
「あれ? リルルラは?」
昨日から屋敷に泊まっているリルルラの姿がない。
「リルルラさん、朝は苦手のご様子ですね」と、朝食を運んでくれたティフィの言葉。
「へー」
手を合わせて朝食を頂く。
食べながら、昨日読んだ本の内容を思い出す。
この世界でユメリア教の信者は、不眠の呪いの影響を受けて満足に眠れなくなる。
リルルラのドルミール教は、不眠の呪いを避け、人々に安らぎと快眠を与えるとして今では殆どの国民が入信している。
――のだけれど。
「ねぇニヤ、あなたは眠っているとき夢を見る?」
スプーンの手が止まる。
「ゆめ?……ゆめって何ニャ?」
「夢って、ほら。眠っている間に、起きている時に起こった事や、昔の事が頭の中に浮かんでくるあれよ。時には空を飛んでる夢も見た事あるでしょ?」
ニヤが私の言葉をポカンとして聞いている。
「知らないニャ、寝ている間は真っ白ニャ。それがドルミール教の快眠の奇跡ニャ」
真っ白で夢を見ない……
それこそが、あの本にも書いてあったドルミール教の快眠の奇跡の異質。
この違和感の元を考えていると、当のルリリアが起きてきた。
「おはようございます」
そのままテーブルに付いて、ティフィが運んだ朝食を食べる。そんなルリリアがとても良い笑顔で食べている様子をティフィが微笑みながら見ている。
「今日はどうするニャ?」
皆の食事が終わり、ニヤが今日の予定を聞いてくる。
私の予定は、クイーン・シルク・スパイダーの糸を布地にしてもらう事。唯一の伝は防具屋のおじさんなのだけど。
ルリリアは、一度教会に戻って二人の騎士の様子を見てるくとの事。ついでにニヤが宿屋に連れ添って、お昼と遠征のお弁当を追加して貰う相談に行く事になった。
「おじさーん! これ加工できるとこ知らない?」
いつもの防具屋、作業場から顔を出したおじさんがキョロキョロと辺りを見回してる。
「何? ニヤなら一緒じゃないわよ?」
何故かガッカリした顔をしたおじさんがカウンターにきて「新しいシスターがお前さんの所に来たんだろ? てっきり一緒かと思ったんだが……」
何でそれ知ってるのと思ったら。新しく教会にきた大司教よりも、ルリリアの事はエロいシスターで既に街では有名になってた様子で、依頼で私達が一緒に出掛けているのも知れ渡っていたとの事で、今日も一緒なのかと期待したそうだ。
「ふん、あんな駄肉の塊何の役にもたたないわよ」
「俺たちの心は癒してくれる」
当然のようにドヤってくる顔にイラッとしながら。
「こっちはおじさんの懐を満たしてあげられるけどね」
と言って、お願いしたい素材を取り出す。
「これはシルク・ウォーム……違うな……この固さとしなやかさシルク・スパイダーの糸だな」
「半分正解、これはクイーン・シルク・スパイダーの糸よ」
クイーンと聞いて、おじさんの目がシロクロする。
「クイーンだと!? またたまげた素材を持ってきたな! じゃあこれで鎧下でも作ってくれと言うわけか! だが、この素材は道具も必要とするからな、すぐにと言うわけにはいかないぞ」
滅多に手に入らない素材と聞いて、がぜん張り切るおじさんだけど残念……
「これで、布地を織ってくれる人を紹介して欲しいの。もちろん手数料くらいは払うから」
「はぁー!? まあ鎧下を作るにも布地にしなきゃいけねえが。これ全部布地だけにするってのか?」
「ベッド用のシーツや布団のカバーとか作りたいものが沢山あるのよ。そりゃ下着の一枚や二枚は作りたいけれど」
「下着なんて、そんなもんサラシでも巻いとけ!」
ドゲシッ! とおじさんに蹴りを入れてから店を出ようとする。
「待った! 最高の職人に心当たりがある、ソイツに任せて最高の布地に仕立てさせるから、ちょっとだけ俺にも仕事で素材を使わせてくれ!」
なんとも珍しく真面目な顔をしてお願いしてきたものだから、仕方ないわねと糸を渡して布地への加工を頼んでみた。
数日後……布地が織り終わったと連絡を受けておじさんの防具屋をたずねる。
「すごーい!」
そのしなやかな手触り、艶々のスベスベな感じは現代の最高級シルク! かつその布は、外部からの衝撃を弱めて鋭いナイフも通さない防刺性能も備えていると言う。
思わず頬ずりしたくなる滑らかさ。
ちょっと引いて見ているおじさんと、その横で満足そうな顔で見ている女性の姿が。
「気に入って貰えたようですね」
この人が、今回クイーン・シルク・スパイダーの糸を布地に織ってくれた職人のイライザさん。
「イライザさん! 凄いです! 最高! 最高のシーツです!!」
「いや、最高の感想がシーツなのかよ……」
横でぶつくさ言ってるおっさんは放っといて。
「これをベッド用のシーツとマクラと布団カバー、予備も含めて二枚ずつ。それに下着も出来たら欲しいのだけれど」
「ちょっと待て! それだと俺の分の布地が足りなくなるだろ?! 最高の鎧下に仕立てるから俺にも頼む!」
焦ったように足元に近寄ってくるおじさん。
「鎧下は要らないって、私そんなの着ないし」
「あかりさん、よかったらその人にも何か作らせてあげて。こう見えても防具作りに関しては一流だし、布地に関しては私も何とか調整してみるし」
イライザさんがおじさんを庇ってフォローしてきたので、最低限必要な分は必ず作って貰う事にして、残った布地はおじさんの好きに使っていい事にした。
それから数日後、悔しいけれどおじさんの事を認め直す事になったのよね。




