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十五話 快適な家

 スリーピー・ホロウの魔石。


 今まで誰も討伐した事のない魔物、流石のギルド長もこの魔石の買取金額が示せなかったので王都で競売に掛けられる事になった。


 私達は取り敢えず金貨十枚だけ貰って差額は競売の後に貰うという事とスリーピー・ウッドの丸太でベッドを作れる工房を教えて貰って冒険者ギルドを後にした。


 スリーピー・ウッドのベッドが完成するまでの間、ニヤと手頃な依頼をこなしつつ新たな快適素材の魔物の情報を集めたりして過ごしていた。

 

 最初にお金は稼いだからね、少しはのんびり過ごしたい。相変わらず睡眠時間は足りないけれど、締め切りや通知音に怯えるプレッシャーが無いだけでも気が楽だ。


 一ヶ月後、スリーピー・ウッドのベッドが完成した!


 それこそ腕利きの職人さんに頼んだのでお金もかなり掛かったけれど、ついに私だけの快適に眠れるベッドが完成したの!


 早速部屋に置いて寝心地を確かめたい所だったけれど……


「置けないの?」


 どうやら宿の部屋には大きさ的に入らない、どころかそんなベッドまで持ち込むなよ的な目で見られてしまった。


「仕方ない、リリアさんに相談するか」


 冒険者ギルドに行ってリリアさんに相談すると、ある提案をされた。


「家を借りたらどうですか?」


 家ならば快適を追求した部屋も用意できるはず。という事で、ギルドでも斡旋しているというので家を見に行く事になった。


 ベッドが置ける部屋がある。


 第一条件がそれ!


 歓楽街からは離れている事。


 出来れば静かな方が良いもんね。


 予算は、少しでも安ければ嬉しいかな。


 という事で何件か紹介してもらって見て回ったのだけれど……


「なんっか、ピンと来ないのよねー」


 ニヤとも相談しながら選んでいたのだけれど、どうにもコレだという物件に出会えない。


「もう最初の家で良いんじゃないかニャ?」


 家探しに飽きたといった感じのニヤが、適当な事を言い始める。


「あそこは広すぎるでしょ、誰が掃除するの?」


「……」


 実は二人とも家事や掃除が苦手だという事が判明していた。ニヤは冒険者として活動しているので外での食事は大雑把に鍋に突っ込んで煮る、焼くオンリー。必要だからやってるだけで特に好きでは無いらしい。

 最初に食べた鍋が美味しかったのは、宿屋の鍋をそのままマジックバッグに入れて持ってきてたから!


 宿屋でご飯を食べたとき、同じ味だったので聞いたら白状した。


 私? 私はブラック環境で働いていたから食事は外食かコンビニで済ませていたし。マンションの冷蔵庫は常に空かビールのみ。洗濯は洗濯機がやってくれるし掃除もロボット掃除機がやってくれていた。


 現代の力に頼り切りの元日本人にはハードル高すぎるスキルです……


 二人が新居選びで難易している事を気にかけてくれたのか、リリアさんが一つの提案をしてくれた。


「もし宜しければ、テストを受けてみませんか?」

 

「テスト?」

「テストニャ?」


 どうやらこの街のある場所に、長年人は住んでいないけれど常に綺麗で庭も整理されており、あまつさえそこを管理する者に認められると無料で住めると言うのだ。


「無料!? そのテストはどうやったら受けられるの?」


 思わずリリアさんに詰め寄る。


「取り敢えず、その家に行けば大丈夫です。但し誰でもとはならないので私達も人選の上でご紹介させて貰っています」


 という事は……私達はその管理人さんに合わせても良いと判断された訳ね。


 リリアさんに付いて暫く歩くと、高級そうな住宅が建ち並ぶエリアに入った。そこから更に歩いて辿り着いたのは。


「うそ!?」

「すごいのニャ!」


 広い前庭のある豪邸、門から屋敷までも距離があり、馬車でもゆっくり入って行けるくらいの立派なお屋敷。

 

「本当にここに無料で住めるの?」


「あくまで、管理する者に認められれば。ですけれど」


 ポカーンと門の前で屋敷を見ていると、いつの間にか門の屋敷側に人が立っていた。


「えっ?!」


 さっきまで誰も居なかったよね? そう思っているとリリアさんが中に居る人に声を掛けた。


「よろしくお願いします」


 それだけ言って、私達の後ろへと退がるリリアさん。


 門の中の人と、私達が門を挟んで向き合う。


 それにしても……この人? って人なのかな?


 見た感じはメイド服を着た普通のメイドさんにも見えるけど。なんだか無表情でジッとこちらを見ているだけで、視線や態度にも人の感情というか、何か違和感を感じる――


 フッとメイドさんの雰囲気が変わった。


 それまで無機質とも思われたメイドさんが、本物のメイドさんに変わったかのような雰囲気になった。


「んニャニャ?」


 ニヤもメイドさんの雰囲気が変わった事を感じたのか、尻尾がピーンと伸びて緊張しているみたい。


 そして……


 ガ……シャーン! ギ、ギギーーッ。


 錆びついていた門が動きだし、ゆっくりと開き始めた。


「ウソッ!!」


 リリアさんが口に手を当てて驚いている。


 ガシャーン!


 門が完全に開くと、メイドさんが前に出てきてニコリと微笑む。


 そして……


「どうぞ中に、ようこそいらっしゃいました。ご主人さま」


 ――って、これってテスト合格って事?


 応接室に通された私達は、テーブルに案内されて目の前でメイドさんにお茶を振舞われている。


 冒険者ギルドのリリアさんも、さっきから興奮した状態で周りをキョロキョロ見回したり、何か呟いたりしてる。


(まさか……本当に? であれば、あかりさんは百年振りに認められた者という事?)


 怪しい呟きは聞かなかった事にして、メイドさんに淹れて貰ったお茶を楽しむ。


 落ち着いた所でリリアさんに説明して貰う。


 彼女はこの屋敷に住んでいるブラウニーだという事。ブラウニーと言うと小さな妖精だった気がするけれど、この子は見た目も人と同じだし、メイド服着てるし、話せるし。


 私達の話しが終わった所でブラウニーが近寄ってきた。

 

「ご主人さまのお帰り、お待ち申しておりました」


 何だろう? このブラウニー、私を誰かと間違えてる? でも、私はこの世界に来たばかりだし。


「ねえ、ブラウ……あなたの名前教えてくれる?」


 ブラウニーは、その質問に一瞬寂しそうな顔を見せた後。


「ティフォン……以前の主人からはティフォンと呼ばれておりました。あの……ご主人さま、私に新しい名前を付けて頂けませんか?」


「いいの?」


「はい。新しいご主人さまのお好きな名前を付けて下さい」」


 私は少しだけ考えた。


 きっとこの子はあのやり取りで私が以前の主人と違うと気付いたのだろう。以前の主人との思い出を捨てて、私達との関係を築こうと名前を付けてくれと言っているんだ。


「それなら……あなたの新しい名前は『ティフィ』ティフィと呼ばせて貰うわ。それから私は『あかり』ご主人様でなくてあかりと呼んでくれたら嬉しいな」


「ウチはニヤニャ! ニヤもニヤと呼んで欲しいニャ!」


「分かりました、あかり様、ニヤ様」


(ティフィ……)

 

 そっと胸の前で手を合わせて、新しい名前を呟いたティフィ。気に入って貰えると嬉しいな。


 挨拶が終わると、リリアさんが書類を出してきた。


「ティフィ様、この屋敷はあかりさんとニヤさんが持ち主として認められたと認識してよろしいでしょうか?」


 ティフィがリリアを見てコクリと頷く。


「では、こちらにサインをお願いいたします」


 リリアが差し出した書類にティフィがサインし、続いて私とニヤのサインをすると契約が成立。


 ふわりと光が舞ったと思うとすぐに消えた。


「これで契約完了です。これからこの屋敷はあかりさんとニヤさんの所有になります」


 そう言うと、リリアさんは書類を鞄に入れて冒険者ギルドへと帰って行った。


 帰り際、小声で(ギルド長に至急報告しなければ)と呟いていたのは気になったけど。


 ブラウニーが住んでいるお屋敷。


 お掃除大好きブラウニー。


 もちろん料理の腕前もプロ級で。


 毎日快適環境ゲットだぜ!


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 『新しい家 & ティフィ』

 快適睡眠、?分


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