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十三話 子守り唄

 嘆きの森まで三日間の移動。


「ニヤ、そこまではどうやって行くの?」


「最初の二日は馬車に乗って移動するニャ、三日目は歩いて森の近くの村まで移動、目撃情報を聞き取り。それから森に入って調査と対象の確認、もしくは魔物の形跡が確認出来たら依頼達成となるニャ」


「ふーん」


 冒険者ギルドを出て、遠征の為に必要な物を買い物しながら今後の計画を確認する。


 PDCAチェック大事。


 必要な荷物を買い物。

 

 目的の確認と、最終目標の共有。


 お互いの体調確認、目的達成に向けて実行可能か判断。


 冒険者登録をして初めての依頼だ、しかも快適睡眠の素材になる魔物の調査、絶対に失敗なんて出来ない!


 そして、移動当日。


「荷物の忘れ物ないね?」


「大丈夫ニャ! 宿屋のおばちゃんの料理もたくさんマジックバッグに入れたニャ!」


「よし! それでは嘆きの森への調査に出発!」


「おー!」


 カッポカッポと馬の足音が響き、ガタゴトと荷馬車の振動が続く。


「んふふー、快適」


 土を慣らしただけの街道の凸凹の振動を、キング・ジャンピング・シープの毛で織った布地とキング・オークの毛を詰めたクッションは完璧に吸収し、私達のお尻を守ってくれた。


「快適にニャ!」


 ニヤもこのクッションの座り心地には大満足らしく、ずっとニコニコして座っていた。


「体力が持てば、徒歩でも全然平気だね」


 最後の一日は徒歩での移動だったけど、馬車での移動が快適だったおかげで体力にも余裕が生まれ、楽に歩く事ができた。

 

 夕方前には村へと辿り着き、ニヤと二人で村長の家を訪ねる。

 今回のスリーピー・ホロウの目撃情報の確認と、目撃したおじさんを呼んでくれて、見かけた時の様子や場所を確認する。


 翌日。


「森の中の調査は三日ニャ。四日目の昼を過ぎても帰って来なかったらギルドに報告をお願いするニャ」


 村長へ私達の予定を伝えて、嘆きの森へと入る。


 入ってすぐの部分は計画的に伐採されて、見通しも良い中を歩く。

 目撃者が見たというのはもっと奥。半日ほど進んだ場所らしい。


「さて行くニャ」


 木こりが付けたという目印を目標に、森の奥へと進んでゆく。この辺もニヤは目ざとく目印を見つけるけれど、私には全く分からない。


「よく分かるね」


「これも慣れニャ。あかりもすぐに分かるようになるニャ」


 そして、聞いていた場所まで半日ちょっとかけて辿り着く。ニヤが私に目印の見つけ方や、山の中の歩き方を教えながら進んだので時間が掛かったのだ。


「いないみたいだニャ」


「急に鬱蒼(うっそう)としてきたわね」


 その時、さらに森の奥から叫び声のような音が聞こえてきた。


 ォオオオオオオオーー!


「何!?」


「落ち着くニャ、あれはこの森の名前の由来。嘆きの森の嘆き声だニャ……」


「これが、嘆き声」


 この辺りが嘆きの森と言われる由来は、森の木の配置によるもので。複雑に生えた森の木がソコを通り抜ける風により、人の泣き声や嘆き声に聞こえる事からそう名付けられたという事。


 この現象が森の木の配置にあると分かる前は、誰もいない森で人の嘆き声が聞こえると、かなり長い間恐れられいたらしい。


 今では、森の木を計画的に伐採する事で、森の入り口付近では聞こえなくなっているそうだ。


「でも、分かってて聞いても気持ち悪いわね」


 ォ、オオオオーー!


「また、聞こえた」


「違うニャ! こっちは本物ニャ!」


 えっ!? そうなの? 全然分かんないよ?!


 ニヤが、声が聞こえた方へと走り出す。


 私も、いつでも剣が抜けるように準備しながら後を追いかける。


 先に行ったニヤに追いつくと、ニヤは藪に隠れて先の方を覗いていた。


「いた?」


「シッ」


 口の前に人差し指をあてて、静かにするように指示される。


 ニヤが指差す先を見ると……


 ォ、オオオオオオーー!


 あの嘆き声と共に、白いボンヤリとしたモヤが集まって何かを形作っていた。黒いモヤの部分が目と口にも見える。


「あれがスリーピー・ホロウ?」


 ニヤが黙って頷く。


 でも、それにしてはあの声を聞いても眠らないし、眠くもならないんだけど?


「アイツ偽物? じゃなければポンコツ?」


 そう言った途端、気温が数度下がった気がした。


 気がつくとスリーピー・ホロウがこっちを見ている。


「聞こえ……ちゃ……った……かな?」


 ポンコツ呼ばわりされたので怒ったのか、結構な早さでこっちに向かってきた!


「ォオオオオオオオーー!!」


 さっきまでの嘆き声ではなく、完全に叫び声だ!!


 ガクンッと膝から落ちる。


「キタッ!」


 が、眠り落ちるまではない――


「こいつもか?」


 これも効かないのかと残念に思っていると、ふと隣が静かな事に気がついた。


 あ、あ、あーー!!


 ニヤが寝落ちしてる!


 羨ましい!


 ――っじゃなくて! 苦しそうな寝顔してるから悪夢を見ているのかも!


 起こしてあげたいけれど、さっきからスリーピー・ホロウが大声で叫びながら私を追いかけて来るの!


「ええぃ! 仕方ない! 私が直接相手してあげようじゃないの」


 聖剣カルンウェナンを抜いて立ち構える。


「ォ、オオオオオオーーン!」


 ジーンと目の奥に響く声。


 すれ違いざまに剣を振るうけれど、まるで手応えが無い。


「お互い力が効かないようね」


 私は聖剣の力が効かず、スリーピー・ホロウは叫びの力が効かず。


「だけど!」


 何度も虚無に向かって剣を振っているだけだったけれど、僅かに私の力の方が上だったようね!


 少しずつだけど、スリーピー・ホロウの体が削られてきている。


 効いている事に気が付いたのか、スリーピー・ホロウもさらに叫び声を大きくして対抗してくる。


「オッ、オオオオオオオーー!!」


 ――クッ!


 さすがにクラッときたけれど、まだ倒れる訳にはいかない――と言うか、これだけ効果があるのだったら間違いなく持って帰りたい!

 持って帰って毎晩聞いて子守り唄にするのよ!


 何度も攻防を繰り返すうちに、スリーピー・ホロウが明らかに弱ってきた。

 大きさも最初の半分以下になっている。


「そろそろいいかな」


 マジックバッグから小瓶を取り出す。使い方も教えて貰っている。

 小瓶の蓋を外し、瓶を持った手を伸ばして教わった呪文を唱える。


「彷徨える魂よ、聖者の導きに従え!!」


「オ、オォォォ……」


 瓶に向かって、スリーピー・ホロウの体が吸い寄せられるように細く伸びて入ってゆく。


「オォォォ……」


 抵抗する声が段々と弱くなり。


「おおっ!」


 全てが瓶の中に収まった所で、ギュッと瓶に蓋をしてマジックバッグに戻しておく。


「やったー!」


 ついに、子守り唄ゲット!!


 さあ! ニヤを連れて帰って今夜は睡眠パーティーだ!

 

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