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十二話 あかりの一日

(おはよー。ニヤ、ってまだ寝てるねえ)

(今日は休みにしているし、このまま寝かせといてあげるかな)


 グッスリ眠っているニヤを見て、少しだけ羨ましさも感じながら、私は着替えを済ませて一階の食堂へと降りて行った。


「お姉さん、朝ごはんお願いします! ニヤがいないから甘いのも下さい!」


 宿屋のお姉さまとお喋りをして、お茶と甘いお菓子も頂く。


 こんなゆっくりな朝を満喫しながら考える事といえば……


 スリーピー・オウルの羽根で作ったマクラ


 キング・オークの毛で作ったクッション


 キング・ジャンピング・シープの毛で織った毛布


 眠りのダイス


 トータル二時間は眠れるようになった私。


 あとはマットレスと掛け布団よね。


 睡眠時間が多少改善されたおかげで、毎日が快調に過ごせ始めている気がする。


 まだまだ快適睡眠十時間までは折り返しにもならないのだけれど「毎日二時間は快適に眠れているよ」なんて以前の私に言ってあげたら、きっと喜ぶだろうな。


 ◯◯◯


「おら! またテスト止まってるぞ」

「は? 何でー……」


 徹夜で書き上げたプログラムが、ルーチン入れた途端に止まるなんて、もう日常茶飯事だ。


 テストを回してもデモ画面は一向に動かず、コンソールには赤いエラーの嵐が広がる。


 悪夢なんて生優しいもんじゃない。


 更に追い討ちを掛けるのは、クライアントからの突然の仕様変更だ。


 睡眠時間を削りながら、素人みたいなプロットからまともな製品に仕上げていく。


 私たちの苦労は、全部、愛想だけが取り柄の営業マンに吸い上げられていく。


 ……ベッドで寝れるだけマシか。


 一度自宅に帰れるだけマシか。


 仮眠室で横になれるだけ……


 机の下で……


 気がつけば、キーボードに突っ伏していた。


 ある朝、出社すると……


 ◯◯◯


 そんな悲惨な現場からすると、この世界は輝いて見える!


 確かにちょっと外に出ると、命の危険もあるけれど、それは現代でも自動車事故とかある事だし。


 今日は街を散歩してみよう。


 普段はニヤと一緒に出掛ける事が殆どだけれど、たまには一人でぶらりと歩いてみるのもいいよね。


 気がつくと何時ものおじさんの店の扉を開けていた。


「おじさーん」


「?」


 いやいや、別にいいんだけど。わざわざ一人の時におじさんの店に寄る必要もないかな。


 入り口開けて声まで掛けておいて逃げ出すなんて、小学生みたいな事してしまったけれど。何だったら帰りにでも寄れば良いか。


 普段は通らない角を曲がって、知らない道へと進む。


 ほお、あんな所にもお店が。


 何だろうこの辺の店は……


 一階は同じような飲み屋さん? 二階の窓からチラチラとコチラを覗くお姉様方のお顔が見える。


 あっ! 夜のお店か!


 失礼しました。そそくさと、元の道へと戻る。


 昼間だったので雰囲気が違ってて分からなかった。


 朝の賑やかさの残る市が並ぶ通りに出た。


 この辺は宿屋や奥さん達がよく使う通りだよね。


 私は自分で料理しないから、あまり野菜や材料については詳しくない。


 マジックバッグに入れたら名前が分かるから、それを仕様書で調べるとどんな食材か分かるけど、勝手にマジックバッグに入れてたら盗みで捕まっちゃうもんね。


 オレンジ? グレープフルーツみたいな柑橘系の果物があった、思わず店おばさんに声を掛ける。


 おばさんによると「グレプ」の実らしい、サッパリとしてシャクシャクした食感が美味しいらしい。


 ひとくち味見させて貰ったら好きな味だったので、ふたつ貰っておいた。帰ったらニヤと食べよっと。


 市を通り抜けると、街の壁沿いまでやってきた。


 この辺から工房が多くなってくる。


 アチコチからハンマーで殴る音や、硬い金属音が響いてくる。威勢の良い職人さんの声も。


 そんな工房の一角で、子供が二人で鍋を洗っている姿が見えた。

 見習いの職人なのかな? それにしては十二、三歳? まだ幼く見える。


 まあこの辺では、その位の歳でも立派に仕事している子もいるから早過ぎる訳では無いけれど。


 染料を使った鍋なのか、濃い色と独特の臭いがアチコチに跳ねている、子供達の顔や体も跳ねた水で染まっている。


「大変だねえ」


「?」


 思わず声を掛けてしまった。


 見上げた顔を見て、一瞬誰かに似ていると思ったのだけれども……


「おう! お前たち終わったか?」


 裏口から顔を出した主人に見られ。

「何だ、手が止まってるじゃねえか! しっかり働かないと給金出せねえぞ!」と、怒鳴られた。


 咄嗟に「私が声を掛けてしまったの、ごめんなさい」と謝ったけど。


「コイツらも仕事でやってるんだ、邪魔しないでくれ」と言って引っ込んでいった。


 子供達と目が合ったので、頭を下げて謝る。


「仕事の邪魔をしてごめんなさい。これ、終わったら食べてね」


 と言ってさっきのグレプを渡してその場を後にした。


 その時、グレプを手にした一人から「おニィとおネエとも食べよ」と聞こえたので「しまったもっと渡せば良かったと反省」


 まあふたつしか買ってなかったから、全部渡してあれだけだったんだけどね。


 それからまた通りをフラフラして、もう一度小さなお店に入ってお菓子を買って。


 そろそろニヤも起きたかなーと思って宿へと戻る。


 何の事件も出来事もない午前のひと時。


 さて、昼からはニヤと一緒に何しようかな!


 ・

 ・

 ・


「で……?」


 不満顔で目の前に座る二人に威圧され、顔が引きつっているギルド長。


「な、何だよ? ただちょっと呼んだだけだろ?」


「せっかくお昼からニヤとデートして、これから美味しいご飯でも食べようかと言うタイミングで。こんな所に呼び出されたらこんな顔にもなりますよ」


「こんな所って……冒険者ギルドだぞ? しかもギルド長の部屋だぞ?」


「美味しいディナーのお店と比べたら、お茶も出ない店なんて……ねぇ」


 ニヤと二人、顔を見合わせて頷く。


 リリアさんが慌ててお茶を持って来てくれた。


 リリアさんは悪くないんだよー、空気読めないギルド長にちょっと嫌味言いたいだけ。


 プログラマ時代にも、上司からの無駄な呼び出しにどれだけ貴重な時間が溶けていったものか。


「で? わざわざ呼び出した用件って何ですか?」


 ギルド長が、やっと本題に入れるとホッとした顔をしてリリアさんから書類を受け取る。


「保留になっていたスリーピー・ホロウの調査依頼だ、済まないが出来るだけ早く探索に行って欲しい」


「スリーピー・ホロウ!!」


 前のめりに突っ込む私を、転ばないように引っ張るニヤと後ろ向きに椅子から倒れ落ちるギルド長。


 激しい音が響き、続けて手元に落ちてきた書類を拾いあげるとジックリと内容を確認する。


【スリーピー・ホロウの調査依頼

 場所、嘆きの森

 報告者、嘆きの森近くの村(オットー村)の村長

 他、狩人、冒険者数人による証言あり

 追記事項、スリーピー・ウッドも居たとの話あり

 急ぎ、確認のための冒険者の手配を依頼する】


「嘆きの森ってどこ?」


 一緒に依頼書を覗き込んでいたニヤ。


「こないだ行った迷いの森のさらに奥ニャ。到着するまでに三日は掛かるニャ」

 

「よし、じゃあ直ぐに準備を始めよう! これから食料と水を買い集めて、明日の朝にも温かい食料を買ったらそのまま出発するよ」


「分かったニャ!」


「おいちょっと待て!」


 リリアさんから助け起こされたギルド長が呼び止める。もう、今すぐにでも行きたいのに何なの!?


「何よ!?」


「取り敢えず、コレを持ってけ」


 そう言って渡されたのは小さな小瓶。


 その小瓶には、大聖堂にいる聖女の祈りが込められていて実体のない魔物を閉じ込めておく力があるという。

 スリーピー・ホロウはその叫び声もだけど、どんなに敬虔な聖女の浄化魔法でも倒せず。この小瓶に封じ込める事しか出来ないのだとか。


 なので、普通は確認が済んだら特別な武器を持つ冒険者に依頼。スリーピー・ホロウを攻撃して弱らせた後に、この小瓶に封印するのだそうだ。


「じゃ何で私に渡すの?」


 瓶をヒラヒラさせながらギルド長に聞く。


「何となく? お前なら出来そうな気がしてな」


 チラリとギルド長の視線が私の剣に向く。


 確かにこの剣は聖剣カルンウェナンって名前もあるけれど……

 

 仕方ない、この件は貸しだからね。


 ついでにギルド長から、温かい食事を保存できる時間停止付きのマジックバッグも貸りた。


 私のマジックバッグだと間口が狭くて、大きなものが入らないんだよね。


 泣きそうな顔するギルド長に「必ず返すから」と言って借りたけど、いつとは言って無いから便利だったら暫く借りてよかな。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

『スリーピー・ホロウ』

 半透明な体に、目と口に見える黒いシミが特徴

 その叫び声を聞くと眠りに落ち、三日三晩悪夢を見る。

 聖属性の武器で攻撃しても弱るだけで、消滅させることは出来ない。

 

『スリーピー・ウッド』

 短い根っ子を使って器用に移動する木の魔物、その歩き方は少しコミカル。

 スリーピー・ホロウの叫び声を聞いて眠ってしまった獲物に取り憑き。その根から養分を吸い取って干からびさせてしまう。


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