愚かなる王、そして再会
……その日、あたしたちはそのまま休むことになった。
今すぐ向かっても手遅れだし、あいつらが戻ってくる場所はここ。
それに、まずは頭を冷やさないと……ほんとに何をしてしまうか、自信がない。
……今は落ち着いて、状況を確認するべきだろう。
翌日、眠れぬ夜を過ごした後、魔術師さんが伝言を持ってきた。
ーー彼らが戻るのは3日後。
ーー王に会うつもりなら、いつでも都合をつける。
それなら、まずはここの王とやらに会ってやろう。……自らの犯した罪を、知ってもらうためにも。
「……陛下」
「ん?なんだ。お前を呼んだ覚えはないぞ」
……体格はいいが、みょーに偉そう。王様だから偉いのか。そーかそーか。
つーか、玉座にふんぞり返ってるだけで、なにやってんだか。
「……地の月に行いました召喚の義。その儀式でこの世界にこられた方をお連れしました」
「なにバカなことを言っておる。呼んだのはスオウだろう」
「……いえ、違います。スオウ様は巻き込まれただけ。本来呼ばれたのは別の方です。……神々に認められ、友人として接しておられる、女性の方です」
「なんだと!早く連れてこい!」
「……最初っから、ここにいるけど?」
あたしたちは謁見の間に入る。ずっと入り口から覗いてたんだけどね。全然、気づかなかったわ。
「おお、お前が我らの神か!」
「……」
「さあ、全ての異形のものたちを滅ぼし、我らに恵みを与えるのだ!」
「……」
呆れてものが言えないって、こーいうことね。
「父上!なにを仰られるのです⁉」
「決まっているだろう。獣人、エルフ、ドワーフ……。そういった異形の者たちだ。奴らは我らから搾取することしかできん、愚かな者たちだ。そうである以上、さっさと滅ぼさねば我らが滅びるだけだろうが!」
……被害もーそー、ここに極まれり、ってか。バカバカしい。
「王子、このバカさっさと追い出すのが吉だね。こいつが居るだけでこの国は滅ぶ」
「ふざけるな!やはり貴様は神を騙る詐欺師か!衛兵、さっさとこいつらを捕らえよ!」
「無駄です、父上。もうこの城に父上に従う者はおりません……」
そう。神の眷族である火炎獅子。この子と契約をはたした王子の言葉に逆らうものはいない。まして、神官ならば。
神殿の言い訳は、王の言葉に逆らえなかった、というものだけど、実際はその時の大神官が地位と権力を利用して、無理やり周りを従わせた、ということだった。今は弱気な大神官に代わってるけど、当時は王の叔父だったそうだからね。
だけど今は王子の方、神殿と自身の才覚により味方にした貴族たちの勢力の方が大きい。
「そう。もう、あんたはこの国の王じゃない。ただの愚か者だ」
そういいはなって、あたしは後ろに声をかける。
「……このバカ、さっさと連れてっちゃって」
「はっ」
騎士さんとその部下の人たちが、あのバカを連れてってくれた。
「……悪いね……」
本来、こういうのは王子の役目だったろうし。
「……いえ。私は、父を捕らえる命を出さずにすんで、ほっとしてしまってるんです……」
実の父親を罪人とするのは辛い、か。当然だな……。
「とにかく、あとは何とかなるんだろ」
ちょっと強引にトキワは話をかえた。
王子は感謝するように視線を向けると、少し笑った。
「はい。少なくとも、現状で残っているのは、訓練と称して北の地を焼いた者たちだけです」
神殿はヤマブキさんが監視中。
城は王子が掌握した。
あとは、
「……あたしがあれを帰還させりゃいいってことか」
「キキョウちゃん……」
マリーが手を握ってきた。
「大丈夫、だと思うけど、あたしが暴走したら……よろしく」
「どうやって君を止めると?無理難題はやめてほしいけど」
「だな」
「……無理難題なんですか……」
っておい。言いたい放題だな!
……まあおかげで気は楽になったけど。
「取りあえず、3日後だな」
それぞれが頷くなか、あたしは北の方を見た。
ーーー
100人ほどの騎士、魔術師の一団の先頭に一人の黒髪の男がいる。
馬に乗れないからだろね。手綱は横の女性が引いてるよ。あいつはただ乗っかってるだけ。そのせいかね。かえってえらそーに見えっかも。
「あの子……。生きてたのね……」
あたしたちは近づいてくる連中を、水鏡で視ていた。
黒羽が見たものをこっちに映るように、魔術を掛けたらこんなこともできましたとさ。
そんで、あいつの手綱を引いてたのは、間違いなくマリーの妹さんだって。
「……平気か?」
「……大丈夫、よ。わたしは、キキョウちゃんと一緒に旅するって願いがあるもの」
「ありがと」
嬉しくって笑う。みんなも笑い返してくれて、それで覚悟も決める。
「さ、そろそろ行こっか」
「……キキョウ様、私たちは……」
「うん。騎士さんと魔術師さんに来てもらうけど、王子たちは水鏡通して視てて。大丈夫だとは思うけど、念のため護るヒトは少ない方がいい」
みんなも頷く。王子と他の貴族の人たちは不満そうだけど、ちゃんと決めておいたことだ。
「……ご無事を祈っております」
「うん。行ってくるね」
そして、王都の外に向かった。
王都から10分くらいの場所で待つ。
おー、来たな。ちなみにあたしたちはフードで顔隠してっけど。
「何者だ!我らは王国軍、この方は国を救うために現れた勇者様だ!我らの行く手を阻むことが許されると思っているのか!」
騎士団長?らしき人が叫ぶ。
あのバカが勇者とはね。
『スオウ様、彼らが道をふさいでるようです。どうなさいますか?』
……へー。日本語、うまいじゃん。語学の才能でも合ったんかね。
『何故、道をふさぐんだ?ちょっとよけてくれればいいだけだろ』
……いや、わざとふさいでんの。バリケードとか簡易だけど、つくってんのに、わかってないんか……。
『もしかしたら、あなた様にお目通りを願ってのことかもしれません』
『よし、それなら話だけでも聞いてやろう』
「団長。スオウ様がこちらの人たちの話を聞いて差し上げるそうです」
「む。分かった。スオウ様はお優しいな……」
えっと。両方意味がとれるあたしとしては、どこをどう突っ込めばいいんだろう……。
はあ。ため息ひとつついて、あたしたちはフードをとる。
「ーっ!」
『あっ』
『……久しぶり、だな』
あたしの言葉に連中は絶句する。
蘇芳もまた目を見張る。
エリカはマリーを見てるね。……そのマリーは悲しそうにしてる。
……今はマリーのことはトキワに任せて、あたしは蘇芳を見つめ……にいっと嗤った。
王様、一瞬だけ登場。
そして、桔梗とこの世界に落ちたもう一人登場。




