17.前夜2
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王宮の開け放された窓から小柄な影が部屋の中に音もなく入ってきた。
「遅かったっスね」
その声に、影が顔を上げる。
「……あぁ、思ったよりも話し込んでしまっていた」
影が外套のフードを脱ぐ。
「姐さん、顔……」
「何だ。はっきり言え」
「真っ青、ス」
顔を指さしながらそう言われた。
「いや、真っ赤?」
「どっちだ」
「……どっちも」
首を傾げるミラ。
ロキが頭をかく。
「うーん、どっちとも言えるんだよなー」
部屋にはソファとベッドが備えられている。
窓の空いた部屋の隣はアイルファード王の客室である。
客室の続き部屋は貴人の側近、侍女や護衛のためにある。
そこに、ロキとミラは常駐していた。
もちろん、隣の部屋にもアイルファードの騎士が控えている。
「……いや、まぁいい。すまなかったな。私がいない間は、変わったことは?」
「なぁんにも。今ンところ、平和そのモノッス」
「そうか。ありがとう」
外套をすべて脱ぎ、手短な取っ手に引っ掛ける。
「……あ、姐さん。騎士団長ドノから騎士団合同演習の提案が来たんスけど」
「合同演習?」
ロキは肯くと、ソファに無造作に放置していたらしい書類をミラに渡す。
「賓客はうちだけじゃないッスから、二国じゃなくって、複数の国家の騎士団と演習したいらしいッス。この国に来てる騎士団の上官は参加必須が条件に入ってる」
「……分かりやすい国力偵察だな……」
書類に目を通しながら頭を掻く。
「うち以外はラセイタ騎士団、オクトの自警団は参加を表明してる」
「……まぁ、参加で返事出してるんだったら、いいんじゃないか」
「姐さん参加します?王サマはテロルゴ以外の騎士団は手抜きで手合せしろって。オレか姐さん王サマの側にいなきゃなんないッスから」
「いや、私は参加しない。それより、ロキ、オクトの自警団とは出来る限り剣を交えておいた方がいいよ。オクトは自由貿易都市として独特の剣術が出来上がっているからな。型が部族ごとによって違っていたりするから、いい訓練になる」
「あぁ、オレもオクトの出身スからねぇ。ほとんど我流ッスけど」
ベッド脇にあった水差しからミラが水を注いでいたが、その手が止まる。
「……は?」
「まぁ、もともとはラセイタの方の血筋らしいスけど、物心ついたのはオクトなんで、出身はオクトでいいッスよね」
「あ?」
「?何スか。オクト出身の人間は騎士になれないんすか?」
グラスの水を無言で飲み干したミラがロキを睨みつける。
「……その話、今初めて聞いたぞ」
「あー、そうでしたっけ?」
とぼけた様な声を出すロキの胸倉をミラは掴む。
「何故そう言うことを早く言わん!ってか、初めて会ったときに生まれは覚えてないって言ってたのはどうした!」
「や、だって……」
「だってじゃない!」
息をしにくそうにしているロキだが、さらに絞められる。
「別にお前がどこの生まれだろうと、それはどうでもいい。だがな、なぜ今ここでいう?なぜここで暴露話をする?!」
ギリギリと布が音を立てる。
ロキの顔色が気のせいか、赤くなっている。
「まぁ、……なんて、いうか……、そんな気分?」
「ふ、ざ、け、んなぁ!」
ロキのマイペースには慣れたつもりだったミラだったが、ロキの心理はまだまだ理解しがたいもだと再認識した一日だった。