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永遠のアポストロフィS  作者: 美憂
コントラスト

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9/25

夢

オキシトシンは感情がなくても分泌されるのだろうか。


私には、愛情はわからない。

でも、風が私に愛がないことはわかる。

私は、風が私を必要とすれば、それでいい。


どうしても必要だと言わせたい。


あの血の通った指の傷が欲しい。


ゆっくりとゆっくりと手に入れて、

手に入れたあと、

どうすれば壊さずに済むのか。

考えよう。


私の在学中、風には音楽教師でいてもらおう。

辞められると観察ができない。

最近の風は、月曜日に疲れている。

原因は、あの子だ。

風は、休日、一日中、泣き喚くあの子と一緒にいる。

心の通じぬ子と向き合っている。

ピアノを弾いて、鎮めようとする。

投げられる食事、叩きつけられるおもちゃ。

それでも風は、向き合おうとしていた。

きっと、母親はいてもいなくても同じだったのだろう。

風はそれを知っていたから「出産は無理」と言ったのだと思う。

育てられていなかったのだ。

母親がいた頃から、風が育てていたのだ。


まずは、そこに入っていこう。

でも、

子どもは苦手だ。

あの子どもは、風を劣化させている。

あの指を痛めつけ、汚し、色を変える。

あの指は、もっと静かな場所にあるべきなのに。


でも、あの子は私に似ている。


きっと風の気持ちはわからない。

風もあの子をわからない。

分かり合えない2人が、私でつながる。

あの子と私。

私と風。


私は風の生活を観察し、夢をみる。

あの子の好きなことを探し、分かりあうすべを考える。

月を見る。

キラキラ光る星。窓。水。

繰り返し。

あの子の好きなもの。

音に敏感。

ガラスの割れるような、黒板を爪で描くような、身勝手に突き刺さる音を嫌う。

ピアノの音は、好き。

風の音は好き。林のざわめく声も好き。

同じ道を行き、同じ道を帰る。

裸足が好き。足裏の感触を確認するように歩く。


風はその全てを止める。

理解できない。

自分の枠の中にはめ込もうとする。


だからあの子は風を拒絶する。

泣き喚き、逃げる。

風にはわからず、疲弊し、苦しむ。

繰り返される週末の暮らし。

私は、月曜日に音楽準備室を訪れ、話を聞く。受け止める。

でも、

あの子の正解を風には教えない。

私が聞いている間だけ、

風は悲しみを言葉にできる。


「先生、あの子のために頑張ってらっしゃるんですね」


そうだ。自分は頑張っている。


それだけを確認させ、悲しみを垂れ流し、風はあの子のいる家に向かう。

繰り返し。カノンのように。


私の父と同じだ。

私の本当の姿、好きなものから目を逸らす。

私自身から逃げる。

自分の枠に収まらない私が怖かったのだろう。

家では静かに本を読み、私とは関わらなかった。

傷だらけの私の腕を直視できなかった。

母もそうだ。

目を逸らし、悲しそうな顔をする。

以前、外食をする両親を見たことがある。

二人で笑っていた。

家では見たことのない顔だった。


私は、一人で生きるために、傷を作る。

傷を加える度に、私は「生」を感じ、父と母は「死」を感じる。


わかってる。

私はいい子でなくてはいけない。

そのために必要な行為。


風には、時を見てこの傷を見せよう。

姉と同じ、腕にある無数の傷を。

私たちが、こうして生きることを選んできたことを教えよう。

風が、愛した姉を自分の宝箱に入れたように、

私も、ガラスの箱に風とあの子を入れて、

ずっと見ていたいと思った。


だから、自分の意思でガラスの箱に踏み込ませ、自分で鍵をかけさせよう。


それできっと、私は傷を作らなくなる。

大学に入る年、私は親の残した家を売った。

両親の保険料が口座に入り

「あぁ、亡くなったのか」と思った。

悲しみはなかったが、あの白い壁の傷だけが、惜しかった。

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