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永遠のアポストロフィS  作者: 美憂
コントラスト

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8/25

雨

音を立てずに、水は流れていく。

流れた先に水は溜まる。

出尽くした時、水は、そこから動けなくなる。

雨の日の音楽室は暗い。

そして、楽器たちの匂いが立つ。


古い窓に当たる雨音が、ピアノの蓋を細かく震わせる。

風は、雨の日だけ、

音楽室に長く残るようになった。

私は、関係を詰めすぎないように、

雨の日の放課後だけ、クラスの音楽のノートを届けることを理由に音楽準備室を訪れることにした。


「失礼します。ノートを届けに参りました」

「ありがとう。そこに置いてください」


風は、窓の外に目を逸らした。

風は私を見ない。


「先日は、お茶、ごちそうさまでした」

「いや、こちらこそ、ありがとう。助かりました」

ここで、

「お姉様は、お元気ですか」

正解ではない質問を罪のない顔で聞く。


風は体をこわばらせた。


「死んだよ」


目を開き、口元を手で抑え、私は正解の反応をする。

知ってる。でも、知らない。

雨の音が聴こえる。


「ごめんね。言うべきじゃなかった」

「いえ。驚いてしまって」


「君は、姉と会ったことがあるからね」

「はい。きれいな方でした」


風は涙をこぼした。

肩越しに見える窓を伝う雨のように。

頬を伝う。


「ありがとう」


今日はここまでだ。

これ以上、寄り添っても、深く入り込んでもいけない。


もう、手の中にある。

ゆっくりでいい。


白い壁の傷を見つめて思う。


あぁ、雨が待ち遠しい。


次の雨の日も、

私は風に悲しみを言葉にさせた。


「赤ちゃん、見に行ってもいいですか?」

わかっている。これは不正解だ。

私はすべてを知っている。

これは、悲しみを引き出す、正解。


一度、私の前で涙をこぼした風は、堰を失っていた。

「無理だったんだ。出産なんて」

「そんな」

「2人とも失ってしまった」

雨音。

「先生」

ハンカチを差し出す。

本当は、指で涙を拭わせたい。

でも、今日は、

「ありがとう。大丈夫」

ハンカチを差し戻した瞬間、


そっと指に触れた。


風は、泣きながら、今日までのことを語った。

私は正解の顔で、それを聞く。


聞きながら、風の指の感触を思い出していた。

何度も。何度も。


話が途切れるたび、雨音だけが残る。

私は、その時間が好きになった。


誰もこのことを風に問う者はいない。

それは、風の悲しみを閉じ込めていた。


私が、たったひとつの水口。

流れ始めた水は止められない。

私には、気持ちなどわからない。

けれど、正解は知っている。

私にすべて流して、楽になればいい。


雨の日は、

世界が静かだから。

静かに悲しみが流れ出していくから。

雨の日は、また来る。

私は、きっとまたここへ来る。

何度でも。

きっと風も私を待っている。

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