食の戒め
昔々、ある農村に、好き嫌いの多い子どもたちがおった。
ある子は「にんじんは匂いも味も苦手じゃ」と言い、箸で突き刺して穴だらけにした。ある子は「ごぼうは硬くて食べられん」と言い、こっそり囲炉裏の灰に埋めた。ある子は「魚は骨が多くて怖い」と言って、身を崩して遊ぶだけで口にしなかった。ある子は「大根は味が薄い」と言い、潰して遊んだ。また別の子は「蓮根は穴が多くて気味が悪い」と言い、穴に灰を詰めて弄んだ。それを見た親たちは深いため息をついた。
「わしらが土にまみれて育てたものを……」
「海に出て命がけで獲ってきた魚を……」
食べられぬものは仕方がない。しかし、食べ物で遊ぶことだけは許されぬ。親たちは子どもたちに、静かに言い聞かせた。
「残すのは構わん。じゃが、食べ物を粗末にしてはならん。嫌ならば、自分で育て、自分で獲り、自分で飯を作ることじゃ」
それでも子どもたちはどこ吹く風で、改まる気配はなかった。
困り果てた親たちは、村の寺の和尚に相談することにした。話を聞き終えた和尚は、しばし目を閉じてから言った。
「しばらくの間、その子らを寺で預かりましょう。仏の教えに触れ、食べ物のありがたさを学ぶやもしれません」
親たちはその言葉に従い、翌日、子どもたちを寺へ連れて行った。
「しばらくここで過ごし、心を落ち着けてまいれ。寺のことは和尚様の指示に従うのじゃ」
そう言い残し、親たちは帰っていった。子どもたちは不満そうな顔のまま、寺の客殿に泊まることとなった。
子どもたちが寝静まった頃、客殿の外から、かすかな気配が近づいてきた。
「……にんじんを、粗末にしたな」
「ごぼうを、埋めたな」
「魚を、遊びに使ったな」
「蓮根を、汚したな」
誰とも知れぬ声が、闇の中から聞こえる。気づいた子どもたちは恐れおののき、布団の中で身を寄せ合ったが、声はなおも続いた。やがて気配はふっと消え、静けさだけが残った。
顔を青くした子どもたちは、和尚のもとへ駆け込んだ。
「昨夜、外から変な声がしました……」
和尚はしばらく黙って話を聞き、ただ静かに言った。
「さて、それは夢であったのか、あるいは何かが見せたものかは分かりませんな」
そして、少しだけ間を置いて続けた。
「いずれにせよ、食べ物というものは、命そのもの。粗末にすれば、心もまた乱れるものです」
子どもたちは言葉を失った。
幼い頃の記憶を頼りに書き起こした物語です。
個人的には、食べきれずに残してしまうこと自体を厳しく叱る必要はないと考えています。無理強いは、かえって食を嫌いにさせてしまうこともあるからです。
ですが、食べきれないと分かっていて過剰に頼んだり、食べ物を粗末に扱ったりしないことは、自分自身への「戒め」として持ち続けたい心構えであると感じ、このお話を綴りました。




