9 任務の完了報告とあざ笑うカニ
現実から逃げるようにリンとガイは遠い目をした。
エレオノーラの目が細くなる。
ゆっくりとエレオノーラの唇が動いた。
「そう。…つまり、失敗したということね?」
「いや、してない!」
「取り返したじゃん、ネックレス!」
即座に否定する。
勢いを失ったら負ける気がした。
「お黙りなさい」
パチン。
エレオノーラの手元で、扇子が閉じられる。
「あなた達が、私に報告した計画の内容はどういうものだったかしら?」
「…本物と偽物をすり替えて取り戻す」
「そうよね?」
リンが視線を逸らした。
エレオノーラの扇子がトントンとリズム良く手の内で刻まれる。
「ではなぜ、ここに本物と偽物の二つが揃っているのかしら?」
「…すり替えに失敗したからです」
ガイが、がっくりと俯いた。
「そうね、『失敗した』からですわね?」
ぐうの音もでないが、ここは引けない。
「依頼は『ネックレスの奪還』だろ!」
「そうだよ、取り戻したんだから任務は成功だよ!」
なんとか切り抜けようと、リンとガイが必死に食い下がる。
エレオノーラは面白そうに扇子を口許に当てた。
「ほほほ。面白いことを言うわね?」
「聞いた!?『ほほほ』だって!!」
悔しそうにガイが叫ぶ。
リンがギリギリと奥歯を鳴らす。
「プロの仕事に『結果良ければすべて良し』など、存在しません」
ぴしゃりと言いきった。
「ぐっ!!」
「正論が痛い…!!」
「大体…」
言い返せず、追い詰められるリンとガイにさらにエレオノーラは詰めよった。
「それだって、力業で強引に取り戻したのはレヴィンではないの」
ぐさりと核心をつかれたリンとガイが、がくりと膝をついた。
「くっ…」
「…その通りです」
エレオノーラが勝者の顔で小さく息を鳴らした。
口元だけが、わずかに上がる。
「ほら、ごらんなさい」
「くそぅ、勝ち誇りやがって…」
「…やめよう、リン。まだ抉ってきそうだよ」
その時、二人の前にすっとレヴィンが割って入った。
エレオノーラに深く一礼する。
「現場を預かったのは私です。面目もありません」
「そうね?私の魔導士ならもっとスマートに片付けて欲しいわね」
レヴィンに対しても容赦がない。
叱られたというのに、レヴィンに思わず笑みがこぼれる。
「エレオノーラ様は、やはりこの顔に免じてはくださらないのですね?」
「当たり前でしょう?顔の良さで誤魔化そうなんて一生早いわ」
「申し訳ございません」
深く詫びるレヴィンもまとめて、エレオノーラはきっぱりと言いきった。
「三人とも報酬は無しです!ついでに公爵家に潜り込んでスマートさの勉強でもしてきなさい」
「なにそれ!意味わかんない!!」
「公爵家から、どんな情報を盗ませる気だよ!」
悲痛な叫びと共に、リンとガイが膝から崩れ落ちた。
「本来なら、スーツ代等の貸出物の損害も請求したいところですが、公爵家が用意した『偽物』を頂戴したので、それはチャラにしてあげますわ」
高らかに宣言した。
明らかにエレオノーラの独り勝ちだ。
机の上のネックレスが収まった袋のカニが、嘲笑うように光った。
「…くそったれなカニ野郎っ」




