8 呪われた狂想曲
豪華な会場の上。
鉄骨が剥き出しになったキャットウォークに潜むリンとガイは、小さな違和感だけが繰り返される気持ち悪さを振り払うように、壇上に目を戻した。
「さぁ!こちらは、なんと!某国での陰謀にまつわる呪いのネックレスでございます!」
「…来た」
「…てか、呪いって知ってたんだ」
待ちわびた目玉商品に客席の熱気が上がる。
ざわめく人々のなかに紛れたレヴィンが小さく頷いた。
「やるぞ」
リンが短く呟き、再び光の魔道ペンを滑らせる。
狙ったのは壇上のネックレス。
座標の指定と書換え処理で、こちらの用意した偽物と入れ替える。
「オッケー」
ガイが魔方陣の図柄を魔力で構築する。いつものやり取り。だが――
ちり…。神経が僅かに刺激され、リンがガイに目を向けた瞬間。
「バカっ!!」
とっさに腕を掴む。
「…えっ?」
ガイがこぼした声は、壇上からあがった音に搔き消された。
壇上脇。
ネックレスの次の商品の絵画が別の壺と入れ替わり、大きく跳ね落ちたのだ。
ガシャン!!!
陶器の割れる音に、客席から悲鳴が上がる。
レヴィンは今度こそ舌打ちを隠さなかった。
「野良犬め、役立たずか!」
リンとガイを見上げると、撤収の合図を送った。
仕切り直しだ。頭のなかで素早くプランを練り直す。
「お前、魔方陣の文字、1個漏れてたぞ」
「え、嘘!!うっか…り…?」
「俺に聞くな!行くぞ、撤収だ」
走り出そうとした瞬間、リンが無造作に置かれた布に足を取られてバランスを崩した。
「リン!」
手を伸ばしたガイが、支えにしようとした手すりをつかみ損ねて、リンに引っ張られて崩れ落ちる。
「きゃぁぁぁ!!!」
悲鳴が大きく響いた。
突然落ちてきた人に、驚き立ち上がった貴婦人が足を滑らせ、隣の紳士の袖をつかむ。
掴まれた紳士の袖が引きちぎれ、またその隣の紳士によろめきぶつかる。
――いける。
レヴィンは素早く辺りに目を走らせ、混乱に乗じて壇上へ一気に駆け上がった。
ネックレスをのせていた盆から、鷲掴みで奪い取ると、リンに向かって鋭く投げつけた。
「カニ袋に突っ込め!!」
パシッ!!
受け取ったリンが慌てて袋を引っ張りだし、乱暴にぶちこみぎゅっと口を締める。
「わぁっ!!」
隣でガイが水たまりに足を滑らせて悲鳴を上げていた。
「出るぞ」
「靴下びちょびちょー」
ガイの泣き言を黙殺し、三人はそのまま会場を抜け出した。
「…何をしてるんだ、お前らは」
レヴィンの冷たい目が静かにリンガイを責める。
リンとガイは気まずそうに目を逸らした。
「はぁ…」
吐き出されたため息に、ピクリと肩が震えた。
「せめて、あれを片付けろ。できなきゃ、エレオノーラ様に『大変な無能でした』と報告するからな?」
顎で指した方向から、オークションの会場にいた警備員たちが鬼の形相で迫ってくるのが見えた。
リンが唇を引き上げた。
ガイも小さく頷く。
「無能の役立たずはごめんだな!!」
「減給通り越して解雇になっちゃうもんね!」
二人が同時に動き出す。
――カッ!!
白い光が走った。
次の瞬間、全てが吹っ飛んだ。
「はっ、ざまぁみろ!」
「気持ちいい!!」
これまでの鬱憤を晴らすようにリンとガイの高笑いが響いた。
だが。
「…だからといって、建物ごと吹っ飛ばすやつがいるか」
胸を逸らしたまま、固まりレヴィンを恐る恐る伺う。
「「…いや、つい、うっかり?」」
もうもうと立ち込める煙のなか、二人の魔導士はしっかりと叱られた。




