7 不協和音
木槌の高い音が響き、オークションの開始を告げる。
次々と落札されていく名品・珍品に参加者たちの熱気が高まる。
リンとガイは少し高いところから、その様子を伺っていた。
「絵画、壺、…なんで、魚?」
「色々出回るもんだね」
オペラグラスで会場の様子を確認しつつ、目的のネックレスの登場を待つ。
「そろそろ、静音魔法をかけとくか…」
誰にも気付かれないためには、物音ひとつ立てずに行動するべきだ。
リンは胸元から抜き出した光の魔道ペンを宙に滑らせた。ガイの目の前に光の魔方陣が浮かび上がる。
瞬間、わずかな違和感にリンが微かに片眉をあげた。
ガイが、そのまま魔方陣を具現化し魔法を発動させる。
「…!?」
全ての音を遮断する魔法のはずだった。
――キィィィィ!!!
「…っげ!!っなんで!?」
「ちょっ…、リン!?」
即座に書き直した魔方陣を、急いでガイが発動し不快な高音ごと静寂に押し込む。
「なんだ、今の…」
「知らないよ、リンじゃないの?」
言い返しながら、ガイは指先を見つめた。
ほんの一瞬、”遅れた”。
会場がざわめく。
レヴィンの視線が鋭く二人を刺した。
「…ちっ、あのポンコツどもめ」
視線が集まりすぎている。
小さく舌打ちし、右手に力を込めた。
――バシャッ!!!
オークション会場に置いてあった魚の水槽から、綺麗な弧を描いて水飛沫があがり、最前列の婦人のドレスを濡らす。
「きゃあ!なに、この水!?」
「大丈夫ですか?」
レヴィンが一歩で距離を詰め、ハンカチを差し出した。
「魚が跳ねたようですね?風邪を引いては大変です」
声をかけ、近くの男に指示を出す。
「君、この方を案内してあげて?」
自然な流れで人を動かしながら、わざとらしくため息をつく。
「やれやれ、設備が古いんですかね?」
小さく肩をすくめた。
司会者が仕切り直しを計り、木槌を打ち鳴らした。
「失礼いたしました、皆様。今宵の目玉はこれからですよ!」
大きな声で、注目を集める。
「危ねぇ…。助かったぜ」
「珍しいね、書き間違えた?」
二階に潜んでいたガイが小声でリンを小突く。リンが憮然とした顔をした。
「書き間違えてねぇ。うっかり…」
「…うっかり?」
思わず出てしまった言葉に二人は顔を見合わせた。
「いや、…馬鹿馬鹿しい」
「そうだよね、…偶然、偶然」
乾いた笑いが漏れる。
「偽物とすり替えるのが本番だ、ミスんなよ?」
「当たり前じゃん。もう書き間違えないでよ?」
軽口はいつも通り。
けれど――
会場の床に、さっき飛んだ水が薄く広がっていた。
誰かがそれを踏み、わずかに体勢を崩す。
「……さっさと終わらせるぞ」
「だね。ここ、なんか気持ち悪い」
二人は視線を戻した。
ネックレスが、静かに光っている。




