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10 おまけ:侵食するカニと殿下の憂鬱

もはや勝手知ったるを越えている。

王太子室別室と言ってもいいギルドの資料室で、クロヴィスはのんびりとコーヒーを楽しんでいた。


添えられた菓子に手を伸ばし、手元の書類に目を落とす。

しばらくすると、不意に気配が騒がしくなった。


帰ってきたか。


顔を上げるのと二人が入ってくるのは同時だった。


「よう、ひまひま殿下」


「元気に暇そうだね、殿下」


第一声に刺があるときは、理不尽に減給されたときだ。

クロヴィスは片眉をあげたが、そこにはあえて触れないことにした。


「うるさい、暇じゃない」


「あ、こいつ生意気にも学習してやがる。金、寄越せ」


「わー、殿下の可愛げがゴリゴリ減ってる!ねぇ、ちょっとだけ貸して?」


流れるようにカツアゲをされたが、随分と二人に鍛えられたクロヴィスはあっさりと首を振った。


「取られるとわかってて持ち歩くか」


「マジか!」


リンとガイが、可愛い弟分の成長に声を上げて笑った。

気安いやり取りが心地よい。


「ところで、セシリアから聞いたぞ。ネックレスの件」


「あぁ、あれな…」


「聞いてても、俺の話も聞いてよー」


目の前の椅子を引き、机にだらしなくうつ伏せる二人に、クロヴィスは苦笑した。


「あのカニ袋に入れたまま、公爵家で厳重保管することになったそうだぞ?」


「あのダセェ袋に入れたまま?」


「ついに公爵家まで、カニの餌食に…」


リンとガイが、本気とは思えない仕草で、よよよと涙を拭う。

乾いた目なのに。


「相変わらず、任務完了の後の事に興味がないな?」


「あんなん、考えたって無駄だろ」


「ああいうのの管理のために偉い人がいるんじゃん。俺たち無関係だしー」


クロヴィスは、肩をすくめた。


「まぁ。王宮でもどちらかというとカイルのカニの方が重要視されてるな」


「王宮までカニの魔の手が!」


「暇人の集まりだな、王宮」


相変わらず、敬意もなにもあったものでもないが、それを良しとしているのはクロヴィス本人だ。

ただ苦笑する。


「王宮は暇じゃない。あの人の発明品は、それほど珍しく、それほど貴重なんだよ。…まぁ、その、色々な意味で」


「…危険視だろ?」


少し空いた間の意味を正確に拾い上げるリンの勘の良さに舌を巻く。

ガイが面白そうに目を細めた。


「殿下も、監視が大変だねー」


危険視という意味では、リンとガイも対象に含まれている。

クロヴィスは黙ってコーヒーを飲み干した。


面白そうにクロヴィスを眺める二人はなにも言わない。


「別に、何も、…大変じゃない」


言い訳みたいな声になった。


「顔に出てるぜ、殿下?」


「大丈夫、ちゃんと偉そうだよ」


今回はこれでおしまいです。

ありがとうございました!

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