4 「琥珀の雫亭」の情報屋
王都の外縁部に位置する琥珀の雫亭。
旨い肉と酒の種類の多さが人気の居酒屋だ。
――表向きは。
その店内は酔った男たちの喧騒で賑わっている。
リンとガイ、そしてレヴィンが、カランと鳴らし店の扉をくぐる。
「いらっしゃ…、きゃぁぁ!」
客の入店に合わせて、明るく出迎えようとしたアリーは思わず黄色い声をあげた。
「やだ、レヴィンじゃないの!珍しいわね、ここに来るの!」
店内で忙しくオーダーを取っていたアリーが駆け寄った。
心なしか足取りも軽い。
「おい、こら。俺たちを無視すんな」
「アリー、酷いー」
「あら、二人もいたのね?いらっしゃい」
悪びれもせず適当に接客するアリーにリンとガイは不貞腐れたように吐き捨てた。
「結局、世の中、顔か!」
「雑すぎる!」
二人に構わずレヴィンはアリーにオーダーを告げる。
「『琥珀中の虫』を頂きたいんだが?」
「あら!だったら、美味しいお酒も飲んでいって。奥に案内するわ、どうぞ」
あくまでも軽いそのやり取りに違和感はない。
アリーは店のカウンターを抜けた個室に向かい、三人が後に続く。
「うへぇ。高い酒飲めってさ」
「情報料だ、仕方ないだろう」
個室の扉を閉めると、店内の喧騒から切り離される。
円卓がひとつ置かれた質素な部屋。
アリーの顔から居酒屋の営業用の笑顔が消えた。
「何が知りたいの?」
「話が早くて助かる」
食えない情報屋の目が細く弧を描く。
「最近、大粒のエメラルドをダイヤで縁取ったネックレスの話を聞かなかったか?」
アリーは少し考えてから、扉の向こうへ声を張った。
「ベス、ちょっと手伝って~!」
部屋の外に響く明るい声は、居酒屋の雰囲気によく馴染んでいた。
「はーい」という返事と共に、おさげ髪の小柄な女が入ってきた。
「なに?」
「盗品のオークションあるじゃない?あれの出品リストの中身、知ってる?」
すらりとしたアリーを見上げるベスは小動物のようだ。
少し顎に手を当てて首をかしげる。
そして、すぐに「ああ」と頷いた。
「あれね。分かるわよ?」
「探しているネックレスがあるんだって」
「え、レヴィンが誰かに贈るの?好きな子がいるってこと?やだ、羨ましすぎる!!」
ベスが、食いぎみに身を乗り出す。
女に迫られることに慣れているレヴィンは微笑むだけだ。
隣から、リンとガイが口を挟む。
「どこのどいつが、女に盗品をプレゼントすんだよ」
「甲斐無さすぎるでしょ」
ベスが、きょとんと目を丸くした。
「リンちゃんとガイちゃんもいたのね!」
「お前ら二人とも雑すぎるんだよ!」
「初めからいたんだよ、ベス」
居酒屋の店員二人の扱いが酷すぎることに、二人はわざとらしくがっくりと肩を落とす。
「ごめん、ごめん」
「悪いと思ってるんなら、酒代まけてよ?」
「それはダメ」
アリーは笑いながらあっさりとガイの要望を却下する。
「その代わり、リストと招待状を用意してあげる。探し物のネックレス、そこにあるわよ」
ベスが、軽やかに告げた。
「表向きは正装必須の仮面パーティだよ、正装頑張ってね!」
生粋の路地裏ボーイズたちが嫌そうに、鼻にシワを寄せた。
「うへぇ。最悪だ」
「息、つまりそう…」
「いい機会だ。そういう潜入にも慣れておけ」
アリーとベスの笑い声が部屋に響いた。




