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3 ネックレスの呪い

レヴィンの目がセシリアに移った。

見つめられただけでセシリアの心臓がうるさく鳴る。


とっさに、セシリアの心に王太子クロヴィスの顔が浮かび、動きが止まる。

セシリアは気持ちを落ち着けるように大きく息を吐いた。


「…ダメよ、私は王太子殿下の許嫁よ。しっかりしなさい!」


「いや、レヴィン相手によく持ち直したと思うよ?」


「まぁ、あんたは王太子殿下の許嫁なんだし、浮気はまずいよな?」


胸を押さえ、無理やり意識を引き戻すセシリアの様子にリンとガイが面白そうに口角を上げた。


その原因のレヴィンといえば、一連の流れを気にすることもなくセシリアにソファーを勧める。


「いつまでも立っていてはお疲れになりませんか?」


セシリアは促されるままに腰を下ろした。

正面にレヴィンが腰を下ろし、背後にリンとガイが立つ。


「それで、その盗まれたローラン家のネックレスというのは…」


静かにレヴィンが切り出す。

声にまで色気がある。

セシリアは流されそうになる自分を抑えるため、強く掌を握りしめた。


「見た目は、貴族がよく持つネックレスですわ。エメラルドをダイヤが囲み花のような意向を凝らした美しい装飾品です」


ネックレスを思い出しながら特徴を上げていく。

レヴィンは頷きながらその特徴を記憶に刻んでいった。


「でも、呪われている?」


「…ええ。もともとは母の実家に伝わるものでしたの」


「セシリア様のお母様は確か隣国のご出身でしたね?」


王弟だったセシリアの父が、公爵として分家して、かねてより見初めていた隣国の姫君を娶ったという話は社交界では有名な話だ。


「母は変わったものが好きで…」


言い淀むセシリアに、二人の魔導士が先を促す。


「大体の貴族は趣味がおかしいから、気にすんな」


「そうだよ、言いにくいかもしれないけど、とっとと話して?」


「リン、ガイ…」


だが、レヴィンの冷たい声にすぐに口を閉じる。

レヴィンはセシリアに向き合うと、小さく微笑んだ。


「失礼、続けてください」


「え、ええ。呪いなんですが…、少し説明しにくくて…」


セシリアが言葉を探して視線をさ迷わせた。

レヴィンは言葉の続きを静かに待つ。


「…小さな不幸が続くのです」


ようやく続けられたセシリアの話は、一見、たいした呪いではなかった。


「机の角に小指をぶつけるとか、鍵を閉め忘れるとか。白い服の時に限ってソースをこぼすとか…」


「呪い、しょぼ…」


心底どうでも良い話にリンが顔をしかめる。


「放っておけば?大したこと無さそうだし」


ガイは苦笑いをする。


「そういう訳にはいかないわ。このままでは手にした者に不幸が訪れてしまうもの!」


「盗んだやつの自業自得じゃねぇか」


リンは唇を引き上げて、吐き捨てた。

くだらなすぎる。


「…持ち主次第では、呪いの規模が変わりますわね?」


黙って聞いていたエレオノーラがゆっくりと首をかしげた。


「そうなのです!」


「は?なんだそれ?」


言いたいことをようやく見つけたとセシリアの声が大きくなった。


今度はリンが首をかしげる。


「例えば、手にしたものが高位貴族だったらどうなるか、ということだ」


レヴィンが形の良い顎に手を当て、眉間にシワを寄せた。


「村人がうっかりリンゴを落とすように、うっかり誰かの首を落としてしまったり!」


「えええ!!!」


セシリアの例え話にガイがのけぞる。


「例えば、騎士がうっかり来賓を刺し殺してしまったり!!」


「…は?」


「うっかりの規模が怖すぎるよ!」


リンの思考が追い付かない。

ガイは思わず叫んでしまう。


「つまり、呪いの規模を小さくするために公爵領の辺鄙な村に秘匿していたのですね?」


エレオノーラに見つめられて、セシリアは頷いた。


「…管理者が倉庫の鍵をうっかり閉め忘れていたようで」


気まずげにセシリアは目をそらした。


「それで、盗まれちゃったの!?」


「ちゃんと、管理しとけよ!!」


悲痛なセシリアの台詞に、リンとガイは吠えずにはいられなかった。


「騒がしいぞ、二人とも。呪いの話を聞いただろう。『うっかり』では仕方ない」


レヴィンの冷たい声に頭を押さえつけられたリンとガイは仏頂面で黙る。


「…とにかく宝飾品の盗品ならどこかに売られる可能性が一番高いだろうな」


レヴィンがエレオノーラに目配せをした。


「そうですわね。まずは情報収集から、ということかしら?」


「盗品が出回りそうなオークションに探りをいれてみましょう」


恭しくレヴィンは一礼した。

その背後でリンとガイはため息をつく。


「また、めんどくせぇ話になったな…」


「絶対、碌なことにならないやつじゃん…」


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