2 ギルド内の縦社会
壁際のサイドテーブルに置かれたランタンのスイッチが小さく鳴った。
「地下への隠し扉…」
セシリアが、わずかに目を見開いた。
エレオノーラが迷いなく立ち上がる。つられてセシリアも腰を浮かせた。
「足元が暗いので、お気をつけて」
するりとレヴィンの腕がセシリアを支える。
先ほどのエレオノーラとのやり取りで足が震えていることに、セシリアはそこではじめて気がついた。
「ありがとう…」
レヴィンに支えられるようにエレオノーラの後を追う。
…明らかに空気が違うわ。
華やかな造りのアンティークショップとは異る、雑然とした通路を頼りなく進んだ。
「ご令嬢には歩きにくい場所でしょう?」
眉を下げてセシリアを気遣うレヴィンに慌てて首を振る。
しかし、何か言葉を返す前にエレオノーラの丁寧な命令がセシリアを急かした。
「どうぞお入り下さい」
「…っ!…失礼します」
慌てて部屋の中へ踏み込む。
部屋の中心に配置されたデスクにエレオノーラが優雅に腰を下ろしている。
その前には緊張感のかけらもない二人組がのんびり構えていた。
「公爵って侯爵より偉いんじゃねぇの?」
「えー、似たような響きなのに差があるの?っていうか、だとしたらエレオノーラ様無礼過ぎない?」
エレオノーラの私設ギルド「天球の灯」の魔導士。
リンとガイだった。
「あなた達は確かリリアーヌ様の護衛の…」
見覚えのある二人に、セシリアの緊張がわずかに緩んだ。
リンとガイは軽くセシリアに視線を投げてから、エレオノーラに向き直る。
「で、俺たちは何で呼ばれたんだ?」
エレオノーラが静かに、扇子を開いた。
「…。口の利き方については、後程、減給するとして」
「え、待って。自然な流れで減給を差し込まないで!」
繰り広げられる雑なやりとり。
これから、深刻な話を持ちかけようと緊張するセシリアの目が困惑に揺れる。
レヴィンの視線がちらりセシリアに向けられた。
「ガイ。エレオノーラ様の話の途中だ」
逸れそうだった話は、レヴィンの一言で元の流れに戻る。
エレオノーラが扇子を口許にあてたまま、小さく咳払いをした。
「こちらのセシリア様の家門から盗み出されたネックレスを見つけていらっしゃい」
四葉のクローバーを探すかのように、命令された。
「お姉様。そいつはリリアーヌ様の平穏な日々に全く関係ねぇよ?」
「そうだよ、お姉様。リリアーヌ様のため以外に、指一本でも動かさない信条はどうしたの?」
「黙りなさい。そのリリアーヌのお願いです」
リンとガイが、さぼりたいだけではないかと疑いたくなるような理由で仕事を拒否しようとした。
しかし、その更に上をいく理不尽な理屈ですぐさま却下される。
不満を隠そうともせずに二人は口を尖らせた。
またしても脱線しそうとなる話を元に戻したのもレヴィンだった。
「二人とも、いちいちさぼろうとするんじゃない。エレオノーラ様もお忙しいんだ。とっとと話を聞け」
美しい顔に、冷えた目。
「こえぇー」
「顔がいい人って、あれだけで怖いもんね。ずるいよねー」
「聞け、と言ったはずだが?」
リンとガイが渋々肩をすくめた。
ギルド内の完全な縦社会に、思わずセシリアは唖然とする。
(エレオノーラ様のギルドって、思ってたのとなにか違うわ)
不安を隠しきれないセシリアを置き去りにエレオノーラは話を続けた。
「盗まれたネックレスは呪われているそうですので、その辺はセシリア様に聞きなさい」
「その、ついでみたいに重要なこと言うのは、やめられねぇの?」
「なんで、そんな怖いもの、持ってんのさ…」
エレオノーラはいつものように、目を細めゆっくりと扇子を閉じる。
決定事項を伝えるいつもの仕草に、リンとガイは漸く諦めた。
「今回はレヴィンにも同行してもらいなさい。しっかり監視してもらいます」
レヴィンは静かに頭を下げた。
リンとガイの顔が、嫌そうに歪む。
「口うるさい先輩と仕事するほどこと面倒くせぇことはねぇな…」
「意外と細かいもんね、レヴィン」
「聞いた通りだ。セシリア様から、詳細を伺うぞ」
保護者付きの仕事に、リンとガイはうんざりと返事をした。
「「はぁーい」」




