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第十二魔導

______________________________


森林の中、生い茂る草木をガサガサと音を立てて歩く音が聞こえる。馬車を襲い、御者と搭乗していた子供達をひとしきり食い荒した鳥型の魔物は、何かを求め彷徨っていた。時折首を傾けながら辺りを見渡す。森の中にぽつりとあった湖を前にして歩く足を止めた。仕留めそこなった二人のうち一人、ミルニィが湖のすぐ側に立ち真っ直ぐ魔物を睨みつけている。魔物は「キュルキュル」と鳴いたあと「キュアアアアア」と耳を劈く轟音を轟かせながら三枚の翼を大きく広げ、戦闘態勢に入る。


「……………っ」


(…頼んだよ……ダイアちゃん…!)


----ほんの少し前----


「____陽動作戦で倒しましょう。ああいう獣型の魔物は主人が近くにいて従えていないと単純な命令しかできないの。今回はおそらく主人の方はいないわね。」


「どうして?」


「理由は二つあるわ。一つ目はそこまでする必要がない。主人が近くにいて魔物に細かく指示を出すのは相当の集中力と魔力を使うの。大きな戦いならまだしも、私達子供を狙っただけなら本人が近くにいるメリットがないわ。今回はただ魂を回収してくるようにお使いを頼まれただけだと思うの。」


「…うん…」


「二つ目は魔法や魔術を使っていない事ね。知ってると思うけど、魔法や魔術、まぁ魔導もね、不意打ちが一番強いの。これは詠唱や魔法陣、魔導陣の生成をしている間に相手に邪魔をされないから。主人が魔物を近くで従えさせる場合も例外ではないわ。従えさせる魔物に魔法や魔術を使わせて戦うのが普通。今回はそうじゃなくて突進とか噛みつきとかで攻撃してきたでしょ?これは十分主人が近くにいない理由になるわ。」


「…うん……うん?」


「貴方あまり頭が良くないのね…つまり、私達は馬車を襲ったあの魔物だけを気にすればいいって事。」


「な、なるほど…分かりやすいね…!でも、ダイアちゃんってどうしてそこまで魔物に詳しいの?」


「お父さんが30年前の大戦で魔物と戦っていたの。その影響で私が小さい時から魔物との戦い方を教えてくれたわ。もし魔物と対峙した時にどうするんだ~ってね。おかげで魔導に興味も持てたし、知識を深められた。なにより、今、貴方の助けになっている。いい事尽くしよね。」


ダイアは優しく笑う。


「ダイアちゃん…」


「貴方、火力が出せる魔導は使える?」


「えっと…魔導は少し苦手で……でも!動きには自信あるよ!」


「貴方魔導士目指してるんじゃないの?魔導が苦手って…まぁいいわ。じゃあ貴方が陽動係ね。できる限り魔物を引き付けてくれるかしら?」


「うん、分かった。がんばるよ。じゃあダイアちゃんは…」


「必ず仕留めるわ。安心して。」


---現在---


「キュア!キュア!」


嘴でミルニィを突き刺そうと幾度となく襲いかかる。だがその度に躱され、地面をえぐる。ミルニィは後退しながら湖の周りを逃げ回っていた。


(…案外早くないかも…!でも思っていたより攻撃の回数と体力が多い…ダイアちゃんは使う魔導は速度がないからできる限り消耗させといてくれって言ってたけど、このままじゃ…仕方ない…もう少しばら撒きたかったけど…)


「___『六碇(むてい)の鎖』」


ミルニィは手を叩き、広範囲に魔力を飛ばす。飛ばされた魔力と詠唱により、魔物から逃げ回っている時にばら撒いていた木の板に描かれた魔法陣が灰色に発光する。そこから鎖が飛び出し、魔物の体を縛り付け、湖の上に固定する。


「ゴボギュアアアアア!!!」


(すごい力…!一節だけの詠唱だしそこまで威力が出てないとはいっても…!)


ミルニィは手を握り締めて魔法陣に魔力を込め続ける。綱引きのような状態をしているミルニィの前腕の血管がブチブチと千切れる。


「んんんんんん!!!ダイアちゃあああんんんん!!!!」


ミルニィの呼びかけに応じ、木の裏に隠れていたダイアは遥か上空に飛び上がり、ピタりとその場に留まる。杖を両手で構えると、すぅーっと一呼吸をして集中する。すると、魔物の上空に巨大な魔法陣が展開された。


「___在るべき姿は未踏の地。

___其(それ)は暗闇を招くものではない。

_____其(それ)は命運を定めるものではない。

____其(それ)は天を忘れさせるものではない。

____其(それ)は幻想が散るものではない。

___現を抜かすは空想、概念、存在。

_____これら全ては本質を異ならせる。

_____退路は既に陥落している。

____第二"鉱天"魔導

___『逆山(さかやま)遅来(ちらい)』」


ダイアが詠唱を終えた時、魔法陣から草木の生えていない山が生えた。山頂が下を向き、ゴゴゴとゆっくりと落ちてくる。間もなく魔物はその質量に押しつぶされた。山が落ちた衝撃で、湖は霧散し、木々は根元から吹き飛ばされ、落下地点に岩の山が出来上がった。ミルニィは被弾する前にダイアにより上空に引っ張られていた。


「…はぁー、はぁー…ダイアちゃん…すっごいね!」


「貴方も、お疲れ様。」


二人は笑顔を見せあうと、ゆっくりと降下する。魔物が押しつぶされたであろう岩山の目の前に着地し、様子を見る。


「倒せたんだよね…本当に。」


「これで倒しきれなかったら私の沽券に関わるわ。ま、下位の魔物で良かったわね。上位の魔物だったら今頃お腹の中でペーストよ。」


「怖い事言わないでよ…でもありがとね、ダイアちゃん。ダイアちゃんがいなかったらこうはならなかった。」


「あら、それはお互いにね。それより手の傷は大丈夫かしら?貴方大分リスキーな魔導使うのね。見たこともないし…」


「うん、少し怪我しただけ。大丈夫。」


「そ。ここからエルグラントまでどのくらいあるのかしら。結構歩くかしらね。」


「飛んでいけないの?」


「結構魔力使うのよ、あれ。いざという時のために温存はしておきたいし、まぁしょうがないわね。行きましょう。」


「う、うん。」


_________________________


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