第十三魔導
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「や…やっと着いた…」
ミルニィは石畳にゴツンと顔から倒れこんだ。ダイアはその様子を心配そうに覗き込む。
「だ、大丈夫?お疲れ様、よく頑張ったわね。」
ミルニィは顔を少し上げてダイアの顔を見上げる。
「ダイアちゃん全然疲れてない…」
「まあ、三日かかったとはいえ途中野営も出来たし。貴方の持久力の問題じゃないの?瞬発力とか魔導の出力は目を見張るものがあるけれどね。これからの課題にしなさい。」
「分かりました…ふふ、なんだかダイアちゃん、先生みたい。」
「人に指図するのが好きなだけよ、そんな大層なものじゃないわ。私は魔導士に魔物の事と馬車の事報告してくるから。貴方は歩く元気が出たら魔導器具の補充なりおいしいもの食べるなり好きにしなさい。夕暮れ時にまたここに集まりましょう。」
「う、うん。またね。」
ダイアはせっせと歩いて行ってしまった。ミルニィは上げた顔を再び石畳に埋める。
(…ダイアちゃんがいなかったら魔物は倒せなかった…レイドを倒せたから少しは強くなってると思い込んでたけど…全然そんなことない…わたしは弱いままだ…)
「___だめだ!」
勢いよく顔を上げ、体を起き上がらせて立ち上がる。
(…わたしの良い所はいつも元気な所…!落ち込むのはらしくないしそんな暇なんてない…!)
「よし!」
頬を両手でぺちぺちと叩く。魔物との戦闘で少なくなった魔導器具の補充のため、導具屋に向かって歩き出した。場所はエルグラントに訪れた際にいつも立ち寄っていたので迷うことはない、しかし。
「ええええ!休業!?」
店は戸を閉め、すぐ前には『休業』と書かれた看板が立っていた。
(も、もう魔導器具の残り少ないのに…予定が急に変わるの嫌なんだよなあ…うーん……どうしよう、ご飯食べに行こうかな…ん?)
ふと目を店の横に移すと、そこにも導具屋と看板に書いてある店があった。しかし、見るからに寂れている。木製の店全体に苔が生えていて、戸の上にある看板は傾いており、どんよりとした重苦しい雰囲気を感じる。
(なんだか…風情を感じるお店だ…!こんなお店あったっけ…入ってみたい気はするけど…こういう変な所ってなにか怪しいもの売ってきたり…変なあごひげ生えたおじさんに誘拐されるって聞いたことある…)
少し葛藤したのち、好奇心からみすぼらしい店に入る事を決意する。決め切れていないふらふらとした歩きで進み、戸に手をかけた。
(…大丈夫…古そうなお店ほどいい物が売ってるってディールさんが言ってたし…ここはちょっと古すぎるけど…)
「お、お邪魔しま~す!!」
勢いよくガキガキッと戸を開ける。建付けが悪いのか勢いよく開けたせいで戸が取れてしまった。
「あ、あああぁぁ!!!ご、ごめんなさい!わざとじゃ____」
店主に謝ろうと店内を見渡すが、人影すら見当たらない。店内は静寂に包まれており、中央の天井にあるランタンがプラプラと揺れ、橙色の光を放っている。
「あ、あのー!すみませーん!ドア壊しちゃったんですけどー…」
呼びかけても返事がないので、一旦破壊した戸を入り口に立てかけ、店内を見て回ることにした。店の外観からは想像もできないほど、綺麗に整頓された商品が並んでいる。加えて、いつも訪れる店では見たこともないような宝石、魔導書、杖、瓶に詰められた液体に漬けられている何かの頭など、奇天烈な物が多く陳列されていた。どれも気になる商品ばかりだが、一際輝いて見えた紫色に光る宝石に目を惹かれた。宝石は天井のランタンの光を吸収し、妖しく光っている。理由はないが、その宝石から目が離せない、目に見えない魅力が腕を勝手に動かし、宝石に手を触れようと手を伸ばす。
「それはまだ君には早いかな~。」
「わああぁあ!!」
まさか声をかけられると思っていなかったからか、ミルニィは声を上ずりさせて後ずさりをする。辺りを見渡すと、声の主はすぐ隣に、腕を組んで何故かすまし顔でこちらを見上げていた。腰まで伸びたぼさぼさの蘇芳色の髪。目の下の隈が目立つ。瞼は今にも落ちそうなほど目に覆いかぶさっており、それを隠すように縁の太い丸眼鏡をしている。肝心なのはミルニィより頭一つ分身長が小さいことだ。
「珍しくお客さん、だろう?客が来るなんて一月ぶりだ。どうぞゆっくりしていきたまえよ。」
「え、ちっちゃい!!」
「失礼な!!初対面でそれか!!」
「あ、ご、ごめんなさい!わたしより小さい女の子珍しくて…」
「女の子~?…ふっ、ま、まあいいよ。許してあげる。私は優しい女の子だからね。」
「えと、お店の人のお子さんですか?それとも迷子?」
「ん~や。私が店長だよ。」
「そうなの!?そんなに小さいのにすごいね!」
「そうだろう、ふっふっふ。」
「どこに隠れてたの?お姉さんびっくりしたよ。」
「最初からいたわ!背が小っちゃくて平台に隠れて見えなかったってか!?あぁ!!?」
「それで?お母さんとお父さんはどこ?」
「しかも信じてないな!?ほんとだってば!ほんとに凄い!!」
「え~ほんと?」
「なんてったってあのアルグランテを"帝学徒"として卒業したんだからね!凄いも何も超凄い!しかも、この店だけで何年も生計を立てる事が出来ているんだ!」
「卒業…確かアルグランテに入学できるのは十三歳からだから_____」
一瞬ぎくりと体を硬直させた"女の子"は、慌てて言葉を遮る。
「私だけ特別なんだよ!天才だから若い時から声かけられててねー!いやーびっくりしたぁ!」
「そうなんだ。それと、ていがくとって?」
「え…知らないのか?うーん…アルグランテで一番すごい…!いや、一番ではないな…二番…いや三番?」
「ふ~ん…」
ミルニィは目を細め、疑いの目を向ける。
「う…なんだよその目は…店を経営できてるだけでも凄いんだからな!」
「言っちゃ悪いんだけど、お客さん来るの?ここ。」
「い、いや。ここは通な人が来るからねえ。実質高級店といっても差し支えないだろう。けど、勿論お客さんは来るよ?え~勿論だとも!」
「…さっきお客さん来るの一月ぶりって言ってたのに。」
女の子は再びぎくりと体を硬直させる。少し目を泳がせ、口をパクパクさせた後に、手を叩く。
「はい!この話おしまい!それで、この店に入ったって事は何か買いに来たんだろう?」
女の子は急ぎ足でカウンターに向かう。
「うちにはなんでも揃ってる。何をご所望だい?」
(お客さん来ないんだな…)
ミルニィは可哀そうに思いながらも、本来の目的を思い出す。
「あのね___」
「待った。今は私が店長で、君はお客さんだ。敬語を使えよ、常識だろ~?」
「あ、そうですよね。ごめんなさい。」
ミルニィは上からだなと思いながら、口調を直す。
「えっと…魔導器具を探してて、原材料って売ってくれますか?」
「原材料?」
注文で聞き慣れていないのか、女の子は眉をひそめ、首を傾げる。
「はい、杖とか作るときの木の魔導器具が欲しいんです。出来れば板状の物が欲しくて。」
「私が言うのもなんだが、随分変なお客さんだな。そんなの注文されたのは初めてだよ。もはや魔導器具かどうかも怪しいよね、それ。」
「もしかしてありませんか?」
「勿論あるよ。新鮮な素材を補完するために中が空洞になってる箱の魔導器具の材料がそれに該当するね。え~っと、ここらへんに。あった。ほら、これとかどうだい?」
話しながら、背伸びで後ろの棚を探し、箱の材料である木の板をコトンとカウンターの上に置いた。
「う~ん、少し綺麗過ぎますね。失敗しちゃったやつとかありませんか?」
「粗悪品の事かい?それも注文されたのは初めてだよ?何に使うのさ。」
「魔導に使います。」
「ん~?尚更なぜだ?魔導に使うなら、杖や魔導書の方がいいだろう。しかも粗悪品だなんて。」
「わたしは魔導が扱うのが下手くそだから、完成された魔導器具を使う資格なんてないんです。せっかく作られたなら、いい人に使ってもらいたい。だったらせめて、使えなくなった物を使いたいんです。」
「成程ね~。君の生い立ちや心意気は全く知らんがあえて否定しよう。それは違う。君は完成品を使う権利がある。そして、この権利は義務だ。例えば君は君より魔導を扱うのが下手の奴に会ったらどうする?同じように粗悪品を使わせるか?いいや、君はそんなことはしないはずだ。きっと、最大限サポートするだろう。つまり、君は君のルールで自分を縛っている。どうせ私なんて、と投げやりになっているように見える。自己評価が著しく低いんじゃないか?君。そんなんじゃ、一生成長できない。魔導器具は使う者を選ばない。ならせめて、魔導器具に申し訳が立つ人間になろうって事。」
「でも、わたしに出来のいい物なんて…」
「言ったろう。この権利は義務だ。良い魔導器具を使い、それに相応しい人間になるよう努力する。そんな心持でいいと思うな。」
「…魔導器具に…相応しい人間。」
「すぐには考えは纏まらないだろう。それは君に染み付いた考えだ。洗い落とすには、随分時間が掛かりそうだけどね。はい、どうぞ。」
女の子はカウンターの上に魔導器具の粗悪品が入った小袋と、一冊の魔導書を置く。
「…この魔導書は?」
「おまけだよ、お代は取らない。久々に人と話せた、そのお礼だ。君の考えが纏まって、人として成長できたとき、使うといい。これは人と違っていつまでも君を待つ。ゆっくり、気楽に頑張りたまえよ。」
「店長…!……これもう使わないやつだから値引きってしてくれますか?」
「意外とがめついな君!それとドア!弁償してもらうからな!!」
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