新たな謎
――5月22日 8時30分 1年2組・教室内――
非現実的なことを目の当たりにした土曜日が終わり、気づけばもう教室内。あんなことがあったのにもかかわらず休み明けの俺はいつもより晴れやかな気がした。そう……。今日のような春の日差しのように。
水月さんは幽霊なのかぁ。
ふつうの人ならば謎は深まるばかりで恐怖心に追われ、ひどいケースなら鬱、あるいはノイローゼになりかねない。しかし、俺は違った。恐怖心なんて考えは全くと言っていいほどなく、反対に強烈な好奇心が宿っていた。これも水月さんという存在だからこそなのであろうか。あ、存在という言い方は違うか。
「よう! 晴彦!」
あ、佑太だ。
土曜日の結果報告をしておこう。いや、でもこれって言っちゃいけないやつなのかな? でも佑太は相談に乗ってくれたしな。言わないわけにはいかない。
「おはよう、佑太。前に行ってた水月さんのことだけど、話を聞いてみたらやっぱり幽霊だったよ」
たしか佑太は俺を信じるって言ってくれたんだっけか。俺もいい友達を持っているんだなあ。
「え、幽霊? へ、へえー。晴彦、マジなのか?」
おいおい! 信じるって言ったのは誰だよ!
「マジだった」
一瞬の沈黙を経て……。
「晴彦。お前、嘘ついてるだろ!」
佑太テメェーー!!
「なんでだよ! 信じるんじゃねえのかよ!」
「いや、いざそう言われると信じがたいんだよなあ」
「コノヤロー! 俺の気持ち踏みにじったな!?」
「ははは。ごめんごめん。半分ジョークで半分信じたよ」
「それ信じてないのと一緒だよね?」
それに最近ジョークが流行なのか?
朝から会話だけで大量のエネルギーを消費してしまった。
続きは昼の弁当時間に持ち越された……。
「で、家に呼んでまで突き止めることができたと」
「そうゆうこと」
「あいかわらず、行動が大胆だなお前は」
「いいだろ別に。相手は幽霊なんだから」
そう。自分がどれだけ意味の分からないかつ大胆な行動をしても相手は幽霊なのだ。他の人から見られても俺一人がなんらかの行動をしているだけにしか見えないのだ。
「興味がわいてきたぜ。なんで晴彦、お前だけ見えんだよ」
「知らねえよ、おかしくなったのは頭痛を起こした頃からだけど」
「なるほど。じゃあ今から俺、頭ぶつけて頭痛起こしてくるわ」
「あほか。やめといたほうがいい」
力配分ができない佑太が物に頭突きなど致命的な行為である。佑太のことなら頭突きの反動で昇天なんてこともありうるだろう。
「まあとりあえず晴彦の中では一件落着ってことだな?」
佑太は黄色がかった玉子焼きを頬張りながら問う。
「そうだな、でも謎はまだまだ山ほどある。これからだな」
「そっか。また相談にのってやるから遠慮なく聞かせろよ!」
「ありがと。もちろんだよ!」
改めて友達というのは人をこんなにも勇気づけてくれるものなんだと不覚にも胸を打たれた――
「起立!」
「礼!」
「ありがとうございました! さようなら!」
時刻は3時50分。今日も光明学園での一日が終わった。今日はいつもよりもハードだったのか、何人かの生徒がうなだれていた。俺は微塵も思わないが……。
「数学の時間に配られたプリントを提出してから解散してくださーい」
「はーい」
プリントの提出を呼びかけているのは佑太とともに学級委員として活動している前橋ゆかりさんだ。クラスに一人はいる成績優秀で運動神経抜群の言わば ”できる” 人なのである。
説明はこのくらいにして、プリントプリントっと。
ん? あれ? 確かに全部解いてカバンに入れたはずなのに。しょうがない……。新しいプリントをもらって家で仕上げてくるか。
「ごめん前橋さん。どうもプリントをなくしちゃったみたいで……」
「え、ほんとに? じゃあ後でプリントもらいに行くから職員室ついてきてくれる?」
「も、もちろんだ」
今更だが初めて前橋さんとしゃべった。ちょっとにらんでた気もしたが。
みんながプリントを出し終わり、あたりは怖くなるほど静まり返った。俺は戸惑いながらも佐々原さんと職員室へ向かった。
罪悪感を感じながらも前橋さんが先生を呼んでいる姿を後ろから見守るしかなかった。先生から渡されたプリントを前橋さんは俺に差し出した。
「次からは気を付けるよーに!」
「はい……」
これでも俺は罪悪感を持つと全体のステータスが大幅に下がってしまう。面倒な能力である。
俺の罪悪感は前橋さんのたったの一言で吹き飛んでいった。
「きみ、幽霊がみえるの?」
「!?」
「見えるのなら日下部水月って知ってる?」
「!?」
……なんで……そのことを……知っているんだ……?




