疑問と真実2
別に俺は幽霊なんか怖くはない。
目の前にそのような心霊的生命体が現れたとしても俺の体は微動だにしないだろう。
しかし怖くはないが驚きの感情は出てしまうだろう。
なぜなら今まで俺の頭の中は ”幽霊なんて存在しない” という一部の人からしてみれば当たり前の理論として成り立っていたからだ。
一言でいうと ”見たことがないから” ということになる。
それを軸として考えると今までの俺の考えは、今日の単なる話し合いによって覆ってしまうかもしれないのだ。
――それが一番の恐怖である――
――5月20日 1時00分 結城家・玄関前――
『何時に来れます?』
『うーん……。それじゃあ1時ちょうどに行くね』
昨日の会話と今の状況を比較した結果、彼女、日下部水月は時間というものは1秒たりとも無駄にしたくないということがよくわかった。
そう……。1時に時計の長針と短針が止まった瞬間、彼女、日下部水月はそこにいた。まばゆい笑顔をこちらに向かせ、堂々と立っているではないか。しかも男も顔負けの仁王立ちで……。
やはりこの人は未だ理解不能だ。
「来たよー! 1時に!」
「水月さんの宣言どおりでしたね」
「でしょー! 言ったことはちゃんと守らないといけないしね! ここ常識!」
やはりノリのいい人である。
――自室――
「へえー、ここが晴彦くんの部屋かー。私の予想をはるかに超えてきたね」
「予想以上?」
「そう、予想以上。とても部屋がきれいで清潔感が出てるなあって」
「それってつまり俺の部屋が汚いとでも思ってたってことですよね?」
「その通りだ。ま、そうがっかりするな」
がっかりする間も与えてくれない……。
「もー。余計なお世話ですよ」
「ジョークだよ、ジョーク」
「……」
昨日からジョークしか言っていない水月さんはさすがに空気を読んだのか、何事もなかったように話題を変えてきた。
「でさあ晴彦くん。話って何かな?」
「そうでしたね。俺もすっかりそのことを忘れていました」
「率直に言います」
「どうぞ」
「水月さん、あなたは――――」
「――――何者なんですか?」
部屋の空気が重たい……。そしてどことなく居心地が悪い……。やはり聞いたのが間違いだったのだろうか……。しかしその静けさな空気もそう長くは続かなかった。
一人の高らかな笑い声が響くまでは。
「あっはっはっは!」
「!?」
「ごめんごめん。また人を家に招いてまで 『話がある』 って言うもんだから、てっきり告白か何かかと思っちゃってさあ」
「ちょ、そんなわけないじゃないですか!」
「だよねー。ちょっと期待したのになあ」
「期待?」
「いや、気にしないでね」
ふつうしますよ……。
「ごめんねえ。いきなり大声で笑っちゃって。」
「いいですよ。気にしてないですから」
後々考えて、笑ってくれてある意味よかったのではないかと思う。
あの空気のままだと、俺の心は絶賛パニック状態でまともにしゃべれなかったかもしれない。
いや、おそらくそうだったであろう。
「しかし、なんで晴彦くんは私にそんなこと聞くのかな?」
「えっと、そ、それは……」
「何か気がかりなことでもあったの?」
「……はい。ありました」
俺は自分の疑問の数々を水月さんにすべて話した。
「なるほどね。つまり晴彦くんから見て私は人間の気配はなく、まるで幽霊のような気配だったと。その証拠に私を見た晴彦くん以外の人は、存在はおろか、見えていない状態だったということね?」
「はい……」
「……」
「そっか。あなたには私が見えるんだ……」
「!? ということは……」
水月さんはすべてを打ち明けた。
「そう。私は正真正銘の幽霊。ただ彷徨っているだけの幽霊なの」
その時、普通ならばなぜ俺だけ見えるのだろうという更なる疑問が飛び掛かってくるはずだが、なぜか俺には疑問よりも先に単なる嬉しさが飛び掛かってきた。
考えるまでもない。すべてを打ち明けてくれた水月さんに ”嬉しい” という感情がにじみ出てきただけなのであろう。
「晴彦くんを助けた時からなんで私のことが見えるのだろうとは思ってた。そして校門前で手を握ってきた時にはもうお手上げだった。だって手なんて握ったらそりゃ気づくもの。でしょ?」
「はい。その通りです」
「……信じてくれるの?」
「え?」
「私が幽霊だってこと……」
俺は迷うことなく、即答した。
「もちろんですよ。打ち明けてくれて本当に良かったです」
「怖くならないの?」
「そんな……怖いことなんて微塵もありませんよ。驚きはしましたけど……」
「それに……」
「それに?」
「それに、命の恩人だから。俺にとって水月さんは」
「!!」
――そのおしとやかな俺の発言の後、水月さんの目からはわずかな涙が見えた――
「それで、水月さんはなんで幽霊という属性になったんですか」
「ちょうど私が今の年齢の時、家族そろって旅行に出かけていたの。その最中に生憎相手の車と正面衝突しちゃってね」
「じゃあ両親は?」
「私とその両親もその衝撃で命を引き取っちゃってね。私だけが幽霊となってその時の年齢のまま現実世界に放り込まれたってことよ」
「じゃあそう考えると水月さんは俺より年上ってことになるんですか」
「そうなるね。あ、敬語はいいからね。今まで通りでいいからね」
「わかったよ」
「でも、俺はなんで幽霊が見えるんだろう」
案外すぐに答えが返ってきた。
「単純に考えてだけど、初めて会った時の頭痛でなんらかの科学的な障害でみえるようになったんじゃない?」
「うん。単純だね」
でも今現在はその確率が非常に高い。これからあとにそれ以外の根拠が出てくるまではだが。
「でもこれで謎がいろいろと解けたよ。ありがとう水月さん。打ち明けてくれて」
「別にいいわよ。晴彦くんが怖がると思って言いにくかっただけかもよ?」
「まじで?」
「ジョーク!」
引っかかってしまった。
「……ありがとうね。晴彦くん!」
「どういたしまして!」
――かくして俺と水月さんとの少しの謎はこの話し合いによって打ち解けた――
さて、これからどう接していこう……。
気楽な様子で考えてこんでいる俺がそこにいたのであった。




