↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
見えない魔王——歪みきった征服ゲーム  作者: 純白
【第二部】 第五十三章――彼女だけの騎士
437/446

436 彼女だけの騎士

クトゥルフの血の蔦が石壁を伝って凄まじい勢いで増殖し、ルースの両手にべったりと張りついた。


「ルース総統!!」

親衛隊の3人は危険も顧みず血の蔦の中へ飛び込んだ。だが、2歩も進まないうちに、両脚をきつく絡め取られた。


「うわあ!!」

親衛隊も毒に侵され、間もなく地面に倒れて意識を失った。クトゥルフに血を吸われるがままだった。


クトゥルフは徐々に力を取り戻していった。一方、毒が深く回ったルースは、血を失いすぎて意識がもうろうとし、反応もなかった。


「今度こそ……捕まえた……!」

全身傷だらけのクトゥルフは、ルースの顎をつかんで吊り上げた。


パンパンパン——クトゥルフはさらに血の蔦を呼び出し、ルースの太い動脈が通る場所に食いつかせ、自分の体へもつないだ。5人は一つの循環系につながれ。


「ば……化け物!」

「なんて戦い方だ!?」

一部のドイツのプレイヤーたちは、クトゥルフのあまりにおぞましく常軌を逸した戦法に耐えられず、取り乱してその場を離れた。普段は闘技場の観客席に座り、クトゥルフに様々な方法でプレイヤーをいたぶり殺せと、しきりに要求していた連中だ。今はただ、思いがけず自分たちがクトゥルフと戦う側に回っただけだった。


「必ず勝つ!!!」クトゥルフは口を開いて噛みついた!

ブシャッ! 一噛みでルースの首を食い破り、鮮血が泉のように噴き出した。

「必ず勝つ!」ブシャッ、次は腕だった。

「必ず勝つ!」ブシャッ、続いて肩だった。


クトゥルフは口の中の脂身を残らず地面に吐き捨てた。どろどろに潰れた肉が、一つの塊になった。

「お前の肉なんか、ひとかけらだって食わない! 食うもんか!」

ブチュッ……クトゥルフはルースの腹を裂いた。


何人ものドイツのプレイヤーが背を向けて吐いた。耐えきれず、大広間へ退いて守りを固めた。


【Warnung: Die HP des Gildenmitglieds Lus sind auf 20 % gefallen】

【システムメッセージ: ギルマス ルース HP残り20%】


「ごほっ……ごほっ……あ……」

ルースが意識を失いかけたその時、クトゥルフが血を送り込み、強引に命をつなぎ止めた。


「でも、あの子はもう消えた……お前に闘技場へ放り込まれたせいで」

クトゥルフは沈んだ顔でうつむいた。


「ク……トゥルフ……落ち着け……私は————」

ルースは息も絶え絶えに言った。


「最後の一撃だ……猫娘と、あの子のギルドのために!」

ドン! クトゥルフが拳を叩き込むと、ルースの頭は風船のように破裂した。


【Warnung: Die HP des Gildenmitglieds Lus sind auf 0 % gefallen】


ルースの肥大した体が、ゆっくりと光の塵になって消えていった。


プラムスの塔は、一瞬にして静まり返った——


「ま……負けた! 早く退け!」

ドイツのプレイヤーたちは総崩れになり、すぐさま塔の外へ逃げ出して、強固な防衛線を築いた。


「勝ったよ……猫娘……見てくれたか? もう、俺のそばに戻ってきてくれるよな……」

最後の力まで使い果たしたクトゥルフは、天を仰いで微笑み、地面に倒れて意識を失った。


...


「俺は許されたのか?」

光がぱっと閃き、クトゥルフは再び意識を取り戻した。目を開けると、地下牢の血の池の中にいた。


威風堂々とした巨体の持ち主が、親しげに手を差し伸べてきた———

「お前の戦い方は、さすがに褒められないな」火野良は笑って言った。


まだめまいの残るクトゥルフは、火野良の手を払いのけ、ふらつく足取りで歩き出した。


「無理するな」火野良はクトゥルフのふらつく体を支えた。


クトゥルフは周囲を見回した。ほかの革命軍の者たちは数十メートルも離れた場所に退避しており、恐れずに自分に近づいてくるのは火野良だけだった。


「行かないのか?」クトゥルフは眉をひそめて尋ねた。


「出口はドイツのプレイヤーに塞がれてるんだ」

火野良は苦笑して答えた。


クトゥルフはリュックから金の大剣を取り出し、火野良に返した。


「ははっ、修理してくれてたのか!」

火野良はまるで親友に再会したかのように喜び、笑顔で金の剣を受け取った。


「いい大剣だ。攻守のバランスがいい」クトゥルフは笑った。


「どうして仲間を襲ったんだ?」

火野良は真剣な顔で尋ねた。


「俺には仲間がいない……」

クトゥルフは表情を曇らせて答えた。


肩に温もりが伝わった。

「一緒に行かないか? 俺がドイツのプレイヤーの転移門を壊して、お前を元のサーバーへ送り届けるまで」

火野良は親しげにクトゥルフの肩を抱き、笑顔で誘った。


寧々を除けば、クトゥルフは長いこと誰とも触れ合っていなかった——人を殺す時以外には。


心の安らぎと、いくつかの優しい笑顔。幸せは、こんなにもすぐそばにあったのだ。


「俺はお前を殺して、お前の伝説を壊したんだぞ。それでも俺と組む気か?」

クトゥルフが皮肉っぽく笑って尋ねると、火野良は太い眉を寄せた。


「いや、俺は伝説に負けただけだ。俺は今でも伝説だよ」

火野良は笑って言い、クトゥルフの耳元に顔を寄せた。

「ただ、お前ほどの伝説じゃないってだけさ」


「面白いやつだ」

クトゥルフは苦笑したが、ほかの者たちに受け入れてもらえるかが気がかりだった。


火野良はクトゥルフの不安をひと目で見抜いた。

「俺からみんなに話すさ。まずは一緒に、ここを出よう」


「お前ってやつは。これじゃ断ろうにも——」

クトゥルフは、火野良がここまで細やかに気を配り、人の心の機微まで読み取るとは思っていなかった。ギルマスとして……自分は火野良に遠く及ばない。


突然、地面が揺れ、地下通路の壁という壁に亀裂が走った!


「何だ!?」雨間刻が驚いて声を上げた。


「うああっ!」

加奈は凄まじい魔力の逆流に襲われ、全身を烈火で焼かれるような痛みを感じた。


ドン——ザァッ!!! 地下牢に溜まった血が半秒で壁へと飛び散り、半分近くが蒸発した。


空間全体が血の霧で満たされ、革命軍の者たちは咳き込み続けた。何も見えなかった。


「見て!!」由里が突然、鋭い声を上げた。


一筋の陽光が地下牢に差し込んだ。


皆は喜びに沸き、光の差すほうへ目を向けた——地下牢の左側の石壁が崩れ、地上まで大きな裂け目が開いていた。崩れ落ちた瓦礫が斜面を作り、その先から陽光が差し込んでいた。


「急げ! ドイツのプレイヤーも、まだ封鎖できていないはずだ!!」

火野良は即断した。革命軍はすぐに坂を駆け上がり、陽光を目指して走り出した。


だが、突然辺りが激しく揺れ始めた。ゴゴゴゴゴゴゴゴ。


今日、プラムスの塔の中で繰り広げられた激戦で、塔を支える構造はすでにぼろぼろになっていた。先ほどの衝撃波がその土台を粉砕し、開いたばかりの壁の穴が崩れ始めた!


車ほどもある巨岩が大量に降り注いだ。革命軍が駆け抜けるより早く、岩が次々と落ちてくる。このまま塔に閉じ込められれば、飢え死にするか、巨岩に押し潰されて死ぬしかない。


「急げ!!」火野良は焦り、近くで遅れていた聖職者2人をつかんで駆け出した。


差し込む陽光が弱まっていく——もう間に合わない。


ドン!!

「まさか……!?」革命軍の者たちは目を見張った。


クトゥルフは崩れかけた穴へ駆け寄り、木の幹ほども太い血の蔦を何本も呼び出した。その蔦で塔全体の重みを受け止め、高さ2メートルの小さな隙間を保った。


クトゥルフはぶはっと、口いっぱいの鮮血を吐き出した。足元からも何本もの血の蔦が噴き出して支えとなり、体は痙攣するように震えていた。全身の骨がギシギシと軋み、血の蔦の表面が裂け始め、血が細い筋となって噴き出した。長くは支えられないことを、クトゥルフ自身がわかっていた。


「早く……早く行け……」

クトゥルフは顔を真っ赤にして言った。


「急げ!!」革命軍は全速力で坂を駆け上がった。


火野良と雨間刻は何も言わず、クトゥルフとともに崩れた岩を支えた。


「いや……無駄だ……手を放しても……逃げる間はない」

クトゥルフは巨岩に触れた瞬間から、自分はここで永遠の眠りにつくのだと悟っていた。


「3つ数えたら、手を放せ——」

火野良は焦って言った。


「時間を無駄にするな……お前にはまだ、面倒を見なきゃならない仲間が大勢いる……俺の代わりに……あいつらの幸せを祈ってくれ……」

そう言うクトゥルフの鼻から、突然血が噴き出した。右脚の代わりをしていた血の蔦がたわみ、瓦礫が一気に数十センチ沈み込んだ。


「うお……うおおお!!!!」

クトゥルフは両腕を突っ張り、雄叫びを上げた。地面一帯がその血で真っ赤に染まり、さらに何本もの血の蔦が噴き出して瓦礫を支えた。プラムスの塔を丸ごと支え上げてしまったのだ。

「行け!!」クトゥルフは血まみれの口で怒鳴った。


「さらばだ、友よ」

火野良は眉を寄せ、クトゥルフの肩を叩いて立ち去った。


「ふん、格好つけやがって」クトゥルフは皮肉っぽく笑った。


ちょうどその時、加奈がクトゥルフのそばを通りかかった——

「待て! そこの子! Kanatheonのメンバーか!?」

クトゥルフは驚いて問いかけた。


加奈はすぐに半歩後ずさり、クトゥルフを敵意のこもった目でにらんだ。

「何の用!?」


「寧々……寧々さんは、お前のギルドのメンバーだろ! あの子が今使ってるメールアドレスを教えてくれないか!?」

クトゥルフの顔が喜びで輝いた。まるでプラムスの塔の重みさえ、その胸に湧き上がる喜びを押し潰せないかのようだった。


「あの子は……そうだけど。調べなきゃわからないし、今は時間がない」

加奈は断り、クトゥルフの脇を通り抜けようとした。だが、血の蔦につかまれた。

「何がしたいのよ!?」

「伝えてくれ!!! あの子に……俺があの子の仇を討って、ルースを殺し、火野良を助け出したって! 自分の罪を償ったって!」

「メールの返事をくれるように、伝えてくれないか? 俺のアドレスはあの子が知ってる」

クトゥルフは、寧々と連絡を取ることを一度も諦めていなかった。


加奈は1秒だけ考えた——

「わかった。約束する」

加奈はそう言うと、身を翻して地上へと駆けていった。


「猫ちゃん、今度は責任を果たしたよ……これでもう、俺を拒む口実はないだろ?」

クトゥルフはへらへらと笑い始めた。


革命軍の最後の1人も、地下牢を抜け出した。


「寧々……ありがとう」

クトゥルフは最後に、幸せそうに涙を流した。


「クトゥルフ!!! みんな脱出したぞ! お前も早く———————」


ゴゴ……プラムスの塔全体が崩れ始め、空を覆うほどの土煙が舞い上がった。地下から、星の数ほどの光の塵が噴き出した。


「さらばだ……仲間よ」

火野良はため息をつき、その場を離れた。


「行くぞ!」

「急いで撤退しろ!!」

全員が必死にプラムスの街から逃げ出した。


ゴゴォン……文明と覇権の象徴だったプラムスの塔は、一瞬にして崩れ去り、瓦礫の山と化した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。