431 どうして……どうして俺は、こんなに情けないんだ!
「急げ! 戦闘に巻き込まれて、安全にログアウトできなくなったら厄介だぞ!」
古志はメールアドレスを書いてもらうだけで、これほど時間がかかるとは思ってもいなかった。羊を追うように仲間たちを急き立て、山の斜面を登らせた。
そのとき、西の空は黒い雲に覆われていた。40人はすぐにリオの小屋へ駆け出したが、雷鳴はどんどん近づいてくる。
「もっと急げ! 間に合わないぞ!」危険を察した古志が叫んだ。
「危ないっ!!!!」パシュスは空から降ってくる光球を見つけ、盾を掲げてニフェトの前に立ちはだかった。
光球は流星のように群衆の中へ墜ち……白い閃光が走った。
バチバチバチィッ——山頂一帯を電光が這い回った。
「うわああっ!!」
全軍から悲鳴が上がり、全員が戦闘状態に引きずり込まれた!
和也と、黒衣をまとった大賢団の隊長3人が、全身に雷光を帯びて連合軍の中央に現れた……。誰も反応できないうちに——
「氷霜の彗星!」
和也たちは力を合わせ、巨大な氷の彗星を召喚して降らせた。
「爆炎術!」和也は空へ火球を放ち、氷の彗星の内部を爆破してくり抜いた。
氷の球はドンと地面に落ち、強固な氷の盾のように4人を守った。そのとき、森から何本もの鷲の旗が現れた。百賢の旅も到着したのだ。
連合軍の面々は自分たちの戦闘状態の表示を呆然と見つめ、やるせない面持ちで古志と白を見た。
「早く小屋に入れ!!」パシュスが力の限り叫んだ。
「でも、もう……戦闘状態に入ってしまった……」
古志は沈んだ声で言った。
「10分間攻撃を受けなければ、自動で解除される! 早く入れ!!」
パシュスは片手で鉄扉を引き開けると、仲間の襟首をつかみ、ひよこでも扱うように小屋へ押し込んだ。
強烈な光が閃き、百賢の旅による雷の砲撃が襲いかかった!
ドガァンッ! バチバチバチッ!
入口にいた何人もが爆風になぎ倒されたが、傷はなかった。パシュスが障壁を召喚し、その一撃を受け止めていたのだ。
「早く中へ下がれ!!!」それを見た古志は、倒れた仲間たちを急いで小屋へ引き戻した。
「お願いね……」
ニフェトは鉄扉をつかんでパシュスに告げると、勢いよく閉めた。
パシュスは雄叫びを上げ、銀翼の盾を土に突き立てた。盾はすぐに、一対の銀色の翼を広げた。
【システムメッセージ: 戦闘態勢「鋼の意志」を発動
*移動しない間、被ダメージが33%減少】
「10分……来い!」
ゴオオッ!!!
百賢の旅が巨大な火炎弾を放った。それはまるで地上の太陽のように、凄まじい熱を放っていた。
「我が魂の盾!」
パシュスは自身の最大HPの70%分の耐久値を持つ障壁を召喚し、恐れることなく火球を迎え撃った。
火球が激突した、その瞬間……
「憎悪の力!」
銀翼の盾が突如、黄金色に変わった——
ドゴォン!!!!
火球がパシュスの障壁の耐久値を一気に削った。直後、その火球は和也の氷のドームへ跳ね返され、ドームを粉砕して土砂降りの雨を降らせた。
ずぶ濡れになった和也はゆっくりと振り返り、たった一人で立つパシュスに言った。
「実に勇敢だな……加奈の友達」
...
リオの小屋の中では——
「リオ! あなたも早く逃げて!」
ニフェトはテーブルに突っ伏して泣いているリオを見つけた。ニフェトがリオを軽くたたくと、リオはニフェトを押しのけた。
「あとから来てね……」
ニフェトにはもう説得している時間がなかった。リオを残し、皆を地下道へ導くしかなかった。
「パシュスは……」古志は眉をひそめた。
「大丈夫。彼とは、前から約束してあるの」
ニフェトは静かに微笑んだ。そのとき、鉄扉からドンという轟音が響き、地下道全体が揺れた。
「急いで……」ニフェトは顔を曇らせ、一行をさらに深い地下へと導いた。
...
小屋の入口近くの作業台で、リオは千枚近い設計図を握り締めて泣きじゃくっていた。
「どうして……どうして俺は、こんなに情けないんだ!」
突然、怒りが込み上げ、リオは設計図をすべて床へ払い落とした。そして、六口弥生から譲り受けた護心石を取り出した。
「ギルドの財産の半分近くを、俺の研究に託してくれたのに……ごめん……俺……うわああっ!!」
リオは突然、小さな鉄のハンマーを振り上げ、護心石を叩き割った。その破片が、偶然リオの発明品の上に散らばった。
「せめて、ギルドの誇りだけは守らせてくれ!!」
リオは勢いよく跳び起き、ショットガンを手に鉄扉から飛び出した——
青々とした山頂は、すでに火の海に沈んでいた。青いマントがあちこち焼け焦げたパシュスは、静かに呼吸を整え、百賢の旅の次の砲撃に備えていた。
「パシュス! 俺に——」
リオは興奮しきった声で叫んだ。
パシュスは振り返り、リオが鉄扉を開けてしまったことに気づいて、ぎょっとした。和也はその隙を逃さず、稲妻のような速さで鉄扉へ突進した。
「胴鎖!」
パシュスは盾で和也を吹き飛ばし、続けて残る大賢団の隊長3人に青い魂の鎖を放った。パシュスと3人の隊長は、同時に身動きが取れなくなった。
隊長たちは必死にもがき、鉄扉へ突進しようとした——パシュスは全身の筋肉を限界まで張り詰め、震えていた。
「死ね!」リオはショットガンを構え、源魔師に狙いを定めて引き金を引いた。
ドン!
源魔師は左肩を撃たれ、2歩後ずさった。だが、攻撃の威力は大したことがないようだった。
「てめえ、俺までダメージを食らってんだろうが!」
パシュスは顔を真っ赤にして言った。
「なら……俺の高威力手榴弾を食らえ!!!!」
リオが投げようとした、その瞬間——
「クソが、ドアを閉めろ! いい加減、馬鹿やってんじゃねえ!」
パシュスは激怒し、口汚く罵った。
バン!
「くそ……くそ……」
リオは悔しげに小屋へ戻り、鉄扉を叩いた。涙が一滴ずつ床に落ちた。
ピッ、ピッ、ピッ、ピッ、ピッ。
「くそ! くそ! くそ!」
リオは拳を打ちつけ、また打ちつけて、悲しみも怒りもすべて鉄扉にぶつけた——だが、3発殴っただけで力を使い果たし、床に倒れて荒い息をついた。
ピッ、ピッ、ピッ、ピッ、ピッ。
「ん?」
...
同じ頃、サーバーのもう一つの激戦地、プラムスの塔では——
「爆破するぞ!!!!」
ドゴォン!!
【システムメッセージ: フレンド アンドリア HP残り20%】
地下牢が激しく揺れ、ドイツのプレイヤーも聖三位一体の連合軍も、強烈な衝撃波になぎ倒された。
地下牢の奥から冷気が吹きつけた。加奈は壁も天井も床も雪に覆われているのを見て、目を見開いた。粉々になった氷竜の亡骸が地下牢の至るところに張りつき、ゆっくりと光の塵になって消えていく。
だが、鋼鉄の扉は吹き破られていた!
「あれはブチャ?!」
加奈は鋼鉄の扉の向こうにいた巨大な生き物を見て驚いた。その両足には、黒い魔の蔦が絡みついていた。
【システムメッセージ: ギルドメンバー XXX オフライン】
【システムメッセージ: ギルドメンバー XXX オフライン】
【システムメッセージ: ギルドメンバー XXX オフライン】
「ん?!」加奈と松美は、はっとした。
【システムメッセージ: ギルドメンバー XXX オフライン】
【システムメッセージ: ギルドメンバー XXX オフライン】
【システムメッセージ: ギルドメンバー XXX オフライン】
【システムメッセージ: ギルドメンバー XXX オフライン】
【システムメッセージ: ギルドメンバー XXX オフライン】
【システムメッセージ: ギルドメンバー XXX オフライン】
【システムメッセージ: ギルドメンバー XXX オフライン】
「何が起きてる?!」
影の旅団の面々も異変に気づいた。
……
「さようなら……ニフェトギルマス」Kanatheonのメンバーたちは、ニフェトに手を振って別れを告げた。
ニフェトはメンバーのオフライン表示だけでは安心せず、その目で人形状態へ移ったのを見届けて、ようやく安堵した。
「ニフェトもログアウトしてくれ」古志が言った。
「みんなが先に行って。最後の1秒まで、もう少しだけギルマスの責任を果たさせて」
ニフェトは笑って言った。
「じゃあね」カミコは短く言い、あっさりとログアウトした。
【システムメッセージ: ギルドメンバー カミコ オフライン】
「もう少し、そばにいさせてくれ」桐司は眉をひそめた。
「みんながログアウトしたら、私はパシュスを助けに戻るから」
ニフェトは笑顔で断った。
「囲まれて攻撃されてるんだぞ! どうやって——」
桐司は驚きの声を上げた。
「無理よ。でも、やるべきことなの。ギルマスとして……恋人として。私にできるのは、彼のそばにいることだけ」
ニフェトは微笑んだ。桐司は絶望に打ちひしがれた。
「またな……」桐司は沈んだ声で別れを告げた。
【システムメッセージ: ギルドメンバー 桐司 オフライン】
「時間を無駄にするな! パシュスが命を張ってるんだぞ!」
古志が焦った声で急かした。
「みんな、さようなら。ありがとう。みんなのおかげで、このゲームはただのゲームじゃなくなった」
ニフェトは友人たちに深々と頭を下げた。
一同は胸を打たれ、地下道には別れを惜しむ思いが満ちていた。ゲームは虚構でも、
【システムメッセージ: ギルドメンバー 古志 オフライン】
【システムメッセージ: ギルドメンバー セラン オフライン】
【システムメッセージ: ギルドメンバー 翠 オフライン】
【システムメッセージ: ギルドメンバー 萌僧 オフライン】
【システムメッセージ: フレンド 白 オフライン】
「…………………………」
地下道の火明かりに、仲間たちの影が揺れていた。皆の姿はまだそこにある。けれど、別れを惜しむ囁きはもう聞こえなかった。
「私たちがいなくなって……このサーバーは、何か変わるのかな」
ニフェトは人形状態の仲間たちを見渡し、ひとり呟いた。
【システムメッセージ: フレンド パシュス HP残り20%】
「パシュスの馬鹿……絶対に、敵に私たちをなめさせないでよ!」
ニフェトは震える手で神杖を握り直し、地上へ続く階段を駆け上がった。
…




