429 本物の信仰
プラムスで革命軍が戦っていた頃、パーカー率いる部隊を撃破したKanatheonと影の旅団は、秘密基地で束の間の休息を取っていた。
プラムスで激戦が繰り広げられていたその頃、パーカー率いる部隊を撃破したKanatheonの秘密基地では——
ソフィアは巨大な十字架を召喚し、死体の山に突き立てた。戦死したドイツのプレイヤーたちが落とした補給品は、200人の腹を満たすのに十分な量があった。
両ギルドの生き残りは、負傷者の手当てと撤収の準備を進めながら、草原に食卓を並べた。ブドウ、リンゴ、オレンジ、イチゴ……何でも揃っていた。そのうえ七面鳥、焼き魚、さらには丸ごとのイノシシまである。大きな木樽に満たされた美酒は、風呂桶を満たせるほど。鏡のように磨かれた銀の食器が陽光を受けて金色に輝き、食卓はまるで宝石を敷き詰めたようで、目移りするほどの美しさだった。
ようやく悪臭のこもる穴蔵から解放された彼らは、涼しい風に吹かれ、鳥のさえずりを聞き、花の香りを楽しみながら、ゲームの素晴らしさを満喫していた。
チン、チン、チン、チン、チン。白は食器を叩き、立ち上がって杯を掲げた。
「この一杯は、Kanatheonと影の旅団の勇士たちに!」
「おう!」一同は杯を掲げて酒をあおり、次の一杯を注いだ。
「この一杯は、ニフェトギルマスに!」白は声を上げて笑った。
「ニフェトギルマスに!」一同は再び杯を掲げ、一息に飲み干した。
ニフェトはへらっと笑って頭を下げ、皆の厚意を受け取った。
「この一杯は、ソフィアに!」白がまた声を張り上げた。
目の見えないソフィアは、石の上に腰かけたまま、そっと杯を掲げて微笑んだ。
「ソフィアに!」
「最後の一杯は……火野良に」
白の声が沈んだ。
影の旅団の面々はたちまち口を閉ざし、うつむいて杯を見つめた。
「火野良ギルマスに。彼が一人で殿を務めてくれたからこそ、今日の勝利がある。仲間が彼を救い出してくれることを願おう」
ニフェトは立ち上がって言った。
「火野良ギルマスに!」
Kanatheonの面々が杯を掲げると、影の旅団のメンバーたちも不意に胸が熱くなった。
「火野良ギルマスに!」影の旅団の面々も声を合わせ、もう一杯飲んだ。
「よし! さっさと食べよう! 食べ終わったら、ここを離れるぞ……でないと、次のドイツ勢がすぐに押しかけてくる」
白は日本酒を一口あおり、イノシシの脚をつかんで豪快にかぶりついた。
ニフェトはパンを小さくちぎり、ソフィアの隣に座って、丁寧にその口へ運んだ。
「神の恩寵は戻った?」
ソフィアはパンを飲み込み、首を横に振ってため息をついた。
ニフェトは黙って表情を曇らせた。もう一口パンを食べさせ、ソフィアの封印された両目をそっと撫でた。
「痛い?」
「痛みをどう定義するかによるわね」ソフィアは苦笑した。
「まだ覚えてるよ……教皇になったばかりの頃、初めてスキルを試して、教皇都市の通りを3本も吹き飛ばしたよね。そのあと、低級の魔物1体に祝福を与えたら、そいつがレベル100のプレイヤー2人を殺しかけたんだったよね?」
ニフェトは笑った。
「あははは! そんなこともあったっけ?」ソフィアの表情がぱっと明るくなった。
「あの頃は、君のおかげで六口弥生と二人で本当に頭を抱えたよ。柑々が君を抑えてくれて助かったけどね」
ニフェトは笑いながら言った。
「柑々はいいわ。けっこう好きよ。でも、そばにいる荒道一狼はどうも苦手。一日中ひと言もしゃべらないのに、存在感は圧倒的なんだもの。隅に座っているだけで、こっちは落ち着かなくなるのよ」
ソフィアは唇を尖らせた。
「でも、彼は戦死したんだ」
ニフェトが言うと、ソフィアはすぐに表情を曇らせ、うつむいた。
「うん……私たちのために殿を務めて、戦死したの」
ソフィアはうつむいたまま、指先をいじりながら言った。
二人はふと黙り込んだ。涼しい風が耳元を吹き抜け、ひゅうひゅうと鳴っていた。
ニフェトがもう一切れパンを食べさせようとすると、ソフィアは微笑んでやんわりと断り、代わりに少し酒を飲ませてほしいと頼んだ。
「結局、シモンには会ったの?」
ソフィアは、前にニフェトと話したとき、シモンの面会の申し出が話題になったのを思い出した。
「うん。私が殺した」
ソフィアは何も答えなかった。
「どうしたの? 私のこと、ひどい人間だと思った?」ニフェトは苦笑した。
「ううん……あなたがかわいそう」
「何がかわいそうなの。ギルマスとしての責任を果たしただけよ」
ニフェトは不機嫌そうに言い、振り返って楽しげに酒を飲み交わす仲間たちを見た。その胸に、ふいに寂しさが込み上げた。
ソフィアはそっとニフェトを抱きしめた。
「やめて! どうしたの?」ニフェトは戸惑い、ソフィアを押し離そうとした。
「ちょっと待って」
ソフィアはニフェトにしっかりと腕を回し、二人は石の上で抱き合った。
ソフィアのぬくもりがニフェトに伝わってきた。柔らかな羽毛に包まれたように心地よかった。
「変な感じだね」ニフェトは苦笑して、ソフィアを押し離した。
「誰かに抱きしめられると、自分がどれほど寂しかったのか、気づいてしまうものよ」
ソフィアは微笑んだ。
「寂しいって何のこと? 変なの」ニフェトはとぼけて歩き出した。
「ギルドのメンバーも、信徒と同じ……」
ソフィアが不意に言うと、ニフェトは足を止めて耳を傾けた。
「みんな、教皇の姿に憧れている。私たちに導かれて、何か大きなことを成し遂げる喜びを味わいたいのよ。でも、ギルマスの苦しみは……メンバーには見えないこともある。支えてもらうことはできても、最後に決断するのはあなた自身だから。シモンを殺して――つらかったんでしょう、ニフェト」
ソフィアは苦笑した。
ニフェトはうつむき、何も言わなかった。
「自分を責めないで。でも、何よりも、自分がもともと大切にしていたものを忘れないで。それこそが、あなたの本質なんだから。あなたが自分の信念を貫けるなら、メンバーがついていくのは、もう理性だけで動く影じゃない。一人の生きた人間になるの。正しいか間違っているか、すぐには分からないこともあるわ。それでも、自分が何を守りたいのかは、見失わないで」
ソフィアは微笑んだ。
「あなたはどうなの? メンバーはみんな死んでしまったじゃない。あなたの信念は何?」
ニフェトは眉をひそめて問い返した。
「私……責任を持つことを覚えたみたい。ラロの聖典には、信念を守り抜くべきだと書いてあるわ。ラロはその民に加護を与え、みんなやがて幸せになるって」
ソフィアは年老いた修道女の古びたラロの聖典を取り出し、微笑んで答えた。
「それって、ただゲームのアイテムに書いてあることじゃない。ちょっと入り込みすぎなんじゃない?」
ニフェトは心の中でくすりと笑った。
「ラロが架空の神でも、その教えで私が変わったことまで、架空になるの?」
ソフィアは静かに問い返した。
「それは……違うけど」
ニフェトは言葉に詰まった。
「パシュスがあなたにとって大切なのは、ただ現実に存在しているからじゃないでしょう? 一緒に過ごして、支え合ってきたからよね。私も同じ。ラロの教えは、私に謙虚さと、責任を果たすことを教えてくれた。ゲームの中で得たものでも、それを学んだ私や、これから私がすることまで架空にはならないわ」
ソフィアがそう言ったとき、神の恩寵がわずかに高まった。
「あなたが話していた老修道女の言う『ラロの教えを体現する』って、こういうこと?」
ニフェトは苦笑して尋ねた。
「まだまだよ」ソフィアは微笑んだ。
そのとき、古志が険しい顔で歩み寄ってきた。
「ニフェト……報告がある」
「どうしたの? 顔色が悪いけど」
ニフェトは驚いて尋ねた。
「さっき見張りから報告が入った。数百本もの双頭の鷲の大旗が、こちらに迫ってきている…………」
古志は沈んだ声で告げた。
「思ったより早い……プラムスの守備隊?」
ニフェトはため息をついて尋ねた。
「いや……」古志は首を横に振り、力なく答えた。
「じゃあ、どこの部隊なの?!」ニフェトは重ねて尋ねた。
「百賢の旅が戻ってきた。和也が率いている。あと10分ほどで到着する」
ニフェトは手にしていた杯を投げ捨てた。自分たちが眠れる巨人を目覚めさせてしまったのだと悟った。
「終わった……」
…
一方、百賢の旅では——
「火の魔法を優先して使え! 一刻も早く敵兵を殺傷しろ!」
和也は進軍を急がせながら、部隊に攻撃の指示を飛ばした。
和也は不安を抱えていた。五輪の杖にはすでに+10の真紅の宝石をびっしりとはめ込み、火力を最大限まで引き上げていた。
「加奈……転移で戻ってくるような馬鹿な真似はするなよ」




