428 死地に活路を求めて
「アンドリア!」
ノクシアは大勢の初心者を率いて、かつての銀龍の刻印のギルドホールへ戻ってきた。氷竜を召喚してドイツのプレイヤーに立ち向かうアンドリアを見つけ、興奮して声を上げた。
「その旗、いいデザインね」
アンドリアは微笑み、金色の三角形が描かれた旗を褒めた。
「話はあとだ……気を抜くな」
火野良は、ドイツのプレイヤーが陣形を組み始めたのを見ていた。
「異端者、それも狂信者を主力に据えるとは、運が悪かったな。来い! 聖句の審判池」
ルースが十字架を床に突き立ててひねると——床も壁も、淡い青色の聖句で埋め尽くされた。
「運が悪いかどうかは、戦ってみなきゃわからねえ!」
アビルが声を張り上げると、本サーバーの赤ネームたちが一団となってルースへ襲いかかった。
「信仰の突撃!」
一列に並んだドイツ側の前衛たちが鉄壁と化し、迎え撃った。
ドン! 二つの怒涛が激突し、戦場には一瞬で千もの血の花が咲いた。
「私に続け!!」
アンドリアは巨体の氷竜に乗って突撃し、ドイツ軍の防衛線全体を大きく押し曲げた。
次の瞬間、頭上を覆うほどの巨剣が2振り、宙に浮かび、アンドリアがこじ開けた突破口へ狙いを定めた。
「絶対君臨!」火野良と雨間刻が同時に叫んだ!
ドォン!!!
煙が晴れると、本サーバーの部隊は目を疑った。ドイツ側の前衛たちは紫色の防護シールドに包まれ、勇敢にも肩を並べて盾を掲げ、火野良と雨間刻の必殺技を防いでいた。
大扉の外にいたドイツ側の増援部隊が、その隙に広間へなだれ込んできた。激しい戦闘で豪華な長いカーテンは細い帯状に裂け、まるで背の高い、長髪の痩せた幽霊が窓辺に一列に立っているようだった。
アビルは乱戦の中で太ったルースを見つけ、数人を体当たりで押しのけて殴りかかった。
「第一審・清浄なる霊」
ルースはアビルを指さし、淡々と告げた。
バシッ! アビルの拳がルースの腹を強烈に打ち、贅肉に波紋が広がった——だが、ダメージはなかった!
ルースは微笑み、アビルへ両手を伸ばした。
「何だと?!」
アビルは驚いて後ろへ跳び退き、過負荷による強化が封じられていることに気づいた!
「不浄の罪!」
ルースは小さな木槌を取り出し、床の聖句の一つを強く叩いた。青い聖句が一瞬、金色に閃いた——ドン!
見えない大槌がアビルの胸の急所を直撃した。息が詰まり、カハッと鮮血を吐き出す。
「あいつは……どうやって攻撃したんだ?!」
ルースは柑々をかばう雨間刻を見据え、雨間刻の注意が逸れた隙に再び仕掛けた。
「第一審・清浄なる霊」
雨間刻の体から青い光の粉が漂い出し、魂喰いの大剣に付与された吸血能力も含め、すべての魔法効果が封じられた。
ちょうど守魂衛に斬りかかった雨間刻は、以前ほど力が出ないことに気づいた。
相手はその隙を見逃さず、雨間刻に体当たりして倒し、ドイツ側の陣内へ引きずり込もうとした。火野良が相手を後退させたおかげで、雨間刻は辛くも難を逃れた。
「俺の体に何が起きたんだ?!」
雨間刻は驚き、何度も拳を握ってみたが、体に異常はなかった。
「審判官の能力じゃないか?!」
火野良は周囲の敵を食い止めながら、切迫した声で答えた。
あちこちで爆風が吹き荒れ、熱波が次々と顔に叩きつけられた。剣のぶつかり合う音が、皿や茶碗を打ち合わせたように甲高く響き、耳を刺す。魔法のまばゆい光が、花火のように宙で弾けていた。
ルースが一人を標的に定めるたび、その相手の祝福は跡形もなく消え、ルースが標的を変えて初めて戻った。
「わかった! ラロの聖典に基づく結界だよ。審判官は、この中なら好きなように相手を裁ける」
「一番厄介なのは、付与効果を封じるスキル。装備なしであいつと戦わされるようなものよ」
加奈は戦いながら、審判官の戦い方を観察していた。
本サーバーの革命軍は、どうしてもルースの防衛線を突破できず、次第に押し込まれていった。最も頑丈でメインタンクを務める氷竜さえ傷だらけになり、体を覆う氷晶には何本もの亀裂が走っていた。
一方、ドイツのプレイヤーたちは絶え間なく予備兵力を繰り出し、革命軍を幾重にも取り囲んでいた。
生き残った初心者たちは、両軍の手練れたちに挟まれ、力を振るう余地などなかった。不運にも、爆風で窓の外へ吹き飛ばされる者も大勢いた。
「この守備陣を見る限り、ドイツ側は明らかに戦いに備えていた。どうして───今日、動いたんだ?」
火野良は後方へ下がってHP回復ポーションを飲み、焦った声で尋ねた。
「ドイツ側の大将の一人が、Kanatheonと影の旅団に討ち取られたの。全軍で出撃すると思ったの」
「ドイツのプレイヤーが急激に減ったのを見て、ノクシアに行動を早めるよう、人を送って知らせたのよ」
柑々は右へ左へ身をかわしながら、何度も床の石くずにつまずいて転んでいた。
「大将が討ち取られた?! どう見ても戦いに備えてたじゃないか?! プラムスの守備隊は——そっくりそのまま隠れてたんだぞ!」
火野良は周囲を見回した。味方は鷲の大旗に囲まれ、死者と負傷者が折り重なっていた。
「このまま戦ったら全滅するよ!」
全身傷だらけで髪も乱れたキティが言った。
革命軍の赤い光は、痛ましい悲鳴とともに少しずつ弱まっていった。
「態勢を立て直せ!!」
アビルが声を張り上げると、生き残った本サーバーのプレイヤーたちが広間の中央に集まった。戦死したプレイヤーの光の塵が、両軍の間を漂っていた。
「もう終わりか?」ルースがせせら笑った。
ルースは結界内であれば、距離や遮蔽物にかかわらず標的を選び、その相手の強化効果を封じられる。親衛隊とともに築く守りは、容易には破れない鉄の檻だった。
血まみれの火野良は、怒りに歯を食いしばった。審判池の結界の中では、ルースを倒すのは難しいとわかっていた。
「火野良ギルマス……まだ最後の一手がある。ただ、袋小路に踏み込むことになるし、失敗すれば死体も原形をとどめない」
柑々は突然、火野良の手をつかみ、硬い声で告げた。
「言え!」
火野良は真剣に耳を傾けながらも、敵への警戒を怠らなかった。
「地下牢に突入して、大天使長を救い出す」
柑々が言った。
「大天使長?!」
火野良の心の天秤が左右に揺れ、決断がつかなかった。だが、周りでは仲間が次々と倒れていく。もう迷っている時間はなかった!
突然、扉の外から騒がしい音が響いた!
「魂護衝撃!!」
レナは100人のドイツ兵の中で、敵を波のように跳ね上げた。
「絶対領域!」
レナは数倍に巨大化した蔦の盾を掲げ、地面へ勢いよく叩きつけた!
ドン! 半径10メートル以内のドイツのプレイヤーが、衝撃波に押されて後退した。
「早く入れ!」
レナが怒鳴ると、蔦の盾が猛烈な勢いで伸び、高い塔の入口を塞ぎ始めた。
由里、イージ、ブラミィら銀龍の刻印の生き残りが、蔦の隙間を押し分けて塔へ入り、中のドイツのプレイヤーたちと血みどろの白兵戦を繰り広げた。正面入口はたちまち血の川と化し、負傷兵が枯れ葉のように地面を埋め尽くした。
「アンドリア! 俺たちを率いて地下牢へ突っ込んでくれ!」火野良が怒鳴った。
「地下牢?! 退路がなくなるぞ!」
アンドリアは焦った声を上げた。竜の背で必死に身を縮め、髪も魔法であちこち焼け焦げていた。
「反抗すると決めた瞬間から……俺たちに退路なんてない! ここで大博打を打とうじゃないか!」
火野良の言葉に、周りの仲間たちも腕を突き上げ、雄叫びを上げた。
「よし! ついてこい!!!!!!!」
アンドリアは盾を背負い、乗っている氷竜を反転させて、下り階段へ突進した。
「しまった! 追い詰めすぎたか」
ルースは内心で焦り、すぐさま革命軍の殲滅を命じた。決して地下牢に入らせてはならない。
だが、氷竜は狭い屋内を地下鉄の列車さながらの勢いで突き進み、暴れ回った。ドイツのプレイヤーたちには、防衛線を築く空間すらなかった。
アンドリアは血路を切り開くと、すぐさま代わりに鉄の皮膚を持つサイを召喚し、階段口を死守する守備兵を押し込んだ。
革命軍はレナとともに間髪を入れずアンドリアの攻勢に続き、地下通路の守備兵を一掃した。
「ふざけるな!!! 攻め込め!!」
ルースは激怒した。だが、審判池から離れることはできず、効果時間が切れるのを待つしかなかった。
攻守が逆転し、革命軍はすぐさま階段口に防衛線を築いた。
「この扉の向こうに大天使長がいる!」
柑々はアンドリアを黒い鋼鉄の扉の前へ案内した。
「壊すにはかなり時間がかかる。源魔師なら、逆算して封印を解けるよ」
柑々が言った。
「解いている時間はない! イージ、プレゼントを仕掛けろ!」アンドリアが怒鳴った。
「プレゼントの爆発力はすさまじいんです。下手をすると────」
イージは、罪のない者まで巻き込まないかと案じた。
「仕掛けろと言った! 今すぐやれ!」
アンドリアが平手打ちを浴びせると、イージの頬がかっと熱くなった。
イージは自分の頬を押さえた……内心では狂喜していた。
「かしこまりました! アンドリア様!!!!!」
イージはすぐさま、威力が偏らないよう鋼鉄の扉に爆薬を配置し、導線を引きながら数十メートル先まで走って叫んだ。
「爆破するぞ!」
「爆破するぞ!」
「爆破するぞ!」
「爆破するぞ!」
警告の声は次々と伝わり、瞬く間に広がった。革命軍は一斉に地面へ伏せた。
「最後の仕事だ……氷竜」
アンドリアは歯を食いしばった。
「来い!」
アンドリアが召喚した巨大な氷竜は、両翼を広げて鋼鉄の扉を覆った。
「爆破するぞ!」イージは最後にもう一度叫び、赤いボタンを押した!
ピッ。
ドゴォン!!




