427 暴動の始まり
「ルース様! アンドリアが裏切りました! 200人を率いて、西から攻めてきています!」
ドクトンが急ぎ報告した。
「よりによって、このタイミングでか?! やはり連中は示し合わせていたか……人を遣って、柑々を生け捕りにしろ。今度ばかりは見逃せん」
ルースは眉をひそめた。
「ルース総統……アンドリアの反乱軍より、柑々という女のほうが気になるのですか?!」
ドクトンは驚いて尋ねた。
「ふん。お前も連中と同じで甘いな、ドクトン。私はルースだ。盤面は……私が整えるんだよ」
ルースは自信に満ちた笑みを浮かべた。撤退命令さえ出さず、柑々の生け捕りと、銀龍の刻印のメンバーの皆殺しを命じただけだった。
...
50人近いドイツのプレイヤーが屋根の上や路地に潜み、通りを挟んだ向かいにある、銀龍の刻印の簡素な集会所を見据えていた。
数人の魔法使いが一斉にうなずき、杖を掲げた───ドォン!!! 強力な魔法が集会所の木の扉に炸裂し、煙と埃が立ちこめた。
ドイツ側の重装兵たちがすぐさま集会所へなだれ込んだが、煙の中で凄まじい力に押し戻された!
ドン! まるで分厚い城壁に激突したかのようだった。
レナが蔦の大盾を掲げ、扉に開いた穴を塞いでいた。その背後には羅刹教の狂信者たちが控え、さらに後ろには由里、イージ、ブラミィ、前哨基地の指揮官といった幹部がいた。
「アンドリアと約束したんだ。この扉は、命に代えても守り抜く!」
レナが声を張り上げると、蔦の盾が自動で修復を始め、さらに伸びた蔦が扉の穴を埋めていった。
「なんだ、あの装備は?!」
ドイツのプレイヤーたちは驚き、すぐさま火力を上げて攻撃を浴びせた。
ドォン!! 両陣営が集会所の入口で激しくぶつかり合った。
...
バン! 3人のドイツ兵が柑々の部屋の扉を勢いよく蹴り開けた——だが、中に人影はなかった。3人は武器を抜き、壁に沿って進んだ。
「その手……何度使えば気が済むんだ?!」
女のドイツ兵が怒鳴り、脇の本棚に拳を叩きつけた。鏡の中から柑々を引きずり出し、床に叩きつける。
柑々はたちまち血を吐き、腰に引き裂かれるような痛みが走った。
「先に手足を折っておこう。また逃げ回られても面倒だ」
別の一人が言った。
「やめて……お願い、私は何も———」
柑々は泣いて許しを請うたが、雌犬のように暴君に乱暴に床へ押さえつけられた。チャイナドレスが太腿までずり上がり、胸も半ば露わになった。
バキッ。
「うあああっ!!!」
柑々の右腕が丸ごと引きちぎられ、たちまち床に血溜まりが広がった。
「脚だ」女のドイツ兵が命じた。
「やめて!!!」柑々はまな板の上の生きた魚のように身を跳ねさせたが、暴君に押さえ込まれた。
窓の外からキン、キンという音を聞きつけた狙撃手は、不思議に思って窓辺へ寄り、外をのぞいた——バン!
目の前のガラス窓が突然弾け、ほぼ同時に部屋の反対側の窓も粉々になった。
仲間の男は驚き、柑々の上から跳びのいた。
「何か見えたのか?!」男は慌てて狙撃手に駆け寄った。
女の狙撃手は答えず、ぼんやりと窓の外を見つめていた。
「おい! お前——うわあっ!!!」
男は、女の狙撃手の頭が貫かれているのを見て仰天した。狙撃手はドサッと床に倒れ、光の塵となって消えた。
そのとき、一人の黒騎士が別の窓を突き破り、ガシャーンという音とともに、きらめく無数のガラス片を伴って広間へ飛び込んできた。雨間刻だった!
雨間刻は一太刀で男の左手を斬り落とした。
「待って——」
男の暴君は叫ぼうとしたが、雨間刻に一踏みで頭を潰された!
続いて、血まみれの雨間刻が、残る女のドイツ兵を見据えた。
「ち……近寄るな! さもないと——」
女のドイツ兵は柑々を人質に取ろうとしたが、もう一本の投槍に頭を貫かれ、壁に縫い留められた。
「柑々!」
雨間刻は慌てて駆け寄り、柑々に祝福の聖水を使った。柑々のHPはすぐに全回復したが、手当ての必要な傷はまだいくつも残っていた。
そのとき――柑々は視界の端に、入口へ忍び寄る新たな三人のドイツ兵を捉えた。そのうちの一人が狙撃銃を構え、雨間刻に狙いを定めていた。
「危ない!!」驚いた柑々はとっさに身を起こし、雨間刻をかばってその前に出た!
「えっ?!」雨間刻がはっと顔を上げた。
パン!
...
「ふん……ふん、ふんふんふん、ふん。ふんふん!」
美しい鼻歌が、不意に力強く締めくくられた。
ヒュウ……広間のカーテンがかすかに揺れた。
撃ち抜かれたのは、入口で銃を構えていたドイツの狙撃手だった。その頭は、スイカのように弾け飛んでいた。
「何が起きた?!」
残る2人のドイツのプレイヤーは、怯えて扉の陰に縮こまり、身動きが取れなくなった。
柑々と雨間刻は間一髪で命拾いしたが、驚いている暇はなかった。雨間刻は柑々の前へ跳び出し、敵に背中を向けた。自分の体を盾にして柑々を守りながら、包帯を巻いていく。
「は……早く逃げろ! ほかにも敵が潜んでるぞ!」
2人のドイツのプレイヤーはすぐさま背を向けて逃げ出したが、その途中でそれぞれ狙撃され、血溜まりの中で光の塵となって消えた。
「ふん……ふん、ふん……ふんふんふん」鼻歌は続いていた。
城壁の上に伏せた菜々子は、手元の小さな手帳に新たに3つの丸印をつけた。だが、その手帳はすでに何ページも丸印で埋まっていた。
すぐさま近くに囮用の反射鏡を置き、自分のスコープのレンズカバーを閉じると、望遠鏡を取り出して高い塔の内部を引き続き監視した。
...
ドイツのプレイヤーの巡回部隊が駆けつけ、入口を完全に封鎖した。
「早く……逃げて……」
血を失いすぎた柑々が、弱々しく言った。
「黙ってろ! もうすぐ巻き終わる!」雨間刻は怒鳴った。
ドイツ側の盾の隊列が突然開き、魔法使いたちがすかさず雨間刻めがけて火球を撃ち込んだ。
「聖なる庇護!」
青い聖盾が火球をすべて受け止めた。
一筋の黒雷が入口を薙ぎ払い、ドイツのプレイヤーたちを追い払った。
雨間刻は呆然と顔を上げた——火野良が仲間を率いて、割れた窓から飛び込んできた。
「お前たち……」
雨間刻は唖然として火野良を見つめた。アトがすぐさま柑々を治療すると、失った腕が瞬く間に再生した。
「本当は俺一人で来るつもりだったんだが、こいつらがどうしてもついてくるって聞かなくてな。仕方ないさ」
火野良は苦笑した。
「どうする?! 入口は塞がれたし、もう囲まれてる!」
松美が焦って尋ねた。
「裏手は銀龍の刻印の旧倉庫だよ。そこからなら————」
キティは嬉しそうに声を上げた。
「だめ!」柑々は苦しげに身を起こし、慌ててキティを制した。
「あそこは……」
柑々が硬い声で言いかけたとき、入口のドイツ兵たちが一斉に左右へ退いた。
白く神々しい光がたちまち広間を照らした――戦闘用の法衣をまとったルースが、50人余りの四次職の親衛隊員を従えて姿を現した。
広間が静まり返った。親衛隊が残っていることは分かっていた。だが、こうして対峙すると、その圧力は想像以上だった。
「柑々さん、私は君を厚遇し、礼を尽くしてきた。まさか君まで、最後には私を裏切るとはね」
ルースは嘆くように言った。
「私はずっと本サーバーの人間よ。あんたが馬鹿だっただけ!」
柑々は舌を出してあっかんべーをした。雨間刻は苦笑するしかなく、柑々を自分の背後へ引き寄せた。
「火野良……大したものだ。監獄から逃げ出すとはね」
ルースは笑った。
火野良は答えず、焦りながら周囲に目を走らせ、逃げ出せる隙を探していた。
「探しても無駄だ……今日がお前たちの命日だ」
ルースは冷たく言い放った。
周囲のドイツのプレイヤーが一歩前へ出て、一行を取り囲んだ。
突然、空から角笛の音が響いた。
「天虹衝撃!!!!!!」
ドォン……気温が急激に下がった———アンドリアが氷竜にまたがり、塔の広間へ突っ込んできた。まるで我が家へ帰ってきたかのように。
力強く冷徹な眼差しは、グリフォンに乗って現れたアンドリアを松美が初めて見たときと同じだった。松美は確信した———アンドリアは何ひとつ変わっていない。
「ほう、アンドリア! いいだろう。お前たちは揃って、いい夢を見ていたようだな。私が目を覚まさせてやろう!」
ルースが手を上げると、大扉の向こうにいたドイツ側の大部隊が広間へ押し寄せ始めた。
「ルース……私を侮辱し、由里を痛めつけ、私のギルドの仲間を殺した恨み……今日こそ晴らしてやる!」
アンドリアが怒号を上げた!
巨大な赤い光の波が入口のドイツのプレイヤーたちを呑み込み、ずたずたに引き裂いた。
ルースは眉をひそめた。反抗勢力に加わる本サーバーのプレイヤーが、ますます増えていた。
「ほかの者たちは?」アンドリアがアビルに尋ねた。
「ほかは全員、初心者を助けに南門へ向かった。残ってるのは30人だけだ」
アビルは息を切らして答えた。
今、広間にいるのはドイツ側が50人、本サーバー側が40人。双方ともほぼ全員が四次職で、ようやく戦力は互角となった。
「それならば……望みどおりにしてやろう!」
ルースは画面を開き、赤いボタンに拳を叩きつけた。
ブオォォォ——————————甲高い角笛の音が街中に響き渡った。
「何の音だ?!」
性殿騎士団に続いて街の奥へ進んでいたノクシアの初心者部隊が、たちまち身を寄せ合って固まった。
ブオォォォ——————————
「これは……召集の合図!」
柑々は角笛の音を聞き分け、ドイツのプレイヤーたちがすぐに集まってくると悟った。
だが、誰があの角笛に応じるというのか。ドイツ側の主力は、すでにこの街を離れたはずだ。
「そんな……嘘でしょ?!」
菜々子はスコープを下ろし、突如として色を変えたプラムスを唖然と見つめた。
赤みがかったオレンジ色のレンガ造りの家々が、無数の黄色い鷲の旗に覆われた。小さな家々から、500人近くものドイツのプレイヤーがあふれ出してきた!
街の奥へ進んだ初心者部隊と決死隊は、たちまち幾重にも包囲された。
「アンドリアがこの隙に裏切ることは読めていた。だが、君には最初から私の味方になる気などなかったとはね、柑々さん」
ルースは苦笑しながら首を振った。
「このドイツのプレイヤーたちは……最初から待ち伏せしていたのか?!」
火野良は驚愕した。
そのとき、窓の外から戦闘の音が聞こえてきた。ノクシアが初心者部隊を率い、魔物の追撃を振り切って駆けつけたのだ!
「外に出てノクシアを援護する!」アビルは10人を連れて出ていった。
「お前たちは華々しく散りたいんだろう? 私がその望みを叶えてやろう! ハハハハハハ!」
ルースは高らかに笑った。




