↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
見えない魔王——歪みきった征服ゲーム  作者: 純白
【第二部】 第五十一章――聖三一
426/443

425 新たな旗

「おい、火野良!」雨間刻は小声で呼びかけた。

地下牢の廊下の奥からは、物音一つ聞こえてこなかった。


「火野良、聞こえるか?」雨間刻はもう一度尋ねた。

「聞こえてる」

「そっちに看守はいるか?」

「いない。いつもは各階に5人ずついるが、今日は1人だけだ。そいつも、さっき地上に戻った」

火野良が答えた。


「何があったんだ……」

雨間刻は眉をひそめ、考え込んだ。


「他のみんなは?」

火野良が焦った声で尋ねた。何よりも気がかりなのは、やはり仲間たちの無事だった。


「加奈も松美もキティもマイロも無事だ」雨間刻が答えた。


「もう一人の女の子は?」火野良が問いを重ねた。

雨間刻は答えなかった。火野良は胸を締めつけられる思いでため息をついた。


「和也は今日、松美を連れていくはずだったのに、来なかった」

キティは眉をひそめて言った。


「加奈、和也がどこに行ったか知ってるか?」雨間刻が尋ねた。

「……」返事はない。


「まだログインしてないのか?」

雨間刻は不安になり、加奈のいる鉄の檻に目を向けた。


両手を吊り上げられた加奈は、額にびっしょりと汗を浮かべ、顔面蒼白になっていた。血が木の根のような筋を描いて腕を伝い落ち、緑の髪をところどころ赤茶色に染めていた。


「加奈?!」雨間刻が思わず声を上げた。

「加奈がどうしたの?!」松美も驚いた。

「静かに!」キティが二人に注意した。


「う……うぅっ! あ……はぁ……はぁ……はぁ……」

加奈が不意に小さなうめき声を漏らした。痛みに顔をくしゃくしゃにゆがめ、手首からはさらに血が流れ落ちた。


「加奈、毒にやられたのか?」

雨間刻は慌てて看守を呼ぼうとしたが、その声はキティとマイロの大げさな咳払いにかき消された。


「毒なら、とっくに助けを求めてるんじゃない?」マイロは眉をひそめた。


加奈は答えず、疲れ果ててうなだれた。額にかかる濡れた髪が二筋、浅い息に揺れていた。


加奈は不意に顔を上げ、深く息を吸った。覚悟を決めると、その目つきがきっと鋭くなった。


「んんっ! うぅっ……」

加奈は痛みに細い体を弓なりに曲げて両脚を縮め、こらえきれずに涙をあふれさせた。


雨間刻は、加奈の手首が血まみれにただれているのに気づいた。皮膚は一面真っ赤で、火傷の痕のように見えた。いくつもの水ぶくれがつぶれ、その下の柔らかな赤い肉がむき出しになっていた。


「あと……少し……」

加奈は紫がかった唇をわずかに開き、一気に力を込めた。

ブシュッ……。

「うううううっ!!!!!!」

バンッ! 手首を縛る鋼鉄の鎖に亀裂が走り、土くれのようにぼろぼろと崩れ落ちた。


加奈は痛みで意識を失いかけた。薄れゆく意識を必死につなぎ止め、床から身を起こした。指はソーセージのように腫れ上がり、絹の布に触れるだけでも、焼けるような鋭い痛みが走った。


だが、加奈にはほかに手段がなかった。リュックを呼び出し、口を結んでいたひもを歯でほどくと、両手を中に突っ込んで力任せに押し広げた。ようやく治療用の特効薬を塗り終えると、たちまち両手に蟻が這うようなかゆみが広がり、細胞の再生が始まった。


「どうやって鋼鉄の鎖を外したの?!」

皆が一斉に驚きの声を上げた。


加奈は床に座って息を切らしながら、縦に伸びる鉄格子の一本にある、小さないびつな欠けを弱々しく指さした。


「熱で膨らんで、冷えると縮む……鉄格子も鋼鉄の鎖も同じ。和也……あいつがヒントをくれた」

加奈は少しずつ力を取り戻していた。


一同は内心、和也の力量に感心し、それ以上に、窮地で発揮された加奈の観察力に感服した。


加奈は細身の白い魔杖を取り出し、仲間たちの鎖へ炎と冷気を交互に送り込んだ。魔杖の補助を得た今、その操作は先ほどよりもはるかに速く、正確だった。


小隊はようやく拘束から解放され、監獄内で火野良と合流した。


一同は急いで食事と水を取り、脱出に必要な体力を取り戻した。だが、加奈の手の痛みはまだ消えていなかった。


「作戦はあるか?!」

火野良がすぐさま尋ねた。すでに両手には大剣が一本ずつ握られていた。


「今はドイツ側の守りが手薄だ。当初の計画どおり、初心者の村へ逃げよう」

キティが提案した。


「でも、柑々がノクスに伝えた決行日は明日だ。あいつが命がけで突入してきたとき、俺たちがもう逃げていたら、死なせることになるんじゃないか?」

雨間刻は心配そうに言った。


「ノクスが初心者の村を出る前に、そこまでたどり着けばいい。行こう!」

松美は黒粉を抜いた。


「よし!」

一同は武器を取り出して防具を身につけ、慎重に階段を上って脱出を図った。


...


階段を上り、監獄の地下2階に出た。一同がそっと顔をのぞかせると、辺りは薄暗く、わずかな松明の明かりしかなかった。


鉄の檻にはまだ男女一人ずつが囚われていたが、看守の姿はなかった。ドイツ側は監獄の正門だけを守るつもりらしい。


「火野良……?! 死んだと思ってた」

女囚は、闇夜に輝く明けの星を仰ぐように火野良を見つめた。


「看守たちは?」火野良は声を潜めて尋ねた。


「とっくにログアウトしてる。今は人形システムが動かしてるだけ」

女囚が答えた。


「どうして捕まったんだ?」雨間刻が興味ありげに尋ねた。


「時間がない」キティは眉をひそめて火野良に告げた。


「加奈、二人を出してやれるか?」

火野良は視線を巡らせて尋ねた。


「本当にいいの?」

加奈はすぐに警戒心を強めた。イミと出会ってからというもの、見知らぬ相手をますます信用できなくなっていた。


「助けられるだけ助けるんだ」火野良はきっぱりと言った。


加奈は少しためらったが、再び熱膨張と収縮を利用して鉄格子を壊し、二人を助け出した。


「お前たち、名前は?」

火野良は突然、凶悪な顔つきになった。


「菜々子」女囚が答えた。

「アト」男囚が答えた。


「菜々子、アト、よく聞け。お前たちを信用したわけじゃない。必要なんだ。妙な真似はするな。必ず後悔することになるぞ。わかったな?」

火野良は二人を脅した。二人はうなずいた。


【システムメッセージ: プレイヤー 菜々子 パーティーに参加】

【システムメッセージ: プレイヤー アト パーティーに参加】


火野良はすぐに加奈を支え、アトの前へ連れていった。


「加奈は俺たちを助けるために火傷を負った。今は筋肉壊死の症状も出てる。早く治療してやってくれ」

火野良は心配そうに言った。


「え? これくらいの傷、わざわざ治してもらわなくてもいいよ」

加奈は、火野良が自分の傷を忘れていなかったことに驚いた。


「俺はPVP型の枢機卿で、回復量は多くない。それでもいいか?」

アトは片手用のハンマーを取り出し、真剣な顔で尋ねた。


「頼む!」

火野良は微笑み、まるで運命を託すかのようにアトの肩に手を置いた。


「菜々子、これから上に行って地上階を制圧する。そのあと、ドローンを飛ばして周囲の様子を探ってくれ」

火野良は瞬く間に、それぞれの特性に合わせて役割を割り振っていた。


一同は階段に身を伏せ、久しぶりの陽光が床を照らしているのをようやく目にした。もう、頼りなく揺らめく炎の明かりではない。正門の脇を守っているドイツのプレイヤーは2人だけだった。すぐ横には防衛塔へ上がる階段があり、さらに上からは別の守備兵たちの話し声が聞こえてきた。


「門番を気絶させて逃げよう」火野良は声を潜めて言った。


キティと松美は同時に姿を消し、門番たちを取り押さえた。火野良と雨間刻もすぐに続き、門番2人を気絶させた。


加奈はすぐに階段口の守りにつき、上階からドイツのプレイヤーが下りてくるのに備えた。


火野良が窓から外をのぞくと、プラムスの南側では火の手が天高く上がっていた。誰かが騒ぎを起こしているのは明らかだった。


だが、そのために外には大勢のドイツのプレイヤーが配置されていた。強敵を迎え撃つかのような厳戒態勢だった。火野良は、堂々と外へ飛び出すのは無理だと悟った。


「仕方ない。防衛塔を一階分攻め上がって、まず周囲の状況を確かめるぞ!」

火野良が言った。


小隊は幽霊のように2階へ忍び上がり、雑談していた3人の守備兵を気絶させた。


菜々子は最も動作音の小さい、紙の鳥の形をした偵察機を飛ばした。ドイツ側の部隊が通りを封鎖しているのがわかった。南門付近の通りを大量のモンスターが駆けているのも、ぼんやりと見えた。何かを追っているようだった。


「えっ! 火野良、見て! あの大旗は何?! 誰かがプラムスに攻め込んでる!」

菜々子が驚きの声を上げた。


「プラムスに攻め込んでる?!」

一同は仰天し、菜々子のモニターに群がって画面をのぞき込んだ。


南門の前に、白い大旗が立っていた。そこには金色の三角形が描かれ、三つの角がそれぞれ赤、青、黒に塗られていた。


「まさか?! 白装備しか使ってないぞ。初心者なのか?!」

火野良には、南門になだれ込む人々の装備がぼんやりと見えた。どれも光を放っておらず、一面くすんだ灰色だった。


菜々子は双眼鏡を取り出してのぞいた——————

「旗を持ってる人が見えた! 女のキャラで、魔法使い……喉仏がある」

菜々子は戸惑ったように眉をひそめた。


「まさか……?!」雨間刻は双眼鏡を奪い取った。


「柑々が言ってた……ノクシアか?!」

確かに、ごつい顔立ちの女プレイヤーが旗を振り、声を張り上げていた。


「決行は明日のはずじゃなかったのか!」火野良が驚いて尋ねた。


「見ろ! 初心者がもっと出てきたぞ!!!!」雨間刻は双眼鏡を構えたまま、興奮して飛び上がった。


...


「本サーバーのために! 突っ込めえ!!」

ノクシアは辺りを埋め尽くすレベル50未満の初心者たちを率いて南門になだれ込み、あちこちに火を放った。


「初心者どもめ! 低レベルではPVPができないギミックを悪用して暴れるとは! それで傷つけられることも殺されることもないと思ったか?!」

「早く銀のトレントを出せ! 一人も生きて帰すな!!!」

城門付近を守っていたドイツ側の将校が言うと、前方に銀色の樹皮を持つ背の高いトレントが数体、たちまち出現した。


銀色の樹皮を持つトレントたちは不意に光を浴び、消え去った。


「何?!」ドイツのプレイヤーたちは驚愕した。


【システムメッセージ:初心者が密集するエリアには、エリート級モンスターを配置できません。初心者保護規定に基づき、該当ユニットを削除しました】


「GM! 越権行為だぞ!!!」

将校は激怒し、空で光を放つ少女を指さして罵った。


「システムのルールに従っているだけです」GM05は眉をひそめた。


「くそっ! 大斧持ちのケンタウロスを出せ!!!」

将校は怒りをあらわにし、代わりに別のモンスターを放った。


本サーバーのGMたちも大勢、プラムスの上空に姿を現し、ドイツのプレイヤーたちがルールを破っていないか、鋭く目を光らせた。


GMたちはバランスを崩すわけにはいかない。ただ上空で、眼下の初心者たちのために黙って祈ることしかできなかった。


「派閥を越えて団結しよう、仲間たち! 俺たちはみんな本サーバーの戦士だ。力を合わせ、聖三位一体の大旗の下で共に戦い、俺たちのプラムスを取り戻そう!!」

ノクシアは声を枯らして叫んだ。栞はその傍らでノクシアを守りながら魔物に矢を射かけ、息つく暇もなかった。


本サーバーの初心者たちは命懸けでプラムスになだれ込んだが、はるかにレベルの高いモンスターにたちまち虐殺され、血が川のように流れた。それでも次々と建物に飛び込み、街の隅々にまで入り込んでは、天に届くほどの火の手を上げた。


「うおおおおおっ!!!!!!!!!!!!!!!!!」

本サーバーの初心者たちは腕を振り上げて叫んだ。本サーバーのプラムスを取り戻すか、街もろとも滅びるか、その覚悟を決めていた。


「ノ……クシア……」

巡回部隊を率いるアンドリアは、西の城壁から、誰よりも信頼する相手が血にまみれて戦う姿を目にした。


だが、初心者たちは次々と倒れ、死傷者は瞬く間に50人に達し、死体が山のように積み上がっていた。


「ばか……馬鹿者が!!!!!!!!!!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。