424 見知らぬ旗
いつもなら、プラムスは地上の楽園のように見えた。城外でどれほど血が流れても、王都では贅沢と享楽に満ちた日々が続いていた。
アンドリアはドイツのプレイヤーに指定された時刻にログインし、装備を整えてギルドの小屋で待っていた。扉の陰にある小さな木の椅子に力なく腰かけ、手にした双頭の鷲の小旗を見つめていた。
不意にレナがアンドリアの隣に現れ、その手から小旗を奪い取った。
「ふざけないで! 返して!」アンドリアは慌てて手を伸ばし、取り返そうとした。
長身のレナは片手でアンドリアを押しのけた。アンドリアが精いっぱい腕を伸ばしても、指先がレナの脇の下にかすかに触れるのがやっとだった。
レナが親指で小旗をこすると、アンドリアはたちまち表情を曇らせた。
「意味があるの?」レナはため息をつき、小旗をアンドリアに返した。
黄色い双頭の鷲の旗に包まれていたのは、白い竜の紋章が描かれた小さな布だった。アンドリアは鷲の旗をめくり、愛おしそうに竜の紋章をそっとなでた。
「何のために戦うのか……自分に言い聞かせるためよ。もう迷わないように」
アンドリアは、秋の落ち葉のような物寂しさをにじませて言った。
レナは一瞬言葉を失い、気まずそうに顔をしかめた。
「鷲の旗に包まれた竜の旗に、まだ意味があるの?」
レナはリュックから、血の手形が描かれた小旗を取り出した。
二人は黙って見つめ合った。
「羅刹教を抜けたんじゃなかったの?」アンドリアは驚いて尋ねた。
「………………」レナは恥じ入った顔で、気まずそうにアンドリアを見た。
「あははは。あなたも口では強がってても、情には弱いのね」
アンドリアは心から笑い、何日も抱えていた憂鬱を晴らした。
「ふん。あの日は偉そうにあなたに説教までしたのにね」レナは首を振って苦笑し、血の手形の旗をしまった。
「恥知らず!」アンドリアは大笑いしながら、レナを肘で軽くつついた。
二人はギルド運営中の面白い出来事を語り合い始めた。メンバーの秘密を盗み聞きした話や、物陰でこっそり逢い引きしているところを見つけた話。レナはメンバーの相談に乗り、心の悩みを解決したことまであった。二人はしばらく、心ゆくまで語り合った。
「いい日々だったね」レナはため息交じりに笑った。
「いい日々だった……」アンドリアは沈んだ声で繰り返した。
広間は再び静まり返った。
「わからない……」アンドリアは思わず口にした。
「何が?」レナは尋ねた。
「この竜の旗に、まだ意味があるのか……。銀龍の刻印のモットーは、団結と名誉。今の私たちには、団結も名誉もない」
「もしかしたら……この小旗を持ち続けているのは、ただ昔を懐かしんでいるだけなのかもしれない。人々に敬われていた銀龍の刻印は、もうない。私も……変わった。もう騎士王じゃない。ドイツの犬よ」
アンドリアはかすかに笑い、鷲の旗を竜の旗にかぶせた。
レナは何も答えず、意味ありげなまなざしをアンドリアに向けた。
「ごめんね。変な話に付き合わせちゃって」
アンドリアは戸惑った顔ですぐに謝り、鷲の旗をしまった。
レナは血の手形の旗を再び取り出し、物思いに沈みながら指先でいじっていた。
「今日はドイツのプレイヤーたちが遅いわね……おかしい。今まで一秒だって遅れたことがないのに」
アンドリアはひどく不思議に思い、立ち上がって窓の外を確かめた。
ちょうど、ドイツ側の将校が慌ただしくやってくるのが見えた。アンドリアはため息をつき、扉を開けて迎えた。
「アンドリア」不意にレナが呼びかけ、アンドリアは振り返った。
ビリッ! レナはアンドリアの目の前で血の手形の旗を引き裂き、手をはたいて赤い布切れを床に落とした。
アンドリアは呆然とレナを見つめ、どう反応すればいいのかわからなかった。
「変わって、消え去って、過去のものになってしまった。それでも、その意味は私たちの心に残ってる。胸に刻んで、自分の信念を守り続ければ、もっと美しいものに変わるわ」
レナは微笑んで言い、一礼した。
「レナ……」
アンドリアの目に、熱い涙があふれた。
「行きなさい、騎士王。自分が正しいと思う道を進んで。後悔を残さないように」
レナは盾と長槍を手に取り、アンドリアのために大扉の守りについた。
「……」アンドリアはしまっていた鷲の旗を取り出して握りしめ、将校についていった。
...
馬車はプラムスの大通りをゆっくりと進んでいた。アンドリアは、曲がり角の位置も、一つひとつの噴水までの距離も、ほとんどそらで言えるほど知り尽くしていた。
次第に物思いにふけり、昔の日々を思い返していたが、不意に感じた異様な静けさに、その回想を断ち切られた。
アンドリアは気になって顔を出し、辺りを見回した───賑やかなはずの商店街には人影がまばらで、夜ごと歌声の絶えない酒場でさえ、客のいるテーブルはほんの数卓だけだった。
楽しげな人々の姿は消え、代わりに巡回部隊がいくつも行き交っていた。
プラムスには巨大な兵営のように張り詰めた空気が漂い、至る所からドイツのプレイヤーたちの鉄靴が刻む行進の足音が響いていた。本サーバーのプレイヤーをわざと威圧しているかのようだった。
馬車はゆっくりとプラムス守備隊の兵営前に到着した。
「これが今日のお前の隊員だ」
ドイツ側の将校は、三次職の近接戦闘員20人と少数の神官をアンドリアに預けた。
「翼騎兵は? この人たちは三次職になったばかりじゃないの?」
アンドリアはためらいがちに尋ねた。
「今日は城内に残って巡回警備に当たれ。以上だ」
将校はアンドリアに敬礼し、その場を去った。
アンドリアは唇をとがらせ、足取りの軽い馬に乗って新兵隊の前へ進み、手を上げて合図した───新兵たちはロボットのように動きをそろえて敬礼し、誰一人として笑みを見せなかった。
アンドリアはドイツ側の新兵を訓練することにも、すっかり慣れていた。兵を育てる喜びだけは、失われていなかった。自分が鍛えているのが、故郷を奪った側の兵だと分かっていても。
「ルース……本当にすごい人ね」
アンドリアは思わず気持ちが沈んだ。ドイツ側の指導者たちと比べ、自分がひどく見劣りするように感じられた。
アンドリアは、目の前に並ぶ新兵たちを見渡した。翼騎兵の姿は、どこにもない。
「……プラムスの主力部隊は、どこへ行ったの?」




