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見えない魔王——歪みきった征服ゲーム  作者: 純白
【第二部】 第五十章――散りゆく薔薇
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423 散りゆく薔薇

「私を騙したのね……」寧々は血を失いすぎて、目を閉じた。


「待って!」クトゥルフは慌てて寧々をそっと抱き上げ、血で濡れた髪をかき分けた。


死の淵でもがく寧々が、再び目を開く。


「嘘をついたのね……火野良を……殺したのはあなたでしょう?」寧々は弱々しく尋ねた。


「もう喋るな! 早く飲んで!」クトゥルフはすぐに1リットル入りのファミリーサイズの万能ポーションを取り出し、寧々の口へ注いだ。


寧々は唇を固く結んで拒み、口に入った薬も吐き出した。


「飲んでくれよ!!」

クトゥルフが怒鳴ると、寧々は怯えて肩をすくめた。


「騙したのね……言っていたこと、全部嘘だった……」

寧々はかすかな息を漏らし、クトゥルフの腕の中で目を閉じた。


「生きてくれ……頼む……目の前で死なないでくれ!!」

寧々が薬を飲まないと分かると、クトゥルフは血の蔦を召喚して彼女の背に突き刺し、輸血で無理やり命をつなぎ止めた。


寧々のHPは0%、死の境目にかろうじて留まっていた。


クトゥルフは涙を流しながら、力の抜けた寧々の体を強く抱きしめた。彼女の頭を自分の肩に預け、後頭部にそっと手を添える。


「死なないで……猫に餌をやらなきゃ……死なないで。起きて、猫娘。起きてくれ……頼む」

クトゥルフは寧々の体を軽く揺すったが、反応はなかった。


「せめて……せめて私の腕の中で死なないでくれ!!!!!」

クトゥルフは初めて自分の無力さを思い知り、天に向かって悲痛な叫びを上げた。送り込む血の量を大幅に増やすと、寧々の脈がようやく落ち着き、彼女はまばたきをして目を開いた。


「自分の友達を食べたのは……遊び場を作って……敵をなぶり殺しにするためだったのね……さっきまで……私の仲間が苦しむのを、楽しんでいたじゃない……」寧々はか細い声で言った。


「ごめん……火野良のことを話せなかった。寧々さんに嫌われるのが怖かったんだ」

クトゥルフはすぐに弁明した。だが、自分のHPが急激に減り、手足が冷たくなり始めていた。


クトゥルフの熱い涙が寧々の顔に落ちる。溶岩のように胸の奥へ染み込み、寧々も痛みに耐えきれず涙を流した。


「早く薬を飲んで……治ったら、ゆっくり説明する」

クトゥルフは再び金色のポーションを取り出し、寧々の口をこじ開けた。


「爆炎……術」

寧々が手を伸ばすと、クトゥルフの手の中で薬瓶が砕けた。金色の薬も、クトゥルフの希望も、床一面にこぼれ落ちる。


クトゥルフは呆然と寧々を見つめた。失望と軽蔑に満ちた彼女の目は、どんな攻撃よりも深く彼を傷つけた。


「私のこと、好き?」寧々は残る力を振り絞り、大きく目を見開いて尋ねた。


「好きだ。ほとんど毎日、ログインするたびに、花畑で猫に餌をやっている馬鹿に会えるんじゃないかと期待していた。寧々さんが花畑から飛び出して私を驚かせることも、一緒に花畑で昼寝することも楽しみだった」

クトゥルフは早口で、心の奥にしまい込んでいた思いを寧々に一気に打ち明けた。


寧々の顔は赤くなったかと思えば青ざめた。喜びと不安が頭の中でせめぎ合う。


火野良の死を惜しんでいたクトゥルフの姿を思い出す。なんて偽善者なのだろう。


寧々の胸に、怒りが芽生えた。


「見て!」クトゥルフが袖をまくると、寧々の目に、自分の手で書いたメールアドレスが飛び込んできた。


「これは私たちの愛の証だ。あの日、私たちは――」

クトゥルフは衰弱し始めていたが、涙を浮かべたまま笑顔を見せた。


「星火連焼……」寧々は、彼の腕に書いたメールアドレスを焼き消した。


クトゥルフがアドレスを控えているかもしれないことは、寧々にも分かっていた。それでも、これは儀式だった。あのおとぎ話を、自分の手で葬るための。


「君は……そんなに私が憎いのか?」

クトゥルフは焼け焦げた自分の皮膚を呆然と見つめた。


「違う」寧々は首を横に振った。


「なら、早く傷を治してくれ。ゆっくり説明する。メールで謝ってもいい。お願いだから……私から離れないでくれ。君が私を終わりのない殺戮から救ってくれたんだ。責任を取ってくれよ! 君が必要なんだ! 寧々!」

HPが危険な水準まで下がっても、クトゥルフは歯を食いしばり、必死に訴えた。


「嘘つき……」寧々はか細い声で言った。


「嘘じゃない! 信じてくれ! もう嘘はつかないと約束する!」

寧々を引き止めるためなら、クトゥルフは何でも差し出すつもりだった。


「約束は全部、守ってくれる?」寧々は微笑んで尋ねた。


「守る! 君のためなら――」

「嘘つき」

寧々が再びクトゥルフの言葉を遮った。


「君はいったい……」

クトゥルフは苛立ちまじりに顔を上げた。寧々は目の縁まで赤くして、泣きじゃくっていた。


「嘘をついたのは、私」

寧々は小鼻をひくつかせ、唇を噛んで涙をこらえながら、クトゥルフから目をそらした。


「え?」クトゥルフは面食らった。


「私……私は、い……いや……うっ……うぅ……」

寧々は言いかけて口ごもった。ふいに鼻の奥がつんと痛み、もう感情を抑えられず、しゃくり上げた。


「何の嘘をついたんだ?」

クトゥルフは驚き、腕の中の寧々を見つめた。


「どんなに親しい相手でも殺すって……言ってたでしょ。仲間に、必ず勝つって約束したんでしょう……」寧々は弱々しく言った。


「分からない」クトゥルフは首を横に振った。分かっていることを、受け入れようとしなかった。


「約束を……守る人でいてね」

寧々は画面を開いた。


「寧々……待ってくれ。サーバーが違っても――」

クトゥルフは寧々のしようとしていることに気づいたようだった。


「さようなら……」寧々はそっと画面に触れた。


【システムメッセージ: 強制ログアウト(Y/S)

P.S.:戦闘中にログアウトすると、人形システムが操作を引き継ぎます】


Y。


寧々は顔を曇らせ、クトゥルフを見上げた。


「フール先生……助けて……」

寧々は血まみれの手を伸ばし、弱々しく助けを求めた。


人形システムは寧々のデータを参照し、クトゥルフの姿を認識した。だが――その名はフール。彼女の愛する人だった。


「フール先生……助けて……」

「フール先生……助けて……」

「フール先生……助けて……」


クトゥルフは腕の中の寧々を呆然と見つめた。愛する少女はもうここにいない。そのことは分かっていた。


「約束を……守る人でいてね……」

寧々が最後に残した言葉が頭の中で繰り返され、深く刻まれていく。


クトゥルフは寧々を抱き直し、優しく胸に引き寄せた。


「約束する……これからはフールとして、君のために戦う」

クトゥルフは寧々の背に刺さっていた血の蔦を抜いた。寧々の死まで、5秒のカウントダウンが始まった。


「フール先生……助けて……」

「愛してる」ブチッ……肉が裂ける音。

「愛してる」ゴキッ……骨が砕ける音。

「愛してる」


椅子に座ったイミは、寧々の体がクトゥルフの口の中で少しずつ光の塵になって消えていくのを、見せつけられていた……。


顔中に血と肉片をつけたクトゥルフが、ゆっくりとイミへ歩み寄った。


血に染まった顔には、涙に洗われた白い筋が二本できていた。その目からは、もう凶暴さが消えている。


その目からは、先ほどまでの凶暴さが消えていた。イミには、その穏やかさがかえって恐ろしかった。


「いや……いやあああああっ!!!!!!」

手足を縛られたイミは絶叫し、恐怖のあまり失禁した。


カチャリ……。

クトゥルフはイミの手錠を外し、久しぶりに紫色の転移門を開いた。


「行け。お前の勝ちだ」クトゥルフは言った。


イミは怖くて動けず、夢を見ているのかと思った。


クトゥルフが一蹴りで椅子を砕いた。イミはべちゃりと自分の尿の上に尻もちをつき、ようやく我に返る。転移門を駆け抜け、クトゥルフのダンジョンから脱出した本サーバー初のプレイヤーとなった。


「一緒に戦おう……寧々」

クトゥルフは微笑み、ゆっくりと転移門へ入っていった。

皆さんが寧々の立場だったら、クトゥルフを許せますか?

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