422 思いがけない再会
次の部屋も白一色だったが、先ほどの部屋よりは狭かった。
3番の女プレイヤーは、まだ意識を失っていた。そばでは心優しい女プレイヤーが手当てを続けていた。
クトゥルフは部屋の中央に椅子を三脚並べ、何かを考えながら背もたれをなでた。
「最近……弱い少女と知り合った。彼女は仲間のために、ムー大陸で最も危険な場所へ向かった。私には理解できない……弱者なら弱者らしく、命乞いをすればいい。だが、彼女の目には強い意志が宿っていた。火野良にも匹敵するほどの。なぜ弱者に、あれほどの強さがある? 私は彼女を行かせたくなかった。だが、忠告も聞かず、ひたすら自分の考えを押し通した。なぜ、あんなに愚かなのだ?」
クトゥルフは独り言のようにつぶやいた。
観客がすぐにひそひそと話し始めた。
「友達がいるのか!?」
「まさか、クトゥルフに友達が!?」
「考え続けて、ようやく答えが分かった。彼女にはまだ希望がある。だから愚かなことをする。仲間を助けられると思い、自分も逃げられると思い、逃げた先には最後の勝利が待っていると思っている。そんなことが可能か? あり得ない……すべて無駄だ。力がないなら、力ある者に従えばいい。仲間の死を見届けるのは、弱さへの罰だ。その意志を継いで生き延び、強者になる。それが正しい道だ。彼女はただ……無邪気なのだ。なんと悲しい話だろう。私には面白さが分からない」
「だから私はルースを見習い、相手を倒す方法を学んだ。体を倒すのではなく、心を打ち砕く方法を。私は人を殺すことに何も感じなくなり、血の海で自分を見失っていた。彼女はそんな私を引き戻し、終わりのない殺戮から救ってくれた……人を殺しても、何の意味もない……」
語り終えたクトゥルフは、大男を見据えた。
「最後のゲームは……椅子取りゲームだ。音楽が止まったとき、座れなかった者は死ぬ。最後に生き残った一人は見逃す。もう私とは戦わせない。それがお前たちの希望であり、絶望でもある。生き残るためなら何でもする、その姿を見せてくれ!」
クトゥルフは狂ったように笑った。
クトゥルフはバイオリンをあごで挟んだ。
「さあ、授業を始めよう」クトゥルフは演奏を始めた。
...
【クトゥルフは新しい殺し方を見つけたんですね! 参加者同士を殺し合わせるんです!】実況者はクトゥルフの話を手短にまとめた。
会場が沸き立った。観客たちは姿勢を正し、真剣に見守り始める。
「何が……」3番の女プレイヤーは、クトゥルフの物悲しいバイオリンの音を聞きながら目を覚ました。
イミはすでに椅子へ駆け寄り、どっかりと腰を下ろしていた。
椅子からたちまち鉄の手枷と足枷が現れ、イミの両手とすねを固定した。地震が起きても振り落とされそうにない。
【ははっ! あのイミ、なかなか薄情ですね!】実況者が笑った。
クトゥルフは目を閉じ、力を込めて弾き続ける。静かに続く旋律には、どこか物悲しさがにじんでいた。
「今は椅子取りゲームをしてるの。音楽が止まったとき、座れなかった人は死ぬ……。最後まで生き残った一人だけは、見逃してもらえるんだって」
心優しい女プレイヤーは3番の女プレイヤーの上体を支え、残る二脚の椅子を見ながら説明した。
「イミ……力を合わせて生き残るんじゃなかったの!? みんなであいつを倒すべきでしょ!」3番の女プレイヤーは納得できずに言った。
「正気なの!? あいつは火野良を一対一で殺したのよ! 私たちが火野良に敵うと思う!? 早く座りなさい、ぐずぐず言わないで!」
イミはそう言いながら、荒海で救命いかだにしがみつくように椅子を握りしめた。
「イミさんの言うとおりだ。二人とも早く座ってくれ」大男は眉をひそめて言った。
「待って、話が矛盾してるでしょ!? 最後に生き残れるのは一人だけなのに!」3番の女プレイヤーは驚いて言い返した。
「私の職業じゃ、そもそも勝てない……」狙撃手である心優しい女プレイヤーには、勝ち目がないと分かっていた。
「矛盾していない……この先は、お前たちの戦いになるからだ」と大男は言った。
【システムメッセージ: パーティーメンバー ロリコン パーティーから離脱】
大男は駆け寄り、心優しい女プレイヤーの腰を両腕で抱えて椅子へ向かった。
「待って! 何するの!?」彼女は大男の黒衣を叩いた。
大男が彼女を椅子に座らせると、すぐに拘束具が現れて彼女を固定した。大男は静かに笑い、椅子から離れた。
「そんなことしなくても……」3番の女プレイヤーはためらいながら、最後の一脚を見て焦りを募らせた。
「もう二度と、仲間を殺したくない。だから今度は、俺が負ける。生き残ったら……クトゥルフに、俺の分まで一太刀浴びせてくれ」
大男は笑って、何の変哲もない大剣を抜いた。
「あなたに勝ち目なんてない……私も手伝うよ……」3番の女プレイヤーは不安を抱えながらも、大男とともにクトゥルフと戦おうとした。
「ははっ! お前が加わっても勝ち目はないさ。時間を無駄にするな。俺も火野良の仇を討ちたい。せめて……一太刀は浴びせてやる」
大男は傍らでバイオリンを弾くクトゥルフを見つめ、さまざまな思いを胸に抱いた。
クトゥルフが弓を引き、最後の一音を長く響かせた。3番の女プレイヤーは、まだ立ったままだった。
「迷うな!」大男は片手で3番の女プレイヤーを最後の椅子へ押しやった。拘束具が彼女を固定した直後、音楽が途切れた。
立っているのは大男だけだった。彼は剣をクトゥルフに向けた。
「お前の友達は愚かなんかじゃない。勇敢なんだ! 仲間のためなら命を懸けられる。その幸せを、ほとんど無敵のお前は決して手に入れられない! お前は俺たちが羨ましいだけだ!」
「クトゥルフが落ち込んでるのか?」
「まさか。無敵の力があれば、好き放題できるだろ!」
大男の言葉に考えさせられた観客たちが、互いにささやき合った。
「ふん、図星だろ? お前はただ――」
大男が言いかけた、そのとき――。
ブシュッ!
三人の女プレイヤーは一斉に顔を背け、椅子の上で脚を固く閉じて震えた。
「体が……動かない?」
大男は驚き、視線を下げた。
クトゥルフが下から大男の顎を支えている……大男の頭は、すでに胴から引き抜かれていた。
強い眠気が押し寄せ、まぶたが鉛のように重くなる。大男はゆっくりと目を閉じた。
「悪魔の触手」
ザクッ、ザクッ、ザクッ、ザクッ!
下から頭へ温かいものが流れ込み、大男の意識が再びはっきりした。クトゥルフの背から伸びた何本もの血の触手が、頭に突き刺さって血を送り込んでいた。
「もう少し、私につき合ってくれ……」クトゥルフは大男の髪をつかみ、頭を自分の口元まで持ち上げてささやいた。
「……」大男のHPは0と1の間を行き来していた。すでに意識はない。
椅子の拘束具が外れ、三人は自由を取り戻した。
一脚の椅子が粉々に砕け、残ったのは二脚になった。
クトゥルフは大男の頭を触手に支えさせ、再びバイオリンを構えた。物悲しい旋律とともに、次の回が始まった。
イミは大男に目もくれず、すかさず一脚に座った。
3番の女プレイヤーは我に返った。怒りがこみ上げたが、今はイミに構っている暇はない。
「あなたまで死なせるわけにはいかない………いっそ私たちで――」3番の女プレイヤーは沈んだ声で言った。
【システムメッセージ: パーティーメンバー 台詞のある脇役 パーティーから離脱】
「何をする気!?」3番の女プレイヤーが驚いた、その瞬間――。
パン!
心優しい女プレイヤーは涙をこらえ、銃を構えて大男の頭を撃ち砕いた。
大男はクトゥルフの前で、ゆっくりと光の塵になって消えた……。
【蛮族は……残り3人】実況者の声が震えた。
クトゥルフがゆっくりと立ち上がる。背中の触手がタコの足のようにうねった。
「さあ、私たちも――」
3番の女プレイヤーはクトゥルフが襲ってくると悟り、武器を抜こうとした。
ヒュッ!
血が飛び散った。クトゥルフが放った投げ槍が心優しい女プレイヤーの眉間を貫く。彼女はその場に倒れて息絶え、星のようにきらめく光の塵になった。
「残り2人……」
3番の女プレイヤーは虚ろな目で後ずさりし、友人の光の塵を避けようとして、偶然椅子に座った。その回はそこで終わった。
クトゥルフは再びバイオリンを手に取り、周囲のことなど耳に入らない様子で演奏に没頭した。
新たな回が始まる。部屋に残る椅子は、あと一脚だけだった。
【システムメッセージ: パーティーメンバー イミ パーティーから離脱】
「ラロの栄光!」イミの神術の砲撃が無防備な3番の女プレイヤーに命中した。イミはそのまま椅子へ駆け出す。
「魔蜘蛛の糸!」3番の女プレイヤーは間一髪で蜘蛛の糸を召喚し、イミの尻にくっつけて引き戻した。
「浄化術!」イミはすぐに神杖で蜘蛛の糸を焼き払い、再び椅子へ向かった。
3番の女プレイヤーは数十メートル先まで吹き飛ばされている。イミより先に椅子へ着くのは不可能だった。それでも、イミを勝たせるわけにはいかない!
「来て、烈炎のカエル! 獄炎の吐瀉物!」
彼女が召喚した赤いカエルは、悪臭を放つ火球を吐いた。
だが、火球が狙ったのはイミではない……椅子だった!
「人の命なんてどうでもいいんでしょ……だったら、私たちと一緒に来なさい!」3番の女プレイヤーは怒鳴った。
「聖なる庇護!」
ボッ!!! イミは最後の一秒で青い盾を出して火球を防ぎ、椅子へ飛び乗った。
ガチャガチャガチャ――椅子の拘束具が閉まり、イミの勝利が決まった。
「嘘……」3番の女プレイヤーは膝をついた。
「あんたたちが……見苦しい芝居に夢中で、本気で生き残ろうとしなかったせいよ」イミはつらそうに顔を背けた。
クトゥルフが演奏を止め、3番の女プレイヤーを見つめた。
その黒い目を見て、彼女は自分の死を悟った。ただ、大男のようにもてあそばれるのが怖かった。
3番の女プレイヤーは魔杖を捨て、小刀を抜いた。
「ロリコン……あいつに一太刀浴びせるって願い、叶えられなかったね……私が代わりにやるよ」
クトゥルフは彼女が小刀を抜くのを見て、自分も小刀を取り出した。
「はあっ!!」3番の女プレイヤーは足取りも乱れたままクトゥルフへ走り、小刀を突き出した。
クトゥルフは気だるそうに身をかわした。
彼女は小刀を握る手さえおぼつかない。それでも怒鳴りながら横薙ぎに振るったが、クトゥルフは後ろへ下がって避けた。
「はあっ!」
「ふん」
「うああっ!」
「はぁ……はぁ……はぁ……」
3番の女プレイヤーは檻の中の犬のようにクトゥルフにもてあそばれ、その道化師の衣装にすら触れられなかった。
スタミナはたちまち尽きた。それでも彼女の目は、最後の瞬間まで戦い、決して諦めないとクトゥルフに告げていた。
クトゥルフの胸に、怒りが静かに燃え上がった。
「なぜこのサーバーの者たちは……揃いも揃って、こんなに愚かなんだ!」
クトゥルフは歯を食いしばり、小刀を突き出した――。
「うわっ!」3番の女プレイヤーの腕に傷が走り、黒衣も裂けた。
彼女は傷口を押さえ、よろめく体を立て直して、クトゥルフをきっと睨んだ。
「なぜ……なぜ私の言うことを聞かない……なぜ諦めない……」
クトゥルフは魂の底から怒りをぶつけた。
身をひねり、ゲラゲラ笑う大槌を投げつける。
グシャッ!
3番の女プレイヤーは右脇腹を大槌に砕かれ、その場に崩れ落ちた。
「なんて弱く……愚かな人間だ……」
クトゥルフはしゃがんで小刀を掲げ、彼女にとどめを刺そうとした。そのとき、彼女の腕の傷口のそばに、見覚えのある文字が見えた。自分の筆跡だった。
突然――体が動かなくなった!
「この一刺しは、ロリコンの分!」
ザクッ!
クトゥルフの胸に痛みが走った。3番の女プレイヤーは気を失ったふりをしていたのだ。瀕死の体を起こし、クトゥルフの胸に小刀を突き立てていた。
彼女自身、刺せるとは思っていなかった。
だがクトゥルフは反応しない。死体のように傍らにしゃがみ、彼女を見つめていた。
【おかしいですね、クトゥルフは麻痺したんでしょうか!? なぜ動かないんですか!?】実況者が驚き、ドイツサーバーのプレイヤーたちは立ち上がって身を乗り出した。
「この一刺しは……火野良の分!」3番の女プレイヤーはもう一度刺した。クトゥルフは動かなかった。
「ハゲグの分」
「プラムスの……分」
「そ、それから……」
ザクッ、ザクッ、ザクッ、ザクッ……。
3番の女プレイヤーは必死に刺し続けた。そのたびに自分の傷も急速に悪化し、血を失った体に強い眠気が押し寄せる。
クトゥルフは何も言わず、小刀を受け続けた。道化師の衣装が深紅に染まっても、反応しなかった。彼女のフードを後ろへ払い、顔を確かめた。
「寧々……」クトゥルフは全身を震わせて言った。
意識の朦朧とした寧々は、聞き覚えのある声に懸命に目を開いた。
クトゥルフが笑顔の仮面を外し、素顔を見せた。
【うわあ!!! クトゥルフが仮面を外しました!!!】
数百人の観客が一斉に身を乗り出し、水族館の客のようにガラスへ張りついた。
二人は呆然と見つめ合った。心臓を熱い油に放り込まれたような痛みが走るのに、頭が追いつかない。
「フール……フール先生?」寧々は目を見開き、信じられない様子で尋ねた。
クトゥルフは牙を引っ込めた。声も顔つきも、わずかに変わる。
「寧々さん……」




