415 我らのサーバーのために!
ゴシゴシゴシゴシゴシ。
何かを力任せにこする音が響いていた。
「魂素はもう動力源へ投入したのに、どうしてまだ失敗するんだ……」
リオは五か月近く研究に没頭していたが、いまだ何の進展も得られていなかった。
ゴシゴシゴシゴシゴシ。
「はあ……ギルドの財産をほとんど注ぎ込んだのに、全部無駄だったのか……。ちっ! ロシアサーバーへ入る前から、ずっと隠れて研究してきたんだぞ」
リオは落胆して椅子に崩れ落ち、石のように凝り固まった肩を揉んだ。
ゴシゴシゴシゴシゴシ、ゴシゴシゴシ、ゴシゴシゴシゴシゴシ。
「魂素の代わりに、プレイヤーの光塵を使えばいけるんじゃないか!? そうだ、そうだ! 魂素は他サーバーでプレイヤーを倒したときに手に入る素材だ。本サーバーなら光塵に相当する。なら――待てよ、光塵は保存できない……。使えるのはクエスト報酬の経験値カードだけだ。でも、手元の素材で試せるのはあと一回だけ。次も失敗したら、すべて終わりだ」
リオはひらめいた直後、自分でその案を否定し、力なく背もたれへ沈み込んだ。
ゴシゴシゴシゴシゴシ。
ゴシゴシゴシゴシゴシゴシ。
「パシュス!!」リオはとうとう堪忍袋の緒が切れ、机を叩いて怒鳴った。
「静かにしろ!」パシュスは鉄扉を開け、顔だけ覗かせてリオを叱った。
「お前の彼女、うるさすぎるんだよ! 一日中ずっとゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシ磨きやがって、どうかしてるのか!? あの音のせいで集中できないんだ!」
リオはニフェトを指さして怒鳴った。
加奈たちを待つ不安を紛らわせるように、ニフェトは使用人用の作業着に着替え、ひたすらリオの小屋を掃除していた。
「悪い……実はニフェトはとても――」
パシュスは愛想笑いを浮かべ、説明しようとした。
バタン!
「……」
二人はリオに小屋から追い出された。
「はあ……」
ニフェトは落ち込んだ様子で雑巾を置き、膝を抱えて顎をのせ、ぼんやりと座り込んだ。
「どうした?」パシュスは隣に座り、ニフェトをマントで包みながら優しく尋ねた。
「加奈と寧々、それに松美が出ていってから、もう六時間……まだ誰からも連絡がないの。何かあったのかな?」
ニフェトは不安そうに尋ねた。
パシュスは穏やかに微笑み、ニフェトを強く抱き寄せて肩を優しく揉んだ。
「返事は?」ニフェトは眉をひそめた。
「君が俺の分まで心配してくれたから、俺は君の分まで力を抜いているんだ」
パシュスは笑った。
「変なの」
ニフェトには意味が分からなかったが、胸の奥に幸せがじんわり広がり、自分の騎士に寄り添って休んだ。
二人は小屋の外から、目の前に連なる緑の山々を眺めていた。鳥のさえずりに耳を傾け、花の香りを吸い込んでいると、ふと、こんな状況も案外悪くないように思えてきた。
「もしかしたら、ドイツ人プレイヤーが撤退するまで隠れていられるかもね」
ニフェトは考え込みながら、細い指でパシュスの肩当てに結ばれた革紐を弄んだ。
「はあ……俺たちは弱すぎて、あいつらには勝てない。もし選べるなら、新世界でもう一度あいつらと出会い、今度こそ対等な立場で打ち負かしたい」
パシュスはため息をついた。
「私は努力する。ドイツ人プレイヤーに侵略されたことを、決して忘れない。六口弥生を失望させたりもしない」
ニフェトは表情を引き締めた。
「もう六口弥生のことは忘れろ、ニフェト。君は十分に頑張った。ギルドも落ち着きを取り戻したんだ。少しは自分を休ませてやれ」
パシュスは、ニフェトが自分を追い詰めて壊れてしまうのではないかと心配していた。
「六口……あの人の分までやり遂げなければ、自分の過ちを償えない」
ニフェトは眉をきつく寄せ、パシュスの腕を強くつかんだ。
パシュスは突然ニフェトの顎を持ち上げ、美しい水色の髪をかき分けると、深く口づけた。
ニフェトはうっとりと目を閉じ、甘い吐息を漏らした。
「六口の話をするたびに、こうして私の口を塞ぐのはどうして?」
ニフェトは顔を真っ赤にして尋ねた。
「嫌だった?」パシュスが人差し指でニフェトの小さな鼻先を軽くこすると、彼女は恥ずかしそうに身を引いた。
ニフェトがいつもの可愛らしい表情を取り戻したのを見て、パシュスは嬉しさを抑えられなかった。
じれったくなったニフェトはパシュスの手をつかみ、その目をまっすぐ見つめた。
「どうして?」
「それは君が自分で作り出した心の影にすぎない。六口弥生がいてもいなくても、俺たちがドイツ人プレイヤーに勝てなかった事実は変わらない。君は彼女を言い訳にして、自分を罰しているだけだ」
パシュスはため息をつき、目の前に広がる雄大な景色を眺めながら微笑んだ。
ニフェトはその場で固まり、分かったような、まだ分からないような顔でパシュスの言葉を噛みしめた。
「もう自分を追い詰めるな。俺は……君に真子と同じ道を辿ってほしくない」
パシュスは悲しげに言った。
ニフェトはパシュスの頬へそっと口づけし、そのまま甘えるように顔を寄せた。
「今度はどうしたんだ?」パシュスは呆れたように尋ねた。
「分からない」
ニフェトは小鳥のようにパシュスへ身を寄せて目を閉じた。その口元には、幸せがこぼれそうな甘い笑みが浮かんでいた。
「何だ!?」
パシュスは突然ニフェトを押しのけ、盾を拾って立ち上がった。
セラン、桐司、萌僧の三人が、ほぼ同時に森から洞窟へ駆け戻ってきた。ニフェトも表情を引き締め、神杖を抜いて身構えた。
「黒環旗……狼旗……」
セランは息を切らしながら言った。
「何だそれは!?」パシュスは焦って問い返した。
「やつらが来た……」
萌僧も顔面蒼白で、まるで獣に追われてきたかのようだった。
「パーカーのギルドと狼隊、総勢八十人の連合部隊がこちらへ攻め込んでくる」
桐司は速竜に跨ったまま告げた。
パシュスとニフェトは、その場に凍りついた。
…
「ドイツ人プレイヤーが攻めてきた!!!!!!」
知らせは瞬く間に秘密地下道の隅々まで広がり、Kanatheonの内部はたちまち騒然となった。
生き残った兵たちは小屋の外の空き地へ駆け出した。疑念と不安に満ちた数十の視線が、一斉にニフェトへ向けられた。
パシュスは黙ってニフェトに頷いた。
「みんなから、何度も聞かれたことがある。どうして私たちはログアウトして身を守らないのか、と。
できる。逃げようと思えば逃げられる。少なくとも大半の者は、数か月間身を隠せる。
でも、ハゲグは逃げられない。だから私たちはハゲグを見捨てた。
でも、初心者たちは逃げられない。だから私たちは彼らを見捨てた。
ソフィアも逃げられない……。教皇としての務めを果たし、サーバーの祝福を維持するため、今も毎日ログインし続けている。この瞬間も、私たちの洞窟で黙って祈っている。
だから、一度だけここで踏みとどまろう。たとえそれが最後になったとしても! 仲間たちよ! Kanatheonのために、隣にいる仲間のために、今度こそ一緒に守り抜こう!!」
ニフェトは声の限り叫んだ。
ドンッ!
Kanatheonの大旗が再び洞窟の入口に掲げられた。この小高い丘も、この大地も自分たちの領土だと世界へ宣言する――ここは、彼らのサーバーなのだ!
もはや一方的な攻防戦でも、逃走戦でも、追撃戦でもない。今度こそ、正面からぶつかる決戦だ。
風にはためくギルドの大旗は、ドイツサーバーへ正式に叩きつけた宣戦布告そのものだった!
一本、十本、そして数十本もの黒環旗が森の中に姿を現し、その後ろには何本もの狼旗が続いた。その陣容は圧倒的で、その兵力はKanatheonのほぼ二倍に達していた。
ニフェトの背後に並ぶメンバーたちは戦いを恐れてはいなかったが、戦力差は痛いほど分かっていた。
古志がニフェトにうなずいた。続いて、カミコが黒衣をまとった。
「私たちは弱い……」
ニフェトは神杖を握り締め、これまで味わった屈辱を怒りへと変えた。
カミコは突然、精密に調整されたレンズを十数枚召喚し、ニフェトの背中へ十数発の砲撃を叩き込んだ!
【システムメッセージ: フレンド ニフェト HP残り20%】
パシュスはドイツ人プレイヤーの奇襲に備え、すぐさまニフェトの前に立った。
「それでも私たちは……決して降伏しない……」
ニフェトは口元の血を拭い、神杖で体を支えた。
ニフェトの足元に幾重もの金色の魔法陣が浮かび、強烈な光が弾けた――
ドンッ!
影の旅団の大旗が現れ、Kanatheonの大旗の隣に突き立った――白が、生き残った兵を全員率いて転移してきたのだ。
「ここが……最後の舞台になるのか?」
白は眉をひそめ、前方のドイツ人プレイヤーを見据えた。
「これが……私たちに残された最後の誇りよ!」
ニフェトが神杖を地面へ突き立てると、全身から聖なる光が噴き上がり、周囲の仲間たちを照らした。
【システムメッセージ: 祝福 神威—物理攻撃+15%】
【システムメッセージ: 祝福 聖母の加護—魔法防御+25%】
【システムメッセージ: 祝福 魔力増幅—魔法攻撃+30%】
【システムメッセージ: 祝福 活血術—移動速度+9%】
【システムメッセージ: 祝福 鋼鉄の皮膚—30秒ごとに物理攻撃を一度無効化】
「よし……その覚悟に応えよう!」白は腕を振り上げて吠えた。
「我らのサーバーのために!!」
二つのギルドのメンバーは二本の大旗の下で一斉に雄叫びを上げた。もはやギルドの垣根もなく、一つの軍勢となって陣を組んだ!
…
一方、ドイツ陣営では――
「パーカー様、ご報告します。影の旅団も姿を現しました」
見張りが告げた。
「よし。これで、わざわざ別々に潰す手間が省けた!」
パーカーは嘲るように笑い、その身には不穏な黒いオーラがまとわりついていた。




