413 最も致命的な優しさ
三人の看守が雨間刻の鉄格子を開け、鋼の鎖を吊り鉤から外した――
雨間刻は突然、看守の足を踏み潰して体当たりで突き飛ばし、鉄格子の扉から逃げようとした。だが、すぐにほかの看守たちに取り押さえられた。
頭から黒い布を被せられて連行され、いくつもの角を曲がった。やがて布越しに陽光を感じ、かすかに人々の声も聞こえてきた。地上の建物へ戻ったのだと確信し、雨間刻は次の隙を狙って逃げようと身構えた。
黒い布が引き剥がされ、兜も一緒に脱がされた。
雨間刻の心臓が止まりそうになった――目を腫らした柑々が、目の前に座っていた。
ドイツ人プレイヤーたちは柑々へ敬礼し、許可を得ると退室した。その様子から、柑々がすでにドイツ人プレイヤーの中で無視できない地位にいることが分かった。
抵抗も、最後の悪あがきも、雨間刻の頭から一瞬で消え去った。
雨間刻は壊れかけた鎧と、体の前で鎖につながれた両手を見つめた。
柑々は影の旅団を離れてから出世街道を駆け上がった。それに比べ、自分は物乞い同然だ。雨間刻は寂しげにうつむき、愛する相手の顔をまともに見られなかった。
柑々の目に映る雨間刻もまた、端整だった顔がやつれ、かつての精悍さを失っていた。
大広間は、扉の外にいるドイツ人プレイヤーの咳まで聞こえるほど静まり返っていた。
窓から差し込む朝の光が机の足元を照らしている。雨間刻は、空中を漂う埃が一粒、また一粒と優雅に床へ降りていくのを眺めた……。
だが、大広間の時は凍りついたかのように、何一つ動かなかった。
雨間刻が寂しげに顔を上げると、柑々は静かにこちらを見つめていた。二筋の涙が目尻から顎まで伝い、床へ落ちた。
雨間刻はたちまち胸を締めつけられ、穴があれば入りたいほど恥じた。
ガチャ――ドイツ人プレイヤーが扉を開けて入ってきた。
「柑々元首、あと三分です」看守が告げた。
「ルース様から許可されたのは、一対一での面会です。時間までは指定されていません」柑々は平然と言い切った。
「ですが……それは……」ドイツ人プレイヤーは困った顔をした。
「私の名で手配してください。心配はいりません」柑々はきっぱりとうなずいた。
「かしこまりました、柑々元首」ドイツ人プレイヤーは部屋を出ていった。
短い中断が終わり、二人は再び重い沈黙に包まれた。
「なぜプラムスへ戻ってきたの?」柑々がようやく口を開いた。
「火野良を助けるためだ……」雨間刻は柑々と目を合わせないまま答えた。
「なぜ私に言わなかったの?」
「巻き込みたくなかった」
「正しい判断だったみたいね……」柑々は冷たく笑った。
「ああ。俺みたいな馬鹿がそばにいれば、いつかお前まで死なせる」雨間刻は顔を背け、吐き捨てた。
「どういう意味!?」柑々は不快そうに聞き返した。
「ドイツ人プレイヤーの中で、ずいぶん羽振りがいいじゃないか。今じゃルースに次ぐ地位だ。何万人もの人間が、お前の命令一つで動く。なのに俺は、まだあの豚小屋でパンをかじっている。お前は大きなベッドで眠り、七面鳥を食べているのにな。誰も必要ないと言ったのも当然だ。お前は一人でいたほうが、ずっとうまく生きていけるんだから!」
しかし不思議なことに、柑々は何も言い返さなかった。
雨間刻は無関心を装いながら、何気ないふりをして柑々を盗み見た。
柑々は肩を縮め、うつむいてすすり泣いていた。必死に息を止め、唇を強く噛み締める。泣き声を漏らすくらいなら、そのまま窒息してしまいたいとでもいうように。大粒の涙がチャイナドレスの胸元へ落ち、布地の上で弾けた。青白い朝の光に照らされた体、いっそう細く、今にも折れてしまいそうに見えた。
雨間刻は胸を切り裂かれるような痛みを覚え、激しく後悔した。
「ごめん……惨めな自分を認めたくなくて、お前に八つ当たりした」
雨間刻の言葉を聞くと、柑々はますます泣き崩れた。両手で顔を覆い、体を絶え間なく震わせた。
「柑々……」雨間刻は鎖につながれた両手を机へ置き、軽く叩いた。
鉄鎖の音を聞いた柑々が顔を上げ、雨間刻の拘束された手首をじっと見つめた。ようやく二人の視線が重なる。
柑々の両目は、黒い靄をまとった紅玉のようだった。
「死なないで!! お願いだから!!」
柑々は突然、机へ身を乗り出し、雨間刻の首に抱きついて声を上げて泣いた。
懐かしい香りと温かな体温――柑々が再び雨間刻の胸へ飛び込んできた。
雨間刻も堪えきれず、柑々を強く抱き締めようとした。だが、両手首を鎖でつながれているため、愛する相手を思うように抱き返すことができなかった。
「ごめん……俺は全力でお前を引き止めるべきだった……」
「怖い……ここは怖すぎるよ!!」
柑々の泣き声はますます悲痛になり、扉の外にいたドイツ人プレイヤーが思わず鉄扉の覗き窓を開けた。
雨間刻は足で机を押し退け、柑々を両腕の輪の中へ包み込んだ。そしてようやく――全身の力を振り絞り、愛する相手を強く抱き締めた。もう二度と、その腕の中から抜け落ちてしまわないように。
「怖がるな……」
二人が抱き合っているだけだと確認すると、看守は気まずそうに覗き窓を閉じた。
二人の髪は、運命を結ぶ赤い糸のように絡み合い、熱を帯びた頬の間でさらさらと音を立てた。
雨間刻の温かく大きな手が、柑々の背中をゆっくりと叩いた。
柑々は突然、雨間刻の首に腕を回し、つま先立ちになって唇を重ねた。
雨間刻の頭は真っ白になった。これは夢なのか?
「どうして……俺はこんなに鈍かったんだ!?」
雨間刻はさらに強く唇を重ね、これまで胸に溜め込んできた柑々への想いを一気に解き放った。
雨間刻は柑々を強く抱き寄せ、さらに深く唇を重ねた。二人の唇は離れることなく、互いの顎に力が入らなくなるまで口づけを続けた。
二人は顔を見合わせて微笑み、額を重ねながら互いの存在を確かめた。
「私を一人にしないで……もう、あなたしか残っていないの」
柑々は涙に濡れた目を向け、鼻まで赤くしながら訴えた。
「しない。約束する、絶対に死なない。でも、その前にメールアドレスを交換しないか? そろそろ教えてくれてもいいだろ?」
雨間刻が冗談めかして言うと、柑々は泣きながら笑い、二人は再び唇を重ねた。
別れと再会、生と死を繰り返した二人は、ようやく互いの孤独へ手を伸ばした。
「それで、あなたたちは火野良を助けようとしていたの?」
柑々と雨間刻は再び机を挟んで座り直し、真剣に話し始めた。
「ああ……だが、失敗した」雨間刻は沈んだ声で答えた。
「どんな刑になるか、看守から聞いている?」柑々は不安に駆られて尋ねた。
「いや。和也大佐も、まだ決まっていないと言っただけだ。ただ、Kanatheonのメンバーは間違いなく処刑される」
雨間刻はため息をついた。
「私にできることはある?」柑々は雨間刻の耳元へ顔を寄せ、小声で尋ねた。
雨間刻は目を瞬かせた。
柑々に自分たちの脱出を手伝わせるのか? 違う……雨間刻は柑々を救い出すつもりだった!
「信用できる人で、俺たちを乗せて逃げられて、そのうえ看守にも勝てる奴はいないか?」雨間刻が尋ねると、柑々はすぐに考え込んだ。
「いる!」柑々は顔を輝かせ、机の上に水で「ノクス」と書いた。
「ノクスもいるのか……?」雨間刻は声を潜めた。
「よし。準備が整ったら俺に知らせてくれ。ただし――火野良も救い出すことが条件だ。もう時間がない。早く戻れ。そうしないと、ドイツ人プレイヤーに疑われる」
雨間刻が告げると、柑々は素直に頷き、背を向けて立ち去った。
雨間刻は柑々の後ろ姿を強く見つめ、自分自身へ誓った。
「絶対に……お前を救い出す!」
別れと再会、生と死を繰り返した二人は、ようやく互いの孤独へ手を伸ばした。




