408 決死の潜入
雨間刻たち六人は、捕らわれた火野良を救うため、プラムスへ向かった。ドイツ人プレイヤーの換防に生じる、わずかな隙――決死の潜入作戦が始まる!
とある田舎道――
ぼろぼろの服をまとい、ほとんど裸同然になった白髪の中年男が、道端に落ちていた一枚の紙を拾い上げた。そこに載っていた写真には、原形を留めない肉塊しか写っていなかった。
【最強の戦神――火野良の末路】
筋骨隆々とした男は、何も言わなかった。
「ん?」地上にいた見慣れないプレイヤーに気づいたドイツ人プレイヤーの翼騎兵が、男のそばへ舞い降りた。
「そこのプレイヤー、両手を上げろ。キャラクター情報を確認する」
男はゆっくり振り返った。目はうつろで、無精ひげに覆われた顔には深い苦労の跡が刻まれていた。
男はゆっくりとドイツ人プレイヤーへ歩み寄った。
「止まれ、プレイヤー!」翼騎兵は怒鳴ったが、男は無視して歩き続けた。
翼騎兵はすぐさま仲間へ密書を送り、三羽の小さな白い鳥が空へ飛び立った。
男が小鳥を目で追うと、翼騎兵はそれ以上近づくなと命じた。
バンッ!
巨大な黒い腕が男の背中から飛び出し、ドイツ人プレイヤーを鷲掴みにして地面へ押しつけた。
黒い腕は異常なほど力が強く、ドイツ人プレイヤーは息さえできなかった。
男はゆっくりと翼騎兵の前まで歩いた。
男は紙とドイツ人プレイヤーを何度も交互に見比べた。それを何度か繰り返したあと、男はドイツ人プレイヤーの頭を一踏みで潰した。
そのとき、一頭の石竜が十人のドイツ人プレイヤーからなる守備隊を乗せて駆けつけた。
四次職の仲間が男の足元で光の塵へ変わるのを目にした守備隊は怒りを爆発させ、武器を抜いてその場で処刑しようとした。
男は紙からそっと手を離し、ゆっくり顔を上げてドイツ人プレイヤーたちを見た。
守備隊は息を呑み、一斉に一歩後ずさった――男の両目に……クトゥルフの影を見たのだ。
「火野良は……こうして死んだのか?」西城勇はかすかな声でつぶやいた。
ボコッ、ボコッ、ボコッ、ボコッ、ボコッ、ボコッ、ボコッ、ボコッ、ボコッ。
先ほどの一本に続き、西城勇の背中からさらに八本の巨大な黒い腕が生えた。
...
プラムスにある小さなあばら家――
そこは銀龍の刻印に残された、最後の隠れ家だった。二階建ての小さな建物に、五十人以上が身を寄せていた。
シモンはKanatheonに殺され、ノクシアは戻ることを拒んでいる。そのため由里が自らギルドメンバーを率いて狩りに出て、できる限りドイツ人プレイヤーから食糧を受け取らず、最後の誇りを守っていた。
かつての貴族たちは、今や乞食同然にまで落ちぶれていた。
「ごめんなさい……レナ」アンドリアは恥じ入るように謝った。
「気にしないでください。昔も西城勇様の身の回りの世話をしていましたから」レナは苦笑した。
レナは紅薔薇の重鎧を身につけ、アンドリアのために入口を守りながら、イージが密かに作った爆弾にも目を光らせていた。
「もうすぐ三か月になるのに……今でも西城勇様と呼んでいるのね」アンドリアは寂しげにつぶやいた。
「申し訳ありません、アンドリア様」レナは困ったように眉をひそめて謝った。
「いいの。ただ、二人が羨ましいだけ……」アンドリアは寂しそうに微笑んだ。
「銀龍の刻印の皆さんだって、アンドリア様にとても忠実ではありませんか」
「もちろんよ。でも気づいたの……自分のために胸を痛めて、面と向かって怒鳴りつけてくれる友達がいる。それが、こんなに幸せなことだったなんて」
アンドリアは鼻の奥がつんと痛んだ。
レナには、アンドリアがノクスを思い出しているのだと分かった。
「申し訳ありません。私はとうに西城勇様にお仕えすると決めています。二人の主に仕えるつもりはありません。それでも、一人の騎士として、ひとつだけ本音をお話しします、アンドリア様。あなたが顔を上げて突き進むとき、付き従う者たちの身を案じる必要はありません。皆、あなたの背中に憧れ、自分の意志で従っているのです」
レナは微笑み、アンドリアの肩を軽く叩いた。
いかにも羅刹教らしい、率直で豪快な言葉だった。アンドリアの心も少し軽くなった。
ガチャッ――ドイツ人プレイヤーの士官が扉を開けて入ってきた。
レナはたちまち表情を変え、ドイツ人プレイヤーをにらみつけた。
「アンドリア教官、本日の巡回任務を始める時間です」とドイツ人プレイヤーの士官が告げた。
レナは胸を張って顎を上げ、離れた場所から士官とにらみ合った。
そのとき、アンドリアがレナの盾を押し下げた。
「ごめんなさい……もう、みんなを率いて突撃することはできない……。私は弱すぎる。せめて、みんなの命を守るという最低限の責任だけは果たさせて」
アンドリアは涙をこらえながら言った。
「アンドリア……」レナは胸を締めつけられながら、巨大な槍を下ろした。
「大丈夫……」アンドリアは涙を拭い、ドイツ人プレイヤーとともに出ていった。
レナはつらそうに首を振り、西城勇のことを思った。
...
正午。双頭の鷲の旗が林立するプラムス中央要塞。
「疲れたな……もう午前二時過ぎだぞ」と城壁の上にいるドイツ人プレイヤーが愚痴をこぼした。
「もうすぐ終わる。ほら!」仲間がその肩を軽く小突いた。
城壁の下では、五十人のドイツ人プレイヤーが整然と隊列を組み、交代を待っていた。
数人の士官が城壁下の駐屯地で二言三言、言葉を交わすと、画面を開いて軽くタップした。
ブオォ――
城内に低い角笛の音が響き渡った。
城壁上のドイツ人プレイヤーたちは安堵の息をつき、ゆっくりと城壁を降りていった。
「おやすみ。せいぜいしっかり見張ってろよ!」一人のドイツ人プレイヤーが狙撃手をからかった。
「ふん! 明日はお前の番だからな!」狙撃手は鼻で笑った。
東城壁全体に残ったドイツ人プレイヤーは、片手で数えられるほどしかいなかった。
...
「覚えておけ。加奈が攻撃した瞬間、姿が現れる。すぐに行動を始めろ」と雨間刻が告げた。
「集団透明化の効果は、城壁の上へ着くまで持つかどうかぎりぎりよ。失敗は許されない!」キティは厳しい表情で念を押した。
小隊はすぐに姿を消し、一気に前進した。
プラムスの雄大な城壁が、再び目の前に姿を現した。ドイツ人プレイヤーが守る今、今や、その威容には支配者の威圧感まで加わり、見る者を尻込みさせた。
小隊は城壁の下へ到着すると、松美、加奈、雨間刻、寧々、キティ、マイロの順に並んだ。
加奈が指を弾くと、壁面の継ぎ目から透明な氷杭が次々と伸び、階段代わりの足場となった。六人が足を離すたび、氷杭は霧となって消えていった。
六人は忍者さながらに氷杭を足場に壁面を駆け上がった!
「ん?」狙撃手は、胸壁の向こうから緑色のツインテールが現れたことに気づいた。
狙撃手が反応するより早く、松美が背後から口を塞ぎ、首筋へ針を刺して麻酔薬を注入した。
狙撃手はたちまち意識を失って倒れた。松美は慌ててその体を受け止め、縄で縛り上げた。
「急いで! もう時間切れよ!」キティが焦った声を上げた。
マイロがようやく城壁へ足をかけた瞬間、その姿が露わになった!
「ん?!」左右にいた狙撃手たちは、城壁の上で人影が動くのを見つけ、狙撃銃を構えて確認しようとした。
小隊は間一髪で集団透明化をかけ直し、キティもすぐさま狙撃手の姿へ化けた。
その間に、松美は縛り上げた狙撃手を城壁の外へ放り投げた。
一連の動作はほぼ同時に完了した。わずかな綻びを、綱渡りのような連携で辛うじて覆い隠した。
「妙だな……見間違いか? まあいい」
城壁上のドイツ人プレイヤーに見えたのは、舞い上がった砂埃だけだった。仲間も何事もなかったように前を見つめている。
…
「第一段階は成功だ」雨間刻は声を潜めた。
「キティは自分で姿を消してついてこい。残りは城内へ飛び降りる。構えろ……行け!」
雨間刻の号令とともに、小隊は白い軍用テントの裏へ飛び降りた。
わずか十メートル先の練兵場では、大勢のドイツ人プレイヤーが整列して説明を受けていた。城内にはドイツ語の会話が飛び交っている。
「説明は以上だ。城壁へ上がれ!」士官が命じた。
五十人のドイツ人プレイヤーが足並みを揃えて城壁へ向かった。軍靴がザッ、ザッと規則正しい音を立て、一歩踏み出すたびに地面がかすかに震えた。
小隊は初めて間近でドイツ人プレイヤーの統率の取れた動きを間近で目にした。これほどまでに規律が行き届いているとは、本サーバーのいわゆるギルド部隊とはまるで比べものにならなかった。
「ついてこい」雨間刻は人目を忍んで地図を確認し、小隊を率いて南へ進んだ。
小隊は白い軍用テントの間を縫うように進んだ。松美とキティは互いの透明化スキルを寸分の隙もなくつないでいた。
一行は無事に駐屯地を抜け、住宅街へ入った。
ドイツ人プレイヤーの大半は豪邸が並ぶ区域に住んでおり、庶民向けの住宅街からはすっかり人影が消えていた。
小隊はオレンジ色の迷路に放り込まれたかのように、方向感覚を失っていった。
曲がり角へ差しかかった瞬間、先頭の雨間刻が二人のドイツ人初心者と正面からぶつかった。接触によって透明化が解け、六人の姿が一斉に露わになる。
両者は一秒ほど見つめ合った。
「助け――」
ザシュッ。
松美は即座に動き、一人をためらうことなく殺した。
同時にキティももう一人を仕留め、短剣を拭いながら松美へ意地悪く笑いかけた。
「動きが速いわね。師匠に教わったの?」
「一応ね」松美は眉をひそめ、真剣な表情で答えた。
「あの先にある茶色い家だ」雨間刻は小隊を率い、オレンジ色の家並みの中にわずかしかないひときわ目立つ建物へ入った。
小屋の中はひどく散らかっており、床に残された足跡から、すでに誰かが訪れていたことが分かった。
足跡は広間を横切り、台所を抜け、寝室にある本棚の前で途切れていた。
「松美とキティは周囲を警戒しろ」雨間刻が命じると、二人はすぐに散開した。
雨間刻は本棚を押そうとしたが、まるで壁に埋め込まれているかのようにびくともしなかった。
「待って……」加奈は雨間刻を制止し、本棚の二段目にだけ、数冊分の不自然な隙間が空いているのを指さした。
「……暗号?」加奈が眉をひそめた。




